はいこんばんはRM307です。読書回の今週は小野不由美作の「白銀の墟 玄の月」1巻の感想。
十二国記シリーズの第9作目、去年18年ぶりに本編の続きが描かれた待望の最新作です。全4巻。
もともとこの作品を読む為に去年からシリーズを読み返していたのでした。ようやく読める!

【あらすじ】
内乱の鎮圧に向かった泰王驍宗の行方がわからなくなり、王宮では蝕により泰麒も姿を消した。
それから六年。戴国は偽王阿選により荒廃の一途をたどっていた。驍宗の麾下や、阿選に反抗の
意のある者はことごとく誅伐され、誰も声を上げられなくなったが、民はひたすら祈り続けた。
そこに麒麟の力を失った泰麒と片腕を失った李斎が戻る。無力な彼らは戴を救えるのか――。


まだそこまで大きく話が動く訳では無いんだけど、やっぱりとても面白くてするする読めた。
本筋も好きなんだけど、中でも好きなのは地図と兵力に関するくだり。そうか、単純に騎獣で
ひとっ飛びすれば良いと思っていたけど、この世界には精巧な地図は無いから街道を見ながら
行かないといけないのか。そして戦場の無機的な力学も衝撃だった。今まで触れてきた創作で
起きていた逆転劇は奇跡で、現実では無勢で多勢を倒す事はほとんど不可能に近いのか・・・。
正攻法では阿選を落とせそうにない・・・。それを知ったら、僕ならすぐに諦めていたかも。
このへんがしっかり語られるのはさすがだなぁ。最近流行りの異世界転生系の素人小説なら、
また僕でも、きっと何も疑問に感じず可能なものとして軽く考えて処理していただろうから。
負傷の影響に関する話、項梁の経験談も面白かった。味方の矢だったのかw災難だな・・・w

華胥の幽夢」の「冬栄」で、泰麒が驍宗から子馬を賜る事が描かれていたけど、その子馬を
泰麒に引き合わせたのが項梁だったんだな。そしてその翌日に「騒乱あり」の報が届く・・・。
ここが幸せだった最後の日になったのか・・・その事実を知るともっとせつなく読める・・・。
ただ巖趙が生きていたのは良かった。英章や、他の驍宗の麾下たちも生きていて欲しい・・・。

園糸の項梁に対する気持ちは痛いほどわかった。「そのとき」がきたシーンでは、僕のココロも
冷えるようだった。僕も必ず「いつか別れる時がくる」と思いながら相手と交流していたので。
これで唐突に袂を分かち、園糸の描写が無くなったら嫌だなと思っていたから、ちゃんと項梁と
別れるシーンがあって良かった。本当にすべてが解決して、いつの日か再会できますように。

瑞雲観の生き残り、去思も本当につらい日々だったな・・・。丹薬の製造の為に、忍びながら
絶えず渡り歩いていた六年間、材料を守って死んでいった同輩。泰麒も蓬莱で苦しみ、記憶が
戻ってからはよりつらい思いをしてきたから責めないでと思うけど、去思の気持ちもわかる。

神仙が存在し、一介の民でも仙籍に入れば不老を得る事ができるこの十二国の世界において、
六年というと短く感じられるけど、たくさんの命が失われてしまった、もう取り返しのつかない
と改めて感じさせられた。4歳の娘を失った園糸や、夫と子どもを妖魔に殺され、家には今も
生々しい血痕や爪痕が残っている為に夜しか活動できない妻など、読んでいてつらかった。
本当だったら、新王が践祚しこれから家族との明るい未来が待っていたはずなのに、「こんな
生など早く終わりになれば良い」と思いながら苦しい生を送らないといけないのは悲しすぎる。
阿選が奪っていったものはとても大きい。そしてその残虐なやり方は改めて異常だと感じる。

黄昏の岸 暁の天」上巻の感想で、どうしてこんな非道を行う阿選に従う者が居るのだろうと
書いた。下巻にも記されていた「幻術」というワードから、阿選がそれらを洗脳しているのだと
思っていたけど、それだけじゃなかったのだな。純粋に阿選が王に足る存在だと思っていて、
心酔している者も多かったのか。大逆を犯したという認識が足りないのが残念に思うな・・・。
午月のように考える人間は稀なのだろうか。たとえ好きな相手、信奉している相手でも、何でも
従事したり擁護したりするのでは無く、罪は罪と認め、その事実と向き合わないといけない。
ここにもそれができない人が多いのだな・・・。最近の新都社を見ていてもそう思ったけど。

泰麒が「天がお命じなる」と言って一行を離れて王宮に向かった時、阿選が新王だと嘘をつく、
あるいは阿選に叩頭するとは考えたけど、天が命じたというのも嘘だったのは読めなかった!
天が助けてくれたのか、泰麒に麒麟の力が戻ってきたのか?と嬉しかったのに・・・!しかし
泰麒は大胆だなぁ・・・。民を救う為とはいえ、あっさり殺される事も十分考えられたのに。
まぁでも冒頭で泰麒が言ったように、泰麒を切り捨ててしまえば数年で戴の窮状は是正される
かもしれないのだけど。その前に、戴の民が冬を乗り越えられないかもしれないけど・・・。
虜囚のように拘禁された時には小さく笑う余裕もあって、度胸があるなぁ・・・さすが戴の民。
しかし書かれているように、この嘘がいつまでも通じるはずは無い。泰麒はどうするつもりだ?

李斎の「自分の期待に裏切られた」感もよくわかる。僕だったらこの裏切られた感を誤認して、
相手への不信感が募ってしまいそうだけど、きちんと自覚できる李斎は当たり前だけどさすが。
前述の地図の会話もそうだけど、李斎と泰麒のやりとりが好きなので早くまた再会して欲しい。
そんなふたりを尻目に、項梁や去思たちは泰麒に話しかけるのが畏れ多くて。まぁ当然だけど。
鄷都と三人の時の「自分だけではないと分かって安心しました」という会話が微笑ましかった。
たしかに鄷都は初対面の時からわりと気安くて、物怖じしなくてすごいなぁと思っていたw

初めて知った情報では、国庫と卵果について。国帑は物資やお金の出入りを記録した帳簿や証書
なのか!国庫という倉庫に仕舞われている物だと思っていた。それなら一人でも持ち出せるな。
面白い仕組みだ。卵果は、両親が死ねば孵らず落ちて砕けてしまうのだな・・・とても悲しい。
落ちた卵果の中身、生き物の残骸の描写が少し生々しくて怖かった。これは見る方もつらいな。
あと蓬莱と十二国の世界は暦が一月ズレている事。うろ覚えだけど、以前も語られていたっけ?
何か意味があるのか、過去作品の描写に関して辻褄合わせをする必要があったとかなのかな?

轍囲の攻防戦の内容を知れたのも嬉しかった。一切の攻撃を許されず、楯を構えてひたすら民の
攻撃を受ける、民を攻撃したら厳罰に処される・・・深手を負ったり、命を落としたりした兵も
居たのだからお互いの本気が伝わる。理は轍囲の民にある、しかし見逃せば国の根幹に関わり、
その為には轍囲を攻めざるを得ず、納税は完遂しなければならない。よく考えられているなぁ。
最終的に飢える覚悟をして、それでも驍宗の意を汲んで税の徴収に応じた轍囲の民はすごいな。
自腹で支援した驍宗たちもさすがだ。昔話だけど驍宗と轍囲の絆の深さがしっかりと伝わった。

平和な日本で暮らしている僕にはわからないけど、乏しい食糧の事を考え、日々追い立てられる
ように不安と焦燥感を抱きながら生きなくてはいけないのは、身体もココロも苦しいだろう。
冬まではわずかな時間しか無い、それまでに戴は救われるのだろうか・・・しかしどうやって?
驍宗は本当に身を潜めているだけなのか?他国に助力を求める事も可能だと思うんだけど、
六年も沈黙しているのは何か理由があるのか?気になるな・・・。そして善人に見えた、かつて
泰麒を世話していた淶和の上官立昌への返答、善意からでは無いようで泰麒の身が心配・・・。

さらに明らかにおかしい朝廷の様子。誰が何をしているかもわからず、命令の意図も不明で、
その命令すらも放置されたり結果を受け取る者が居なくなったりする・・・ふしぎだなぁ。
この混乱こそが阿選の目的なのだろうか?それともそれすらも阿選はどうでも良いのだろうか?
とても不可解だけど、平仲の一連の説明は面白く興味を惹かれた。早く理由を知りたいな!


展開がまったく予想できないけど、2巻も楽しみ。全員無事でありますように。それではまた。

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