はいこんばんはRM307です。読書回の今週は小野不由美作「黄昏の岸 暁の天」下巻の感想。
上巻同様、読むのは十代の頃以来でたぶん2、3回目。なので細かいところを結構忘れていた。
上巻の感想http://rm307.blog.jp/archives/81736341.html



【あらすじ】
慶に転がり込んできた李斎の頼みを受け、泰麒の捜索をできる限り協力すると約束した陽子は、
延王尚隆ら、十二国のうち六国の王と麒麟の力を借り、蓬莱と崑崙を捜し始めた。しかし
一向に麒麟の気配は感じられない。そんな中、廉麟の使令が良くないものの存在を感じ取る。
蓬莱に居るはずの無い強大な妖力の持ち主、泰麒の使令の饕餮、傲濫だ。泰麒はここに居る!
しかし角を失った泰麒はもはや麒麟とは呼べず、麒麟でないなら、蝕で十二国に渡れない――。


短い話だったという事もあるけど、捜索が進展する後半の展開はとても面白く、一気に読めた。
あまりキャラの心象に触れず、ずいぶん急に展開が転がっていくなと少しびっくりもしたけど。
伝説の西王母に会い泰麒が目を覚ますまで、もっとじっくり書かれても良さそうなものだけど。

碧霞玄君玉葉に伺いを立てるシーンなど、法の裏をかくように、天の意向に触れないように
するにはどうすれば良いか考えたり質問したりするところが好き。大昔の中国のような世界の話
なのに、明らかに自動的に発動するシステムが常に働いているのが面白い。神の箱庭世界だな。
作中でも書かれていたけど、詭弁のように感じる。陽子と同様に、僕も天意に不信感を抱いた。
上巻の感想でも書いたけど、天命をもって玉座に就いた王が非道な振る舞いをすれば、それは
失道というかたちで天帝の裁きが下される。しかし天命無き偽王に裁きは下らない。王と麒麟を
管理するだけじゃなく、悪人にも天罰を与えて欲しい。下巻ではそれを李斎も訴えていた。
悲痛な叫びにこちらも胸が痛かった。祈る事しかできず、死んでいった民の事も思うと・・・。

西王母が阿選の事を知っていたのもちょっといらっとするな。知っていても何もする事は無い。
玉葉も李斎の事を、昇山した事を知っていた。こちらも阿選の事を知っていただろう・・・。
昇山というシステムについての疑問もよくわかる。騎獣で雲海の上を行けば簡単に着けるのに、
どうしてあんなに危険な黄海の旅をしないといけないのだろう?それによって王になる人物が
命を落とす事もあるのに。他の昇山者、優秀な人物だってたくさん命を落としたりするのに。
麒麟がはっきりとした王気に向かってまっすぐ会いに行ける仕組みの方が絶対良いよね・・・。
李斎も言っているけど、何の為に民にこれだけ高い代償を求めるのだろう。わからない・・・。

天帝や西王母の目的って何だろうな?このままじゃ戴は滅びるかもしれなかったのに、戴に対し
何もしていなかったし、目の前の泰麒が命を落としそうな時も一度は見捨てようとしていた。
神は人と関わらないようにしているのはわかるけど、今回は管理する世界の国の滅亡だよ?
戴が滅んだらどうしていたのだろう?それでも良かったのかな?じゃあ何の為に王と麒麟という
システムを維持し続けている?民の為になる王を選び、国を治めさせている?気になるなぁ。
それともシステムが残っているだけで、天帝の意志というものはもう存在しないのか・・・。
このへんもいつか語られる事があるのかなぁ。すごく知りたいけど、公開される事は無さそう。

あと以前も読んだのに今回初めて知ったんだけど、氾王って男性だったんだね・・・!w長身が
男としか思えないとは書いてあったんだけど、昔の僕は男性に見える女性だと思っていた。
だって女性の格好をしているんだもの。十代の頃の世間知らずな僕は、男性でそんな服装が
好きな人が居るとは知らなかったのだ。十年以上経って初めて知る事実に結構驚いた・・・w
氾王に対し、目線のやり場に困ったり、目をぱちくりさせたりする陽子の反応が面白かったw
氾麟を見てぽかんとする景麒も珍しくて良かった。もしかして予王の姿に見えたりしたのかな。
金波宮に滞在する事になり、氾王が趣味に合うように勝手に模様替えをしたり、世話をする官の
選り好みが激しかったり、氾麟は氾麟で変装して宮殿内を歩き回ったり・・・厄介なふたりだw
祥瓊は疲れただろうなw自分の選んだ服を絶対に着せてやる!と腕まくりしていたところも好き。

筆で字を書くのに慣れていない陽子が氾王からの親書に返事を書く時に、祥瓊の注文が多くて
手厳しいのも面白かった。「そのへんにある紙に書き殴ったら、塵芥みたいなものでしょ」w
陽子が李斎に協力する事を約束した時に、気になった鈴たちが起きて待っていた時の会話も、
「だから、陽子は慶を見捨てるほど莫迦じゃないわ、って言ったのに」→「私にはそれほど
利口には見えなかったの」と遠慮が無いw身分が違っても何でも言い合える仲で好きだなぁ。
この時、遠甫や浩瀚が起きていたのも好きなところ。本当に良い人たちにめぐり逢えて良かった。
虎嘯や遠甫や桂桂が身近なところに住んでいるのも良いよね。しかもいっしょに!暖かいなぁ。

けれど気安い風潮、信頼のおける官だけが王の身近に居られる事を快く思わない人間も居て。
内宰と閽人の愚かな発言。こういう人間、どこにでも居るんだな・・・と残念な気持ちになった。
「他人の内実は推し量るしかない」という考えは、たしか上巻の李斎の回想でも登場したな。
ここで陽子側に持ってくるのが上手いなぁ。しかし陽子、冗祐を手放していたのは良くないぞ!
何か理由があったのかな。賓満が居ない状態でどうやってストレスを発散していたんだろうw
陽子を襲撃した内宰たちにも一理あると思った陽子に対し、浩瀚がさらりと、長々と(笑)
説明するシーンも好き。「剣を持って人を襲うと決めた時点で有罪、他者を裁く資格は無い」、
「愚かな差別を口にする事を恥じない者に道の何たるかがわかるはずがない」、「報われれば
道を守る事ができるけど報われなければそれができない、そんな人間を信用できるはずがない」。
さすがだなぁ。当たり前の事なんだけど、自分の存在に胸を張れない時は自信が無くなるよね。
そんな陽子を慰めるでも無く、淡々と道理を説く姿がカッコ良かった。憧れる大人の姿だ・・・。
あと「実状を知らない者に批判する資格は無い、実状を知ろうとするより先に憶測で罪を作り、
その罪を元に他者を裁く事に疑問を覚えない者に、いかなる権限も与える訳にはいかない」
という部分もなるほどと思った。今の日本にもこうやって私刑を行おうとする人が多い印象だ。
Twitterなどで騒いでいる人々を見ているとそう感じる。自分も気をつけないといけないな。

年長者から諭される事が多い陽子だけど、もちろん言うまでも無く陽子だってとてもすごい。
慶の復興もまだなのに戴を救っている場合かと言われるかもしれない、でも戴の民を救う事は、
もし自分が斃れた時、道を誤った時に慶の民が救われる前例になると言って周りを唖然とさせる。
やっぱり王の資質があるなぁと深くうなずいてしまうな。陽子が好きなので嬉しくなるシーン。
この時の尚隆との駆け引きも、最初ははらはらするけど面白い。周りもはらはらしただろうなw
最後に泰麒捜索の采配を請け負った尚隆に、陽子が「この借りは必ず返す、尚隆が斃れた時に、
雁が騒乱に巻き込まれる頃までには慶を立て直しておくので、安心して頼ってください」と
言ったのも面白い。ホント、ちょっと前まで女子高生をやっていたなんて信じられないなw
泰麒を捜す事になりかなり負担が増えたのに、当然の事のような顔をして尽力するのもえらい。

他の国の王や麒麟たちも、在位が長い立派な王、朝廷が多かったとはいえ忙しかっただろうに、
長く国を空けて一生懸命泰麒を捜してくれて嬉しかったな。特に蓬莱、崑崙を行き来して直接
捜してくれた麒麟たち。傲濫の気配、その恐怖と嫌悪が感じられるようになってからの捜索が、
あんなに身体に悪くつらいものだったとは・・・。今回読み返して廉麟がとても好きになった。
また泰麒と再会して欲しいなぁ・・・。いつか泰麒と驍宗が無事に王宮に戻り、各国へこの時の
感謝を伝えに行く事があれば良いなと思う。廉麟の話は「華胥の幽夢」でも読めるので楽しみ。

もう一つの驚きは、「戴史乍書」に書かれた一文。阿選が「兵を能くして幻術に通ず」とある。
なぜか突然阿選に寝返る人間が居るのは、幻術の所為だったのか・・・?!知らなかった!
前回も書いたかもしれないけど、驍宗が崩御していないのに戴に妖魔が跋扈しているのも
不思議だ。下巻でも「王が無事なら妖魔は現れるはずがない」と書いてあった。もしかして、
これも阿選の幻術の一つなのか・・・?いやさすがに妖魔を呼び寄せる事はできないか・・・。
他の話にもあったけど、妖魔は自分たちの事を人に話したがらないし、人には惑わされないか。
そんな妖魔、使令が、六太の呼びかけに対して「是」と答えるシーンは何だかどきどきした。
少し沈黙するのが良い。自分たちからは積極的に答えたり関わったりするつもりは無いけど、
一応考えて言う事を聞いてくれはするんだな。妖魔の存在も不思議だ。もっと知りたいなぁ。

そういえば妖魔が麒麟の使令に下った後、麒麟の身体欲しさに契約を破ったり、他の麒麟を
襲ったりする事は無いのだろうかと思っていたのだけど、使令との契約は王と麒麟の契約に
匹敵するらしい。そこまで絆が深いものなのだな。なら、傲濫も泰麒と離れるのはつらかろう。
いずれ清められた汕子や傲濫が泰麒の元へ帰る事ができるのだろうか・・・そうなって欲しい。
やり方は悪かったけど、あんなに身を削って泰麒を長い間守ってきたのだし、麒麟の力を失った
泰麒の支えにもなって欲しいし。本当に泰麒と李斎は戴に戻って大丈夫なのだろうか・・・。
慶の波乱の種子になる訳にはいかないし、自分たちの手で支えなくてはいけない。わかるけど、
やっぱりもうちょっと慶で養生して欲しかったなぁ。他国の人間は何もしてあげられないのだと
しても、先行きが不安すぎる。このまま戴に戻っても無事でいられるとはとても思えない・・・。

王気が見えないから驍宗を探せない、使令もおらず転変して逃げる事もできず身を守る術も無い。
玉葉も言っていたけど、そんな状態でどうするのだろうな・・・。あと玉葉が言っていた事で
もう一つ気になるところ、角を失い気脈から切り離された麒麟が生き延びられる年数はわずか、
との事だったけど、十二国の世界に戻れば大丈夫なんだよね・・・?まだ生きられる・・・?
せっかく戻ってこられたのに、あと数年しか生きられないなんて事は無いよね・・・心配だ。
もうお肉を食べないといけない事も無いし、ゆっくりでも角が再生していって欲しい・・・。
でも、何度もはっきりと「失った」と書かれているから、もう再生する事は無いのかな・・・。
あと日本に居る時の泰麒が自身の喪失に気づかなかったのは、やっぱり胎果だったからなんだね。
十二国の世界に戻り、本来の麒麟の身体に戻った途端に意識を失ってしまったのが悲しかった。
少しの血の穢れでも気分が悪くなる生き物なのに、これだけの怨誼は相当つらかっただろうな。

本当に泰麒が不憫だ。李斎の言うように、何も罪を犯してないのに。日本でだってそうだった。
泰麒自身が悪い訳では無いのに、優しい仁の生き物が、あんなに疎まれて、恨まれて・・・。
一番悲しかったのは、「魔性の子」も読んで、この時のつらい経験を泰麒はきっとこの先誰にも
話さず、独りで抱え込むのだろうな・・・という事。独りで、死んでいった命を背負って生きて
いくのだと思うと・・・。それでも笑って前を向き、戴に戻った泰麒はすごすぎるな・・・。
同じ表現になってしまうけど、本当に本当に、泰麒が幸せに生きられるようになって欲しい。

泰麒が戻って目を覚ました時、あの小さい麒麟はもう居ないのだ、と景麒や李斎が喪失感を
覚えたのもせつなかった。これからその失われた時間を埋めていく事ができたら良いんだけど。
みすみす死なせるようなものだと思いながら泰麒と李斎を見送った陽子もつらかっただろうな。
ふたりともせっかく命を救う事ができたのに、もしかしたらこれが今生の別れかもしれない。
でも無力な彼らに対して、戴に対して何もしてあげられない。覿面の罪って厄介だな・・・。
一日でも早く吉報が金波宮に届きますように・・・。ラストの六太との会話も印象的で好き。
「……まず自分からなんだよな」
(中略)
「まず自分がしっかり立てないと、人を助けることもできないんだな、と思って」
 陽子が言うと、そうでもないぜ、と六太は窓に額を寄せる。
「人を助けることで、自分が立てるってこともあるからさ」
僕も誰かを助ける事で、自分もしっかり立てるようになったら良いな・・・と思う。難しいけど。

あと遵帝の故事について六太が話した際、以前国氏が変わった例として代王の話をされていた。
失道で麒麟を失い逆上し、蓬山に乱入してすべての女仙を虐殺、捨身木に火をかけたという。
めちゃくちゃだな!wこの代王は遵帝のようにその場で死んだのだろうか。それとも玉葉に
倒されたとか?いろいろと気になる。十二国記の世界の話、すべてを知る事ができたらなぁ。


以上、面白かったです。ここから続きが読めるまで、読者は19年も待たされたのだよなぁw
ホント待たせすぎだよ・・・!早く続きを読みたいな。不安もあるけど・・・。それではまた。

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