はいこんばんはRM307です。今週は読書回、小野不由美作の「風の万里 黎明の空」上巻の感想。
「十二国記」シリーズの四作目、前回が外伝だったので本編としては三番目の話になります。
読むのはたぶん4回目ぐらいかな。アニメも2回ほど観ているので、内容はほとんど覚えている。



【あらすじ】
家が貧しく、奉公に売られた12歳の。しかし奉公先へ向かう際に川に落ち、気づいた時には
虚海に居た。言葉が通じず、何の能力も無い彼女は苦しい数年を過ごすが、ある飛仙に拾われる。
仙籍に入り言葉がわかるようになった鈴だったが、翠微君梨耀による嫌がらせの日々が始まった。
ある時、同じ年頃の娘が景王に即位した事を知る。同じ海客である景王ならば、自分の苦しみを
理解してくれるかも、自分を救い出してくれるかも――鈴は梨耀の元を逃げ出し、慶を目指す。

芳国、峯王仲韃の圧政で虐げられる民を救う為に、諸侯は恵州候月渓の元に集い、王と王后、
峯麟を弑した。そしてその娘、公主の祥瓊は仙籍を剥奪され只人となり、里家に預けられる。
王宮での贅沢な生活しか知らないかつての王女は一向に慣れる事ができず、月渓を呪っていた。
ある時閭胥の沍姆に身元が割れ、以降つらく当たられるようになる。そしてついに里人にも
露見し、祥瓊は処刑されそうになる。しかしすんでのところで州師に救い出された祥瓊は、隣国の
恭に預けられる事になる。だがそこでの下女の生活にも耐えかね、恭国の御物を掠めた彼女も
慶を目指し出奔する。かつて自分が持っていた王宮での暮らしを享受する同じ年頃の女王が憎い、
許せない、ならば簒奪してやろう、月渓に許されたのだから自分にだって許されるはず――と。

慶国、即位やもろもろの祭典は終わっていったが、国府は一向に落ち着く様子を見せなかった。
二つの派閥に分かれて紛糾する朝議、先王の任じた奸吏は専横し罷免する理由も見つからず、
そもそもこちらの世界の事がまだわからない景王陽子は誰の意見を聞けば良いか苦心していた。
そんな中、政治力は無いが王に近しい存在である三公に反逆の疑いが持ち上がる。その裏には
先の偽王に最後まで抵抗し、軍門に降らなかった麦州候浩瀚が関わっていると噂されていた。
彼の処遇に対しても意見は割れる。あまりにもこの世界のものを知らないとわかった陽子は、
街に下りて民と暮らしながら勉強すると決め、里家で遠甫という老人に教えを請う事になった。

どうも短くまとめられなかった。ちなみに漢字以外は何も見ないで書いています。無駄な頑張り。


鈴と祥瓊、生まれも境遇も何もかも違うふたりが、同じ景王に会うという目的の為に慶を目指す。
それもまったく異なる印象、目的を持って。面白いですよね。予想ができずにわくわくしたなぁ。

今回も清秀楽俊の言葉が刺さった。僕も鈴や祥瓊のような愚かなところがあるから耳が痛い。
「自分が可哀そうで泣くのは子どもの涙だ」とか、再読した中高生の頃は身に覚えがあったので
恥ずかしくなったなぁ。今回も清秀の「そうやって、ぽやぽやしたことばっかり考えてるから、
いつまでもガキみたいなんだよな」という言葉に、「申し開きのしようもありません・・・」と
恥じ入った。初めて観た子ども頃はまだ許される部分があったけど、歳をとった今はもう・・・。
清秀は「自分の事を好きじゃないなら他人が嫌うのは当たり前、自分ですら好きになれない人間を
他人に好きになってもらうなんて厚かましい」と言う。僕も厚かましいのかなぁ・・・。でも、
自分を好きになるって難しいよね。僕も何度も挑戦しているけど、未だに上手くできない・・・。
卑屈だと批判される事もあるけど、どうしようも無い。こんな自分を好きになるなんて、とても
恥ずべき事のように感じるのだ。誰かに好きになってもらえないと、価値を信じる事ができない。
僕という存在の許否は他人の評価で成り立っていると思う。でも、それが厚かましいのかなぁ。

清秀はまだ幼いけど、鈴に大きな影響を与えた。そして遠甫や楽俊、采王など、彼女たちは
良い大人に恵まれたよなぁ。楽俊は言わずもがな、采王の鈴への処遇も面白い。彼女だけを
王宮に召し上げずに、しばらく下界で暮らす事を勧める。本当に相手の事をちゃんと見て、
相手の事を考えていないとできないよね。王が一人の民をそれだけ気にかけているのがすごい。
そして結果的にこの処遇が良かったのだけど、慧眼だなぁ。さすが王になるだけの事はある。

そういえば翠微洞で働く人々が王宮に召し上げられた後、一人になった梨耀はどうしたのだろう。
処罰もされたのかな・・・。梨耀についてその後語られる事が無かったのはちょっと残念だった。
作中で、梨耀は先々代の王をよく助け、諌めて疎まれるほどの存在であった事が語られている。
このへんも気になる。「華胥の幽夢」で登場していた記憶は無い。彼女の事も知りたかったな。
それほど王を助けていた彼女が、ああも陰湿になってしまったのはなぜだろうな。歳の所為かな。

歳といえば采王が初めて鈴と会った時に「ずいぶん若い娘さんだこと」と言っていたけど、実際は
鈴の方が長生きしているんじゃなかったっけ・・・wまぁおばあさんだから仕方が無いけど。
この世界には仙籍、神籍があって歳をとらないから、見た目で判断できないのがややこしいな。

見た目で判断できないといえば供王珠晶。12歳で王になり在位90年だから、100歳を超えている。
でも中身はさすがしっかりしている。祥瓊が御物を盗んで出奔した時、哀れんた供麒を叱る。
「嫌だ嫌だって駄々をこねて逃げ出す人間を許すことはね、そういう仕事をきちんと果たしている人に対する侮辱なの。同じように朝から晩まで働いて、盗みも逃げ出しもしなかった人と同じように扱ったら、まっとうな人たちの誠意はどこへ行けばいいの?」
景麒もそうだけど、仁道の生き物である麒麟は大変だよなぁ。哀れまずにはいられないから。
哀れみの対象を向ける相手を考えろと言っても難しいだろうし。と言いつつ、蓬莱へ行った時に
そちらの服を持って帰ってくる延麒には笑った。性向が仁とはいえ、悪い事もできちゃうんだw
そんな麒麟だけど、別に良い感情だけがある生き物という訳でも無いのだよな。陽子と初めて
会った時に、予王と似ている事に辟易したとあって最初読んだ時はちょっと驚いた覚えがある。

予王も可哀そうな人だよな・・・。欲しかったのは穏やかな暮らしで、慎ましやかな幸せで。
月の影 影の海」だったかアニメだったかで、ただの娘に返してくれと景麒に詰め寄る姿が
せつなかった。予王が官に恵まれ、王としての責務を果たす事ができたら良かったのにな・・・。
楽俊が言っていたけど、王や公主は玉座を失えばやり直しはできない。特に王は死に直結する。
でも祥瓊に知らない事はこれから知れば良いと言い、ぜんぜん問題じゃないと言うのが優しい。

アニメでせつなかったところが、固継の里家が妖魔に襲われたシーン。アニメでは陽子が妖魔を
倒したすぐ後に遠甫と話すのだけど、その時後ろで蘭玉たちが殺された子どもたちと対面して
悲しみ泣き叫ぶ声が入っていたと思う。つらかっただろうな・・・。王が登極してからも、まだ
荒廃した地には妖魔が出没するというのが悲しい。ぴたっと居なくなるものだと思っていたから。
王が玉座にいなければ国は荒れる。天災が続く、妖魔が跋扈する。火災や水害で家を失えば、人は冬に生きる術を失う。(中略)夏の気候がましでも、実った麦を蝗が襲えば民は食べるものを失う。
シビアな世界だよなぁ。平和な日本で生きているとどこか遠く感じる飢えや死が身近な存在で。
芳や柳や巧がこれからその荒廃を迎えていくと思うと悲しいな。もうちょっと天帝も生きやすい
世界を作ってくれたら良かったのに・・・。そして慶や戴が救われていきますように、と思う。


以上、やっぱり面白かったです。清秀が亡くなるシーンは悲しかったけど・・・。それではまた。

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