はいこんばんはRM307です。今週は読書回、今回は小野不由美作の「魔性の子」の感想。
十二国記シリーズの実質1作目。ただファンタジー色は強くなく、怪奇、現代ホラー作品です。
読むのは十年以上ぶり2回目。内容をほとんど忘れていたけど、ヘビーだった記憶はあった。

魔性の子 十二国記 0 (新潮文庫)
小野 不由美
新潮社
2012-06-27


【あらすじ】
大学生の広瀬は、教育実習の為に母校を再訪した。そこで一人の不思議な空気をまとった生徒と
出会う。彼の名は高里。担任である広瀬の恩師の後藤によると、彼は問題児だという事だった。
ただ高里自身に問題があるのでは無い。彼は台風の目で、周りの人間が荒れるのだという。
彼をいじめた生徒が突然大怪我をしたり、命を落としたり。生徒たちは言う。「高里は祟る」。
広瀬はそんな高里に自分と同じものを感じて守ろうとするが、祟りはエスカレートしていく。
高里の内なるエゴがそうさせているのか、それとも子どもの頃の「神隠し」が原因なのか――。


終盤以外内容を忘れていたので、新鮮な気持ちで読めた。しかしストーリーは新鮮という言葉が
似つかわしくない、凄惨な内容でびっくりした。高里は祟る、過去に周囲の人間が不審な死を
遂げている。ちょっと不気味だなくらいの気持ちでいたら、高里の為を思って彼を殴った岩木が
誰かも判別できなくなるぐらいに顔がぐちゃぐちゃになって死んだり、それを責めた生徒たちが
屋上から集団自殺をしたり。その後も高里の家族や高里の祟りの事を嗅ぎつけて追い回していた
マスコミたちが獣に食い荒らされたような姿で死んだり、高里たちを非難した広瀬のアパートの
住人たちが火事で焼死したり、ついには高里の高校が倒壊して多くの犠牲者が出たり・・・。
ここまでひどい事が起きるのか・・・と小説を読んでいて久しぶりに大きな衝撃を受けた。
今回読み返すまで、アニメの「十二国記」は杉本が居るからこの作品のアニメ化はできないな、
とぼんやり考えていたけど、杉本が居なくてもこれはアニメにできないな・・・恐ろしすぎる。

何が悲しいって、あんなに良い子だった泰麒(高里)が、何一つ悪い事をしていないのに友人や
家族、そして世間の人々から糾弾されていた事。学校では腫れ物に触るような扱いを受けて、
家でも家族から存在を否定され、祟りが広まってからは世間の人々から悪意を向けられて・・・。
特に母親の豹変が一番悲しかったな。神隠しの前ではあんなに高里の事を大切に思っていて、
泰麒も会いたいと泣いていたくらいだったのに。高里を殺したいぐらい呪うようになるなんて。
僕も、僕の母親はこの世界で唯一僕を受け入れてくれる存在なので、もしも高里の母親のように
憎み疎まれるようになったりしたら、もう生きていけないくらいつらいだろうな。本当の孤独。
また、自分からは話さなかったので誰も高里の事を理解していなかったけど、ココロの中では
悲しみ、苦しみ、涙を流していた事を思うと・・・。どうしてこんなにつらい思いをしないと
いけなかったんだ、と無性に悔しい。慈悲の生き物である彼にはつらすぎる運命だよ・・・。
周りで誰かが傷つくたびに、一人死ぬたびに、自分も深く傷つく高里が可哀そうだった・・・。
そして、高里の家が留守みたいで弟も父親も学校や職場を無断で休んでいる、という会話では
思わずああ・・・とため息と、読んでいて若干めまいがした。ついに家族までが犠牲に・・・。
何も知らない野次馬の「親まで祟り殺しやがって!」という罵声が、今回一番つらかったかも。

でも正直――これを言うとあーるえむ君性格悪いなと思われそうだけど(いや今さらか)――、
高里の母親や、広瀬のアパートの住人たち、ハイエナのようなマスコミの人間たちが無残に
殺されたところは「あー良かった」と結構すっきりしてしまった。もちろんそれによって深く
ココロを痛めた高里は可哀そうだけど、恐怖と苦痛の死を遂げてしかるべきだと思ったのだ。
高校が倒壊して校長や教頭が死んだのも良かったけど、無関係な生徒たちも巻き込まれたのは
ちょっと悲しかったかな。でも正直なところ、スケールの大きさに少しぞくぞくしてしまった。

麒麟は血の穢れで弱る仁の生き物なので、蓬莱では長く生きられないとどこかに書いてあった。
高里は肉や魚を食べながらも、よく高校生まで生き続ける事ができたな。食べられないものは
無いと言っていたし、胎果の殻の姿では麒麟とは違う身体の作りになるのかな?あるいはまだ
この頃はそこまで麒麟の設定が固まっていなかったのかもしれないけど。ちょっと謎ですね。
それとなぜ泰麒の使令たちは、泰麒が被害に遭ってすぐでは無く、しばらく経ってから報復
したのだろう?廉麟の使令はすぐに攻撃をしたよね?どんな違いがあったのかわからない。
泰麒の身を守る存在なのであれば、すぐに姿を現して相手に反撃するべきだと思うんだけど。

しかしこれが第一作という事に本当にびっくりする。リアルタイムで読んでいた人は疑問だらけ
だったんじゃないかな。たとえば麒麟が王以外に膝を折らない伏線は作中で説明されていない。
ただ広瀬と読者に謎を残しただけ。高里が思い出した戴極国や蓬盧宮という十二国のワードも、
直接伏線や謎を解くキーにはなっていないし。いずれもこの作品だけでは回収されない部分。
読者にもちゃんと説明しない、本当に十二国の世界から帰ってきた高里にしか意味がわからない
作りになっているのがめちゃくちゃすごい。商業作品でこんな事をやっちゃえるんだな・・・。
当時は読者からどういう評価を受けていたのだろうな。まとめているサイトとか無いかな?
「未回収だけどこれは伏線だったのか?」という疑問点とどう向き合っていたのか気になる。

あと今回初めてWikipediaのページを開いたのだけど、十二国記シリーズを書く予定があって
この作品が書かれた訳では無く、十二国の設定はただこの作品の為だけに考えられたらしい!
じゃあ余計に作中でぜんぶ説明するべきじゃん!それをしないってものすごい勇気じゃない?
もしかしたら十二国記シリーズは世に出なかった可能性もあって、その場合はただただ読者に
謎を残しただけで終わった訳で、ますますそんな事をできるなんてすごいな・・・と驚いた。
ある意味不死鳥先生と似ているタイプなのかも。不死鳥先生の構築する世界観もすごかった。

他にも上手いなぁと思ったところは、人は汚い生き物だ、エゴは醜いというテーマが描かれ、
てっきり高里にも適用されるものだと思って読んでいたら、高里は麒麟であり人では無かった、
という流れ。ここも初見だと見破れない気がする。ちょっとずるいような気もするけど・・・w

ただ違和感のあるところもあって、たとえば理科室のメンバーの岩木が死んだ後も、メンバーが
集って岩木の軽口を叩いたり談笑できたりする事。高校生を子ども扱いしている訳では無いけど、
普通はもっとショックを受けそうなものじゃない?見知った顔が突然、しかもあんなかたちで
死んだりしたら一生物のトラウマのような気がするけど・・・。屋上からの集団自殺後も同様。
鋼メンタルだ。まぁ創作だから良いんだけど、ちょっとリアルじゃないように感じてしまった。

でも橋上は良いな。高里の元に殺到する逆上した生徒たちを守るシーンはカッコ良かった。
あと十時先生。事情を知っていながら自分の部屋に広瀬と高里をかくまってくれたのがすごい。
もしバレたら自分も世間から非難されるかもしれないのに、勇気があるなぁ。僕にはできない。
後藤先生も好き。こういう大人って良いよなぁ。これからも広瀬との交流が続いていくと良いな。
ちなみにこの十時先生、養護教諭だから女性だと思っていたら、男性でちょっとがっかりしたw
ずっと敬語だったし、最後になって「彼」って書いてあるんだもの。勘違いしちゃったよ!w

後藤先生の広瀬への言葉はぐさぐさ刺さったなぁ。こことラストが僕にとって重かったのだ。
現実世界に馴染めず、広瀬が帰りたがっていた夢の中の世界。後藤はそれをおとぎ話だと言う。
誰でもこの世界から逃げたい、自分の為の世界へ戻りたいと思う。でもそんなものは無いのだと
はっきり否定する。人は現実の中で生きていかないといけない、どこかで折り合いをつけないと
いけない、いつかは切り捨てないといけないのだと広瀬を諭す。「それは広瀬にとって恐ろしい
科白だった」という地の文があるけど、それは僕にとっても聞きたくない、耳の痛い言葉だ。
僕もネットの世界に入り浸り、重きを置いているのは、現実世界から逃げる為でもあるからね。
不覚にも涙を流す広瀬がせつない。でも、後藤先生の「広瀬。俺たちを拒まないでくれ」という
セリフは良いなぁ。広瀬の事を大切に思っているんだよね。でも、やっぱりその言葉は刺さる。

その後、高里の過去が明らかになりそうになっても、広瀬は彼にそれを伝える事ができなかった。
そして伝えた後も、十二国の世界へ戻ろうとした高里を前に自分が追い詰められているような
感覚がしたり、自分が置いていかれる不安から引き止めたりしようとするところが悲しいなぁ。
「俺を置いていくのか」と高里にすがる広瀬の姿を見るのも、覚えてはいたけどつらかった。
高里がいくら迫害されようと、日本中が敵だらけになろうと、彼を守ってきた。でも最後に、
彼が選ばれ、自分が選ばれなかった時、彼だけが戻り、自分だけが戻れないとわかった時、
汚いエゴが表出した。なんて悲しいのだろう。最後の最後に回収されてしまうのがキツい。
広瀬もつらいだろうけど、高里もとてもつらいだろうなぁ・・・。唯一の理解者だったから。
でも文中に汚いと書いてあるけど、それが人なんだ・・・広瀬を責める事はできないよ・・・。
広瀬にとっても高里は唯一の理解者だと思っていたのだ。どちらの気持ちも考えると・・・。
何となくは覚えていたけど、ここまで痛みを伴うシーンだとは思わなかったな。苦しかった。

一番好きなシーンは、広瀬と高里がふたりでロライマ山での隠遁生活の計画を練るところ。
どこかで夢物語だとわかりながら、幸せそうに想像している様子がとても良く、そしてせつない。
ラストシーンで、広瀬の耳に高里の「――山に……ってください」という叫びが聴こえる。
そこで広瀬の足取りがたしかになるのも良い。広瀬はロライマ山へ行く事ができたのだろうか。

メディアに槍玉に挙げられ、広瀬はその後どういう人生を歩んだのだろうととても気になる。
大学には戻れたのか、それとも辞めて、高里の考えていたような生活を送ったのだろうか。
とてもじゃないけど平穏無事に元の生活に戻れたとは思えない。今度は孤独な戦いだな・・・。
隠遁生活を送っているのか、それとも幸せに生きる事ができたのだろうか。知りたいな・・・。
かつてみた甘い夢の世界に帰りたいと望んでいた広瀬が、この現実世界でたしかなものを得て、
前向きに生きる事ができていますように。それは広瀬に自分自身を重ねている僕の祈りなのだ。
本当に幸せでいて欲しいと思う。それが、僕を含めた異端者たちの希望にもなっているはず。

僕自身も、いつか自分の幸せをつかむ事ができるようになるのだろうか。見通しは立たない。
それでも、後藤先生の言うように現実世界で生きていくしかないのだ・・・しんどいなぁ・・・。
もう生きるのがしんどい・・・明日さえも生きたくない。あと何十年これが続くんだろう・・・。
高里のように別世界には戻れない。広瀬のように前にも進めない。僕はどこへも行けない・・・。


以上、内容を忘れていた事もあって、シリーズの中では一番の衝撃だった。面白かったです。
しかし王が蝕で渡るとここまでの被害が出るものだとは・・・。でも、こちらを先に読んだ事で
次回の「黄昏の岸 暁の天」をより理解しやすくなったと思うので良かった。それではまた。

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