はいこんばんはRM307です。今週の読書回は村上春樹作の短編集「めくらやなぎと眠る女」の感想。
この作品は海外の読者向きに再編成された短編集。いろんな短編集の作品が収められています。
今回はすでに去年読んだ作品は飛ばして、未読だったいくつかの短編を読み感想を書きました。



まずは冒頭のイントロダクション。村上さんは自分にとって長編作品は「挑戦」、短編作品は
「喜び」、また長編作品が植林であるなら短編作品は造園だと語られています。なるほどなぁ。
僕だったら漫画を描く事が前者で、FAを描く事が後者かもしれない。村上さんは短編で実験し
長編に活かしたりしているので、そこもわりと共感できる気がする。同じ事では無いだろうけど。

バースデイ・ガール」は「バースデイ・ストーリーズ」という翻訳本に書き下ろされた短編作品。
読むのはたぶん2回目で、内容を忘れていた。ここでは、「人間っていうのは、何を望んだところで、
どこまでいったところで、自分以外にはなれないものなのね」という一文が登場する。なるほど。
僕は「自分以外の何者かになりたい」と願う事が多いけど、自分から逃げる事はできないのだろう。
最近は、どうあがいてもこの自分と付き合って生きていくしか無いんじゃないかと思っている。
すでに凝り固まった自分自身を溶かす事ができそうにない。それは途方も無く難しい事に感じる。
今の自分自身で居る事で、恐らく近い将来生きる事に限界がくると思うけど、もうどうしようも無い。

」は「回転木馬のデッド・ヒート」の「野球場」に登場する小説をふくらませて書いたもの。
旅行先で食べたかに料理。夜になり気分が悪くなって吐くと、そこには無数の小さな虫がうごめく。
何かが決定的に変わりそうなってしまったのだ。主人公はもう彼女と今後上手くやっていけない、
それどころか自分自身とさえ上手くやっていけないだろうと悟る。シンプルだけど悲しい話。
レーダーホーゼン」に登場する女性の母が、些細なキッカケで夫を激しく憎んでいる事に気づき、
そのまま夫と娘を捨ててしまった事もそうだったけど、たった一日で、ほんのわずかな出来事で
何かが決定的に終わってしまうというのはせつないな。もし自分が大好きな人々から見放される側に
なったりしたらなんて想像するとたまらなく怖い。でも、それは僕の身にだって起こりうる事なのだ。

人喰い猫」は「スプートニクの恋人」にも登場する、死んだ飼い主を食べてしまった猫の話から
夜ふしぎな音楽が聴こえる話までのエピソード。ただ登場人物に関しては大きく変わっている。
主人公は子どもも居る既婚者のデザイナー、恋人のイズミも既婚者。ふたりは不倫関係にあった。
その関係が露呈した後、日本を飛び出してしばらくの間ギリシャへ行ってしまう事にしたのだ。
ふたりはお互いに対し、自分の気持ちをあるがままにしっくりと、十全に伝える事ができた。
驚くくらいよく話が合い、何を話していても楽しかったし、いつまでも話し続ける事ができた。
そういう相手は貴重ですよね。僕もかつて、話している時間が何よりも楽しかった相手が居た。
相手にとっては僕と話す事は僕のように感じる事は無かったと思うけど、とにかく僕は幸せだった。
もうそんな日々はやってこないのだけど。その相手とめぐり逢えたのは本当に奇跡だったなと思う。
作品の感想としては、ただイズミが消えてしまっただけであまり芸が無い気がする、という印象。

以上、感想の内容は薄いけど、読んだ事の無い短編を読めてとても良かったです。それではまた。