金魚ちゃんの週末インプット★

読んだ本や漫画、観た映画の感想を書いたり作った料理の記録をしたりするブログ。

【読書感想】2020年4月4日 黄昏の岸 暁の天 上巻

はいこんばんはRM307です。読書回の今週は小野不由美作「黄昏の岸 暁の天」上巻の感想。
十二国記シリーズの第6作目、番外編では無く続編で、前回感想を書いた「魔性の子」の顛末を
十二国の世界側から描いた作品。読むのは十代の頃以来でたぶん2、3回目だと思う。この作品を
読むにはヘビーな内容の「魔性の子」も読まないといけない為、なかなか読み返せなかった。
図書館には加筆修正された新文庫版もあるけど、今週は忙しくて読む時間、長い感想を書く
時間が無かったので、持っていた上下巻に別れている講談社ホワイトハート版を読みました。



【あらすじ】
陽子が景王として登極してから二年が経った。まだ安定にはほど遠い慶東国の王宮の金波宮に、
ある日傷だらけの騎獣に乗った女性が現れた。自分も大怪我をしている彼女は劉李斎と名乗る。
戴極国の将軍の李斎は、陽子に戴を救って欲しいと懇願する。彼女の口から語られる戴の現状は
凄まじいものだった。しかし兵を向ける事はできず、慶には助けるだけの余裕が無かった――。


部分的に覚えていた箇所はあったけど、ほとんど内容を忘れていた為、新鮮な気持ちで読めた。
単に泰王驍宗、泰麒の行方がわからなくなっただけでは無く、ここまで込み入った事情があり、
偽王(正確には偽王じゃないけど便宜的に)阿選の振る舞いがここまでひどかったとは・・・。
驍宗と阿選の水面下での読み合い、これも事実だったのかな。考え抜かれていて面白いなぁ。

王を目指し、自分と並び立っていた驍宗が選ばれ、自分は選ばれなかった阿選。驍宗から玉座を
掠め取った彼はしかし、王になる事が目的にはならなかったようだ。戴を滅ぼしたいのかな。
自分を王に選ばなかったこの国など、存在しているだけでも腹立たしい・・・みたいな気持ち?
でも徹底的に滅ぼそうとするほどの意志も感じられない。何もかもがどうでも良いのかな。
怠惰な何かを感じる。どちらにしても、ひどく厄介な状況には変わりない。天命をもって玉座に
就いた王が非道な振る舞いをすれば、それは失道というかたちで天帝の裁きが下される。
しかし天命無き偽王に裁きは下らない。何だかなぁという感じだ。本当に天帝が民を想うなら、
王と麒麟を管理するだけじゃなく、こういう悪人に天罰を与えて欲しい、と思っちゃうよね。
このまま放っておいたら本当に戴が滅んでしまうよ。それは天帝の意志に反すると思うけど。
そのへんのシステムについては下巻に出てくるので、その時にまた語りたくなるかもしれない。

しかし、驍宗も泰麒も亡くなっていないから次の王も立たないし次の泰果も実らないという状況、
王と麒麟が同時に居なくなり冢宰も重症で、朝廷を束ねる者が誰も居ないという前例の無い状況
初めて読んだ時も思ったけど、どちらもめちゃくちゃ良くできているなぁ・・・すごく面白い。
本当に戴はどうする事もできない窮地に陥った。これも阿選の狙い通りだったのだろうか?

泰麒を殺そうとした阿選は、もし殺した後はどう動くつもりだったのだろう?泰麒が鳴蝕を
起こす事も予想していたとは思えないんだけど。混乱に乗じて白雉が鳴いた、驍宗が死んだと
嘘をついた訳だけど、鳴蝕の被害が無かったらこんなに上手く動けなかったんじゃないかと。
このへんはもしかしたら新作を読むと解決するのかもしれないな。読んだ時にまた触れるかも。

何より気になるのは、こんなに無茶苦茶な所業を行う彼に従う人間たちが居る事。戴は空位が
長く続いた。荒廃が少なかったとはいえ、また王が居ない時代に逆戻りして良いと思う兵士が
そんなに居るのかな?何を考えて道理に反する阿選に従い、非道の限りを尽くしているのか?
自分の行動に疑問を抱かないのか?昨日まで阿選に反旗を翻していたのに、今日になると突然
露骨な心変わりをした、李斎たちを保護した官吏たちの事も気になる。どういう事なのだろう。
陽子が洗脳と言っていたけど、これに近い事が行われているとしか思えないよね。不気味だ。
そして轍囲や驍宗の故郷が焼かれ滅ぼされたのがとても悲しい。もう取り返しがつかない。

他にも李斎に真実を教えてくれたり匿ってくれたりした官吏たちの命や、多くの戴の民の命も
そうなんだけど。本当に多くのものが犠牲になった。人々は何の罪も犯していないのに・・・。
「魔性の子」での高里と同じように、李斎も人々から逃げなければいけなかった。僕は冤罪が
大嫌いなのでつらかったな。そして右腕を失った。もう軍人が務まらないのが可哀そうだ。
ただ李斎も完全な善人では無く、遵帝の故事を知らないかもしれない景王をそそのかして戴に
兵を向けてもらおうとしていたのは意外だった。それぐらいしないと戴は永遠に救われない、
このままだと確実に滅んでしまうと思っての事だから、そう思ってしまう気持ちもわかるけど。
あと飛燕が元気になったのは良かった。あんなにぼろぼろだったのに、本当に良い騎獣だなぁ。

そして泰麒も日々その力が損なわれていった。切られた角が再生しなかったのは、食事でお肉を
食べさせられていたからだったのか・・・。この血の穢れさえ無ければ、麒麟の力が戻っていた
かもしれないと思うと・・・。でもそうしたら、使令たちがもっと早くに暴走していたのかな。
「魔性の子」の広瀬と出会う前だったから、もっとひどい状況になっていた可能性もありそう。
でも角の再生とともに記憶が戻って、十二国の世界に戻れた可能性もあるな。うーん、難しい。
使令は麒麟の気力を喰わないといけない。大きく動けば泰麒が完全に損なわれるかもしれない。
という事は、「魔性の子」では暴走した彼らの為に本当にぎりぎりのところだったのだな・・・。
日本での姿(殻)の時は麒麟の部分の喪失に気づかない、というのも厄介だ。そうだったのか。
本当に泰麒はどうしてここまでひどい事になるんだ、と悲しくなるほど過酷な境遇だ・・・。

その他に面白かったところを引用。ああ、この感覚はこうやって表現すれば良いのか!と感動。
「評価は結果を言い表したものでしかないでしょう。傑物という言葉は乍将軍の――泰王の結果に対する評価であって、泰王の内実を示す言葉ではないと思うんですが。(中略)他人と自分を比べてみても仕方ない。引き比べるのはどうしたって、他人の評価と自分の内実という比較にならないものになるに決まってるんですから」
「それが器量の差というものだと。私の考えが及ばなかった、足りなかった――どれも言葉は正しくありません。考えるきっかけがあれば、私にも分かったことでしょう。だが、私にはそのきっかけを見出すことができなかった」
それと王が崩御した際に鳴いて死ぬ白雉は、人では殺せないんだね。阿選が切りかかっても剣が
素通りしたという。興味深い。仙のように飢えて死んだりもしないのかな?不思議な生き物だ。
あと気になった新キャラ、冬官長の琅燦。少しだけしか登場してないけど魅力的な女性だった。
検索したところ新作にも登場するらしい。という事はその後生き残っていたのかな?良かった。

以上、ページ数は少なく、大きく物語が動いている訳では無いけど、終盤で李斎の語る真実に
あっと驚く面白い展開でした。下巻の感想は来月になるけど、早めに読むかも。それではまた。

Web拍手

【読書感想】2020年3月7日 魔性の子

はいこんばんはRM307です。今週は読書回、今回は小野不由美作の「魔性の子」の感想。
十二国記シリーズの実質1作目。ただファンタジー色は強くなく、怪奇、現代ホラー作品です。
読むのは十年以上ぶり2回目。内容をほとんど忘れていたけど、ヘビーだった記憶はあった。

魔性の子 十二国記 0 (新潮文庫)
小野 不由美
新潮社
2012-06-27


【あらすじ】
大学生の広瀬は、教育実習の為に母校を再訪した。そこで一人の不思議な空気をまとった生徒と
出会う。彼の名は高里。担任である広瀬の恩師の後藤によると、彼は問題児だという事だった。
ただ高里自身に問題があるのでは無い。彼は台風の目で、周りの人間が荒れるのだという。
彼をいじめた生徒が突然大怪我をしたり、命を落としたり。生徒たちは言う。「高里は祟る」。
広瀬はそんな高里に自分と同じものを感じて守ろうとするが、祟りはエスカレートしていく。
高里の内なるエゴがそうさせているのか、それとも子どもの頃の「神隠し」が原因なのか――。


終盤以外内容を忘れていたので、新鮮な気持ちで読めた。しかしストーリーは新鮮という言葉が
似つかわしくない、凄惨な内容でびっくりした。高里は祟る、過去に周囲の人間が不審な死を
遂げている。ちょっと不気味だなくらいの気持ちでいたら、高里の為を思って彼を殴った岩木が
誰かも判別できなくなるぐらいに顔がぐちゃぐちゃになって死んだり、それを責めた生徒たちが
屋上から集団自殺をしたり。その後も高里の家族や高里の祟りの事を嗅ぎつけて追い回していた
マスコミたちが獣に食い荒らされたような姿で死んだり、高里たちを非難した広瀬のアパートの
住人たちが火事で焼死したり、ついには高里の高校が倒壊して多くの犠牲者が出たり・・・。
ここまでひどい事が起きるのか・・・と小説を読んでいて久しぶりに大きな衝撃を受けた。
今回読み返すまで、アニメの「十二国記」は杉本が居るからこの作品のアニメ化はできないな、
とぼんやり考えていたけど、杉本が居なくてもこれはアニメにできないな・・・恐ろしすぎる。

何が悲しいって、あんなに良い子だった泰麒(高里)が、何一つ悪い事をしていないのに友人や
家族、そして世間の人々から糾弾されていた事。学校では腫れ物に触るような扱いを受けて、
家でも家族から存在を否定され、祟りが広まってからは世間の人々から悪意を向けられて・・・。
特に母親の豹変が一番悲しかったな。神隠しの前ではあんなに高里の事を大切に思っていて、
泰麒も会いたいと泣いていたくらいだったのに。高里を殺したいぐらい呪うようになるなんて。
僕も、僕の母親はこの世界で唯一僕を受け入れてくれる存在なので、もしも高里の母親のように
憎み疎まれるようになったりしたら、もう生きていけないくらいつらいだろうな。本当の孤独。
また、自分からは話さなかったので誰も高里の事を理解していなかったけど、ココロの中では
悲しみ、苦しみ、涙を流していた事を思うと・・・。どうしてこんなにつらい思いをしないと
いけなかったんだ、と無性に悔しい。慈悲の生き物である彼にはつらすぎる運命だよ・・・。
周りで誰かが傷つくたびに、一人死ぬたびに、自分も深く傷つく高里が可哀そうだった・・・。
そして、高里の家が留守みたいで弟も父親も学校や職場を無断で休んでいる、という会話では
思わずああ・・・とため息と、読んでいて若干めまいがした。ついに家族までが犠牲に・・・。
何も知らない野次馬の「親まで祟り殺しやがって!」という罵声が、今回一番つらかったかも。

でも正直――これを言うとあーるえむ君性格悪いなと思われそうだけど(いや今さらか)――、
高里の母親や、広瀬のアパートの住人たち、ハイエナのようなマスコミの人間たちが無残に
殺されたところは「あー良かった」と結構すっきりしてしまった。もちろんそれによって深く
ココロを痛めた高里は可哀そうだけど、恐怖と苦痛の死を遂げてしかるべきだと思ったのだ。
高校が倒壊して校長や教頭が死んだのも良かったけど、無関係な生徒たちも巻き込まれたのは
ちょっと悲しかったかな。でも正直なところ、スケールの大きさに少しぞくぞくしてしまった。

麒麟は血の穢れで弱る仁の生き物なので、蓬莱では長く生きられないとどこかに書いてあった。
高里は肉や魚を食べながらも、よく高校生まで生き続ける事ができたな。食べられないものは
無いと言っていたし、胎果の殻の姿では麒麟とは違う身体の作りになるのかな?あるいはまだ
この頃はそこまで麒麟の設定が固まっていなかったのかもしれないけど。ちょっと謎ですね。
それとなぜ泰麒の使令たちは、泰麒が被害に遭ってすぐでは無く、しばらく経ってから報復
したのだろう?廉麟の使令はすぐに攻撃をしたよね?どんな違いがあったのかわからない。
泰麒の身を守る存在なのであれば、すぐに姿を現して相手に反撃するべきだと思うんだけど。

しかしこれが第一作という事に本当にびっくりする。リアルタイムで読んでいた人は疑問だらけ
だったんじゃないかな。たとえば麒麟が王以外に膝を折らない伏線は作中で説明されていない。
ただ広瀬と読者に謎を残しただけ。高里が思い出した戴極国や蓬盧宮という十二国のワードも、
直接伏線や謎を解くキーにはなっていないし。いずれもこの作品だけでは回収されない部分。
読者にもちゃんと説明しない、本当に十二国の世界から帰ってきた高里にしか意味がわからない
作りになっているのがめちゃくちゃすごい。商業作品でこんな事をやっちゃえるんだな・・・。
当時は読者からどういう評価を受けていたのだろうな。まとめているサイトとか無いかな?
「未回収だけどこれは伏線だったのか?」という疑問点とどう向き合っていたのか気になる。

あと今回初めてWikipediaのページを開いたのだけど、十二国記シリーズを書く予定があって
この作品が書かれた訳では無く、十二国の設定はただこの作品の為だけに考えられたらしい!
じゃあ余計に作中でぜんぶ説明するべきじゃん!それをしないってものすごい勇気じゃない?
もしかしたら十二国記シリーズは世に出なかった可能性もあって、その場合はただただ読者に
謎を残しただけで終わった訳で、ますますそんな事をできるなんてすごいな・・・と驚いた。
ある意味不死鳥先生と似ているタイプなのかも。不死鳥先生の構築する世界観もすごかった。

他にも上手いなぁと思ったところは、人は汚い生き物だ、エゴは醜いというテーマが描かれ、
てっきり高里にも適用されるものだと思って読んでいたら、高里は麒麟であり人では無かった、
という流れ。ここも初見だと見破れない気がする。ちょっとずるいような気もするけど・・・w

ただ違和感のあるところもあって、たとえば理科室のメンバーの岩木が死んだ後も、メンバーが
集って岩木の軽口を叩いたり談笑できたりする事。高校生を子ども扱いしている訳では無いけど、
普通はもっとショックを受けそうなものじゃない?見知った顔が突然、しかもあんなかたちで
死んだりしたら一生物のトラウマのような気がするけど・・・。屋上からの集団自殺後も同様。
鋼メンタルだ。まぁ創作だから良いんだけど、ちょっとリアルじゃないように感じてしまった。

でも橋上は良いな。高里の元に殺到する逆上した生徒たちを守るシーンはカッコ良かった。
あと十時先生。事情を知っていながら自分の部屋に広瀬と高里をかくまってくれたのがすごい。
もしバレたら自分も世間から非難されるかもしれないのに、勇気があるなぁ。僕にはできない。
後藤先生も好き。こういう大人って良いよなぁ。これからも広瀬との交流が続いていくと良いな。
ちなみにこの十時先生、養護教諭だから女性だと思っていたら、男性でちょっとがっかりしたw
ずっと敬語だったし、最後になって「彼」って書いてあるんだもの。勘違いしちゃったよ!w

後藤先生の広瀬への言葉はぐさぐさ刺さったなぁ。こことラストが僕にとって重かったのだ。
現実世界に馴染めず、広瀬が帰りたがっていた夢の中の世界。後藤はそれをおとぎ話だと言う。
誰でもこの世界から逃げたい、自分の為の世界へ戻りたいと思う。でもそんなものは無いのだと
はっきり否定する。人は現実の中で生きていかないといけない、どこかで折り合いをつけないと
いけない、いつかは切り捨てないといけないのだと広瀬を諭す。「それは広瀬にとって恐ろしい
科白だった」という地の文があるけど、それは僕にとっても聞きたくない、耳の痛い言葉だ。
僕もネットの世界に入り浸り、重きを置いているのは、現実世界から逃げる為でもあるからね。
不覚にも涙を流す広瀬がせつない。でも、後藤先生の「広瀬。俺たちを拒まないでくれ」という
セリフは良いなぁ。広瀬の事を大切に思っているんだよね。でも、やっぱりその言葉は刺さる。

その後、高里の過去が明らかになりそうになっても、広瀬は彼にそれを伝える事ができなかった。
そして伝えた後も、十二国の世界へ戻ろうとした高里を前に自分が追い詰められているような
感覚がしたり、自分が置いていかれる不安から引き止めたりしようとするところが悲しいなぁ。
「俺を置いていくのか」と高里にすがる広瀬の姿を見るのも、覚えてはいたけどつらかった。
高里がいくら迫害されようと、日本中が敵だらけになろうと、彼を守ってきた。でも最後に、
彼が選ばれ、自分が選ばれなかった時、彼だけが戻り、自分だけが戻れないとわかった時、
汚いエゴが表出した。なんて悲しいのだろう。最後の最後に回収されてしまうのがキツい。
広瀬もつらいだろうけど、高里もとてもつらいだろうなぁ・・・。唯一の理解者だったから。
でも文中に汚いと書いてあるけど、それが人なんだ・・・広瀬を責める事はできないよ・・・。
広瀬にとっても高里は唯一の理解者だと思っていたのだ。どちらの気持ちも考えると・・・。
何となくは覚えていたけど、ここまで痛みを伴うシーンだとは思わなかったな。苦しかった。

一番好きなシーンは、広瀬と高里がふたりでロライマ山での隠遁生活の計画を練るところ。
どこかで夢物語だとわかりながら、幸せそうに想像している様子がとても良く、そしてせつない。
ラストシーンで、広瀬の耳に高里の「――山に……ってください」という叫びが聴こえる。
そこで広瀬の足取りがたしかになるのも良い。広瀬はロライマ山へ行く事ができたのだろうか。

メディアに槍玉に挙げられ、広瀬はその後どういう人生を歩んだのだろうととても気になる。
大学には戻れたのか、それとも辞めて、高里の考えていたような生活を送ったのだろうか。
とてもじゃないけど平穏無事に元の生活に戻れたとは思えない。今度は孤独な戦いだな・・・。
隠遁生活を送っているのか、それとも幸せに生きる事ができたのだろうか。知りたいな・・・。
かつてみた甘い夢の世界に帰りたいと望んでいた広瀬が、この現実世界でたしかなものを得て、
前向きに生きる事ができていますように。それは広瀬に自分自身を重ねている僕の祈りなのだ。
本当に幸せでいて欲しいと思う。それが、僕を含めた異端者たちの希望にもなっているはず。

僕自身も、いつか自分の幸せをつかむ事ができるようになるのだろうか。見通しは立たない。
それでも、後藤先生の言うように現実世界で生きていくしかないのだ・・・しんどいなぁ・・・。
もう生きるのがしんどい・・・明日さえも生きたくない。あと何十年これが続くんだろう・・・。
高里のように別世界には戻れない。広瀬のように前にも進めない。僕はどこへも行けない・・・。


以上、内容を忘れていた事もあって、シリーズの中では一番の衝撃だった。面白かったです。
しかし王が蝕で渡るとここまでの被害が出るものだとは・・・。でも、こちらを先に読んだ事で
次回の「黄昏の岸 暁の天」をより理解しやすくなったと思うので良かった。それではまた。

Web拍手

【読書感想】2020年2月1日 図南の翼

はいこんばんはRM307です。読書回の今週は小野不由美作「図南の翼」の感想。十二国記第5作。
月の影 影の海」から約90年前、供王珠晶が王を目指して昇山する黄海でのお話。番外編。
シリーズの中ではかなり好きで、「月の影 影の海」と同じくらい読み返している。3、4回目くらい?



【あらすじ】
前供王が崩御しすでに27年。恭国の荒廃は進み、首都連檣にも妖魔が蔓延るようになっていた。
裕福な商家に生まれた珠晶は、昇山しない周りの大人たちに業を煮やし、12歳にして決意する。
自ら昇山し天意を諮り、王になる――と。しかしその道程は、決して容易いものでは無かった。


謎に満ちた妖魔の棲む土地、黄海。当たり前の鳥や獣が居ない、妖魔や妖獣には牡しか居ない、
その仔を見かける事も無く、野木も見つからない。不思議だなぁ。もっと黄海の事を知りたい。
珠晶が初めて目にした金剛山の大きさに肌が粟立つシーンは、ぜひアニメで観たいなぁ・・・。
ここ良いシーンですよね。その後すぐに騎獣の白兔が盗まれちゃうのが悲しいんだけど・・・。
そして同じ門は一年に一度しか開かない。外の人々を守る為に門の中で警戒する兵士たちは、
一年に一度しか外の世界へ帰る事ができない。つらい仕事だな・・・僕には絶対務まらない。
そうして門が開き昇山者が訪れる時は、それを狙った妖魔と戦い亡くなる人も居る。つらい。
こんな危険な世界を一月半以上も、命の危険と隣り合わせで通り昇山しないといけないなんて
ひどいシステムだな!麒麟が自分から王を探しに行けば良いのに・・・と思っちゃうな・・・。

「家生」という、食住を保証される代わりに一生主人に仕えて働かないといけない人々の存在も
悲しい。着るものは年に二度主人からもらえる布だけ、逃げないように給金をもらう事も無い。
婚姻もできないし子どもも持てない。旌券を割らされるから戸籍も無くなる。死ぬまで家生。
そんな人々の幸せって何だろう?と考えてしまうけど、安全な家、とりあえずは飢えない食事を
保証してもらえるだけ良いのかなぁ・・・日本と違って戦乱や飢え、妖魔の襲撃もある世界では。
でもそれに疑問を持ち、恵まれた生活をしながらも荒廃が許せず昇山した珠晶はとても良いなぁ。
いきなり最後に飛ぶけど、「あたしばかり大丈夫なんじゃ寝覚めが悪いじゃない」。カッコ良い。

昔、荻原規子作品に登場する活発な女の子の主人公たちが大好きだったので、初めて読んだ時は
すぐに珠晶に惹かれた。ただ最初は、恵まれた環境で育ったゆえの高飛車な少女という印象で、
もちろん資質はあるんだろうけど、本当に王に足る器量なのだろうか?という疑問もあった。
お嬢さま育ちというところから、傲慢にも見える強気な態度や小賢しく感じるところもあって、
常に自分の王としての資質に疑問を持っていた陽子に対し、珠晶は最初から「自分が王になる」
と宣言し、王になる事に疑問を持っていないように見えたので。そんなところに危うさも感じた。

でも後にそれは違う事がわかる。恭国のどこかに王が居る。なのに大人たちは他人事で昇山せず、
王がいかに大変か、黄海がいかに危険か、珠晶がお嬢さま育ちで知らないから言えるんだと笑う。
それが許せなくて蓬山を目指した。それが恭国の民としての義務を果たす事だと思って。えらい。
終盤になって初めてわかるのが良い。決して自分が王の器だと驕っていた訳では無かったんだ。
そうやって頑丘犬狼真君に対して泣きながら訴えるシーンが好き。ここもアニメで観たいなぁ。

まぁそんな大人たちの言っている事もわかるんだけど。自分が王に選ばれると思う人間なんて
ほとんど居ないと思う。それなのに命を落とすかもしれない危険な黄海を征き、徒労に終わると
しか思えない昇山をしようなんて自分だったらできない。もちろん国民全員がそれだと王は
現れないし、珠晶が世間知らずだと笑い自分たちは知っているという態度もまずいと思うけど。

そもそも供麒が珠晶の前の王を見つけられなかったのが問題だよなぁ。ちゃんと恭国を回って
探したのだろうか?麒麟としての寿命もそろそろ尽きようかという歳だったし、ぎりぎりだよ。
そして、なぜ王を死なせるかもしれない昇山なんて危険なシステムになっているのだろう?と
首を傾げながら読んでいたけど、これは恐らく必要な過程なのだろうなという事は理解した。

襲撃が欲しいタイミングで妖魔が現れ、それが頑丘や他の剛氏に仕業だと珠晶が誤解した時、
頑丘は「俺を雇ったお前の為に俺がやった事は、お前が自分を守る為にした事に等しい」と言う。
利公も、「王は国の為に血を流す事も命じる。臣下が王の為に命じれば、責任は王にかかる」
と言った。蓬山へ行くのは、王になるというのはそういう事なのだと。なるほどなぁ。そして
後に何万の民を救うには今数人の犠牲を払う事も必要だ、それを覚悟して進まないといけない。
それを身を持って経験する必要があるんだなと・・・いう事かと思ったけど、それだけじゃない。
利公は「それは王を欲する世界の理屈、その世界を統べる王はその理屈を踏み越えなければ
ならない」と言う。臣下の理屈を超え、迂回せず進み随従たちを守りながら妖魔を狩った珠晶は
まさに超越した者だったのだ。ここ、非常に説得力があって上手い説明だし面白いですよねぇ。

季和が見捨てていった随従たちの元に戻り、彼らを導いて先に進む珠晶はカッコ良かったなぁ。
ここで読者も珠晶の王気を感じるんだよね。塞ぎ込んでいる彼らに「蓬山に着けば何とかなる、
これだけの人間が餓死していたら麒麟も参るから、お付きの女仙が何か恵んでくれるだろう、
帰りの荷がもらえなかったら蓬山に居座ってやろう、見捨てる主人より麒麟に仕える方が良い」
という説得もすごいし面白いw朱厭を狩る時には、率先して自分が囮になったのもすごいなぁ。
もしも朱厭が玉に酔わなかったら自分が死んでいたところなのに。12歳なのにすごい度胸だ。

そんな珠晶も、朱氏の頑丘とは衝突してばかりいた。その後の展開を知った状態で読んでいると、
「頑丘の行動にはちゃんと意味と理由があるんだよ!」と珠晶の言動はらはらしてしまったなw
利公が「君は幼い」と言うシーンがあるけど、12歳だもの仕方が無いよ!と思ってしまった。
まぁ玉座を望む人間ならそのままでは駄目だという事なんだろうけど。家生の恵花に対して
「安全な家の中で寝られて飢える事無く食べられるあんただって恵まれている」と言ったのも
どきっとしたwこれは貧乏を嘆いていた僕自身に言われたような気がした事もあるんだろうけど。

でも最初から言っている事は筋が通っていたんだよね。少年に「一人で帰るのが怖いのか」と
からかわれた時も、「供も無しに歩いたらお供の方が叱られる」と反論したり、毎日食べる事に
困っている人が居る中で自分が食べたくない理由もちゃんとあったりして。道理もわかっている。
騎獣が盗まれた時も、落胆はしつつも荷物を持ってきてくれたりいっしょに探したりしてくれた
民衆にちゃんとお礼を言うのがえらい。黄海の専門家である頑丘への「物見遊山じゃないのよ、
ここが黄海ってわかってる?」という発言はすごいけどw利公じゃないけど笑うよこれは・・・w

犬狼真君に対しても結構不遜にも取れるような態度を取っていた。たしかに大物だよな・・・w
今作で「東の海神 西の滄海」の更夜が犬狼真君という神仙の一人になっていた事が
わかるのだけど、これ、当時の読者さんの反応を知りたかったなぁ。やっぱり驚いただろうな。
もし当時インターネットが今のように普及していたら、きっと大騒ぎだったんだろうな・・・。
犬狼真君が被っていた布を外したタイミング、以前読んだ時はどうしてここに挟まれたのか
わからなかったのだけど、名前を明かしたタイミングで頭髪の色の描写をする為だったんだな。
そして以前彼が妖魔に六太の名前をつけたように、更夜の名前を駮につけるという珠晶を
微笑ましく思ったのか軽く笑うのも良いシーン。ただ一つわからなかったのが、「怪我人がいる、
わたしがいない、だから妖魔が来ない」の意味。どういう事・・・?どなたか教えてください!

頑丘とぶつかり、一度はケンカ別れもする珠晶だったけど、剛氏を雇うのはどういう事なのか
だんだんわかっていく。この過程や設定が上手いなぁ。面白い。季和、紵台とのやりとりも良い。
「目の前に居る困った人を見捨てるのがひどい事なら、目の前に居る人が将来困る事を承知で
何かをねだるのも同じくらいひどいという事になりはしない?」という珠晶のセリフも良いなぁ。

怪我をした頑丘を支えながら、王が駄目だったら頑丘の弟子になり、上手くいったら頑丘が
自分の臣下になると提案した珠晶。これ、この後どうなったのだろうなぁ。本当に臣下になって
いたら嬉しいな。今までどの国やっていなかった、荒廃に備え、妖魔から身を守る術を知っている
黄朱の力を借りる。これめちゃくちゃ良い案だよね。珠晶が実行に移していたら良いな・・・。
何より、ずっと珠晶と頑丘、利公の関係が続いていたらとても嬉しい。もっと彼女たちの歩みを
読んでいたかったな・・・。短編で良いから、いつか三人のその後の話を読めたら良いなぁ・・・。

あとエピローグ、宗皇后の明嬉宗麟昭彰の事を「昭彰は身体が弱いから」と表現していたのが
ただのお母さんぽくて面白かった。宗王一家も良い関係だよね・・・「華胥の幽夢」にある短編を
読むのが今から楽しみだ。宗国がこれからもずっと平和で、いつまでも繁栄していくと良いなぁ。

「黄朱の気持ちは黄朱にしか分からない。(中略)それは事実だけれども、同時に理解を拒絶する言葉でもある。理解を拒絶するくせに、理解できない相手を責める言葉だ。」
最後に、利公の印象に残ったセリフを引用。僕もこういうふうに他人を責めている事、あるなぁ。
誰も自分の気持ちなんてわからないんだ、というと思春期の子どものようなので言わないけど、
僕は未だに他人をココロから信じる事ができないでいる。理解してもらえると思う事ができない。
何度も書いているけど、一生そうやって独りなんだろうな・・・。嫌だけど、どうしようも無い。


以上、やっぱり面白かったですね。4時間、3800字も書く事になるとは思わなかったけど・・・。
そういえば、つばき先生は当時利公のどのへんが好きだったんだろうな・・・?それではまた。

Web拍手

【読書感想】2020年1月4日 風の万里 黎明の空 下巻

はいこんばんはRM307です。今週は読書回、小野不由美作の「風の万里 黎明の空」下巻の感想。
上巻の感想http://rm307.blog.jp/archives/80869876.html

【あらすじ】
里家で遠甫という老人から十二国の世界の事を学ぶ陽子。景王に会う旅の途中で出会った
清秀という子どもを止水郷の郷長昇紘に轢き殺され、昇紘と景王を弑する事を決意する
楽俊と出会い自分の罪を知り、景王の造る国を見に慶へ向かう祥瓊。三人の運命が交錯する。

あらすじは前回のように時間をかけて書いてもたぶん誰も読まないので、今回はあっさり目に。


いやーやっぱり面白かったですね。夢中になって二日で読み切ってしまった。僕にしては早い。
鈴や祥瓊に対し、母は昔「そんなにすぐ改心するなんてあり得ない」なんて言っていたけど、
まぁたしかに創作だから上手くいきすぎているところはあるけど、やっぱり良い展開だと思う。
禁軍が乗り出した事で虎嘯たちを非難し、城門を開けるように言いにきた街の代表革午に対し、
祥瓊が公主である事を名乗り出て、鈴が旅券に書かれた采王の御名御璽を見せる。決まった!w
そして戦場に突如現れた景麒に騎乗し、禁軍を一喝した陽子。「主上の御前にあって、なにゆえ
許しもなく頭を上げるか」という景麒の言葉に平伏する一同、ここは水戸黄門メソッドだよねw
まぁ身分を隠して虐げられた人々とともに悪と戦う、というところからすでにそうなんだけど。

見知った枠組みではあるけれど、それを支える世界観、設定がしっかりしているから楽しめる。
酷吏である呀峰を捕らえられない理由に、徴収された高い割合の税で名目通り土地の整備を行い、
実際に堤や橋が作られていては国は咎められないというものがある。しかもその税は税では無く、
供託された金だと言い張り、その上作った堤や橋は簡単に壊れるように作られている。それも
人夫が手を抜くと言うので何も言えない。七割の税うち、四割が呀峰の取り分になっている。
なるほど、手を出せない理由に説得力がある。雁と柳の国境の宿についての描写も好きだな。
豊かな国である雁には最低の宿が無い。だから貧しい旅人や荒(難)民は柳の宿に駆け込む。
その話から、人が集まる豊かな雁だからこそ、流入した民との貧富の差、追いつめられた浮民や
荒民による犯罪に長年頭を悩まされているという話に。十二国の世界にも難民問題があるんだな。
隣国だからとは言われていたけど、延王が慶や柳の心配をする一番の理由がこれだったのか。

あと忘れていた部分で、どんなに富んだ者でも、子どもに自分の財産を分け与える事ができない
というものがあった。六十になれば土地も家も国に返さないといけない。そうだったっけ!
十二国の世界が、何百年も何千年も変わらない生活スタイルが続いている理由の一つだな。
恥ずかしながら浅学でわからないのだけど、この世界にもこういうシステムの国はあるのかな?
だから、十二国の世界では自分の子どもを持つという意味も変わってくる。自分の遺伝子を
継いでいく訳でも無く、財産を受け継がせていく訳でも無い。実際は手やお金がかかるだけ。
ただ、子を与えられ、その子を立派に育てる事が人にとって道を修める事につながっている。
子を通し天に仕える、だから親は子に尽くす。面白いな。こちらには良い親も多そうな気がする。
たくさんの子連れの再婚は、それだけ親の資格があったのだからと歓迎されるもの面白い設定。

一番痺れたのは、虎嘯の元に単身乗り込んだ陽子が、虎嘯たちの昇紘を倒そうという狙いを知り、
その剣で仙は斬れるかと問われた時の「――斬れる」という一言。ここ忘れていたから興奮したw
陽子カッコ良いなぁ・・・。この妓楼に乗り込む時の、仲間の一人に剣を突きつけて「あくまで
隠すと言うなら、虎嘯もお前も犯人とみなす」と脅すところも良い。男が言うように無茶苦茶w
ここだけ切り取ると、王だなんて想像できないな。ましてや少し前まで女子高生だったなんてw

まぁでも年相応というか、物慣れない反応もあったりする。景麒が里家を訪ねてきた際、蘭玉
「下僕が来たと言ってもらえれば分かるはずだ」と伝え、陽子が蘭玉にからかわれるシーン、
その件で景麒を言外に軽く非難し、「いいけどね」と言うシーンなど。微笑ましいやりとりだ。
ここでは陽子の言いたい意味のわかっている班渠がくつくつと笑っているのも良い。感情豊かw
「わたしは誰とも申しあげておりませんが。浩瀚のことを真っ先に思い出されるのでしたら、主上になにか負い目があるからでしょう」
 陽子は小さく溜め息を落とした。
「景麒は麒麟とは思えないぐらいいやみだな」
「主がとにかく頑固ですから、これぐらいでいいんです」
 くつくつと陽子は笑って立ち上がった。
このやりとりも良い。こうやって嫌味を言いながらでも、ふたりが上手くやっていけたら良いな。
戦いが終わった後の陽子の、反乱分子に混じってともに戦った事は楽俊には内緒にして欲しい、
と上目遣いで祥瓊に頼むところも好き。「陽子がどうしてもって言うんなら助けてあげないでも
無い」と言われて「どうしても」と頼むところとかも、鈴や祥瓊のような同じくらいの年代の
女の子といっしょに居る時は、王である時のように気を張らなくて良いんだなと気づかされる。

上巻でも書いたけど、やっぱり楽俊の存在には救われますね。本当に大きな役割を担っている。
祥瓊と別れる際に、雁からもらった旅費からでは無く、自分の懐からお金を渡すところとかも
めちゃくちゃすごい。作中でも語られていたけど、姓の関係から王に慣れないのが本当に残念。
同じ姓が続けて王になれないだけなのか、それとも一度別の姓を挟んだらまた王になれるのか。
こんなにできた人間なんだから、王になって巧国を良くしていって欲しいんだけどなぁ・・・。
それかせめて有能な官吏になって、巧、あるいは陽子の元で慶の力になって欲しいなと思う。

虎嘯たち殊恩の人々も、できた人間とは少し違うかもしれないけど、民衆の事をしっかり考えて
行動した立派な人たち。昇紘を討つだけだと郷府の人間が犯人探しをして民を虐げるだけなので、
自分たちがやった事を示しながら逃亡する。それも戦い続けるには笑えるぐらい少ない人数で。
このへんの展開も良いですよね。復讐させて終わりの物語は多そうだけど、考えられている。
和州師が殊恩の人々をいぶり出す為に街に火を放った時、虎嘯たちが出ていけば勝つ見込みが
無くなる、しかし出ていかなければ単なる人殺しになってしまう!と義憤を私憤にさせないよう
街の人々を逃しに行くところもカッコ良い。「東の海神~」の斡由にはできなかった事だな。
虎嘯といえば、弟の夕暉とあまり似ていなかったなと思い出したけど、そうか、この世界では
家族も兄弟も似ていないんだったなwそれに血のつながっているうちの姉妹も似ていなかったw

そして里家の姉弟の蘭玉と桂桂。やっと新王が登極して明るい未来はこれからだという時に・・・。
ふたりが幸せに生きて欲しかったなぁ。蘭玉が殺されるシーンは読んでいて一番つらかった。
一度この前で読むのを止めてしまった。どうしてあんなに何度も何度も斬りつけられないと
いけなかったのだろう。目的は遠甫を攫うだけで、そこまでする恨みがある訳では無いのに。
一体蘭玉が何をしたというのだ・・・。こんなふうに殺されるべきでは無かったのに・・・。
呀峰が捕まった事で、この下手人たちも捕らえられ、死をもって裁かれて欲しいと強く願った。


以上、読み終わりたくない、もっと読んでいたいと思う小説は久しぶりだったな。それではまた。

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この感想も書くのがめちゃくちゃしんどくて、5時間以上かかった・・・やっぱりやめようかなぁ。

2019年12月14日 風の万里 黎明の空 上巻 感想

はいこんばんはRM307です。今週は読書回、小野不由美作の「風の万里 黎明の空」上巻の感想。
「十二国記」シリーズの四作目、前回が外伝だったので本編としては三番目の話になります。
読むのはたぶん4回目ぐらいかな。アニメも2回ほど観ているので、内容はほとんど覚えている。



【あらすじ】
家が貧しく、奉公に売られた12歳の。しかし奉公先へ向かう際に川に落ち、気づいた時には
虚海に居た。言葉が通じず、何の能力も無い彼女は苦しい数年を過ごすが、ある飛仙に拾われる。
仙籍に入り言葉がわかるようになった鈴だったが、翠微君梨耀による嫌がらせの日々が始まった。
ある時、同じ年頃の娘が景王に即位した事を知る。同じ海客である景王ならば、自分の苦しみを
理解してくれるかも、自分を救い出してくれるかも――鈴は梨耀の元を逃げ出し、慶を目指す。

芳国、峯王仲韃の圧政で虐げられる民を救う為に、諸侯は恵州候月渓の元に集い、王と王后、
峯麟を弑した。そしてその娘、公主の祥瓊は仙籍を剥奪され只人となり、里家に預けられる。
王宮での贅沢な生活しか知らないかつての王女は一向に慣れる事ができず、月渓を呪っていた。
ある時閭胥の沍姆に身元が割れ、以降つらく当たられるようになる。そしてついに里人にも
露見し、祥瓊は処刑されそうになる。しかしすんでのところで州師に救い出された祥瓊は、隣国の
恭に預けられる事になる。だがそこでの下女の生活にも耐えかね、恭国の御物を掠めた彼女も
慶を目指し出奔する。かつて自分が持っていた王宮での暮らしを享受する同じ年頃の女王が憎い、
許せない、ならば簒奪してやろう、月渓に許されたのだから自分にだって許されるはず――と。

慶国、即位やもろもろの祭典は終わっていったが、国府は一向に落ち着く様子を見せなかった。
二つの派閥に分かれて紛糾する朝議、先王の任じた奸吏は専横し罷免する理由も見つからず、
そもそもこちらの世界の事がまだわからない景王陽子は誰の意見を聞けば良いか苦心していた。
そんな中、政治力は無いが王に近しい存在である三公に反逆の疑いが持ち上がる。その裏には
先の偽王に最後まで抵抗し、軍門に降らなかった麦州候浩瀚が関わっていると噂されていた。
彼の処遇に対しても意見は割れる。あまりにもこの世界のものを知らないとわかった陽子は、
街に下りて民と暮らしながら勉強すると決め、里家で遠甫という老人に教えを請う事になった。

どうも短くまとめられなかった。ちなみに漢字以外は何も見ないで書いています。無駄な頑張り。


鈴と祥瓊、生まれも境遇も何もかも違うふたりが、同じ景王に会うという目的の為に慶を目指す。
それもまったく異なる印象、目的を持って。面白いですよね。予想ができずにわくわくしたなぁ。

今回も清秀楽俊の言葉が刺さった。僕も鈴や祥瓊のような愚かなところがあるから耳が痛い。
「自分が可哀そうで泣くのは子どもの涙だ」とか、再読した中高生の頃は身に覚えがあったので
恥ずかしくなったなぁ。今回も清秀の「そうやって、ぽやぽやしたことばっかり考えてるから、
いつまでもガキみたいなんだよな」という言葉に、「申し開きのしようもありません・・・」と
恥じ入った。初めて観た子ども頃はまだ許される部分があったけど、歳をとった今はもう・・・。
清秀は「自分の事を好きじゃないなら他人が嫌うのは当たり前、自分ですら好きになれない人間を
他人に好きになってもらうなんて厚かましい」と言う。僕も厚かましいのかなぁ・・・。でも、
自分を好きになるって難しいよね。僕も何度も挑戦しているけど、未だに上手くできない・・・。
卑屈だと批判される事もあるけど、どうしようも無い。こんな自分を好きになるなんて、とても
恥ずべき事のように感じるのだ。誰かに好きになってもらえないと、価値を信じる事ができない。
僕という存在の許否は他人の評価で成り立っていると思う。でも、それが厚かましいのかなぁ。

清秀はまだ幼いけど、鈴に大きな影響を与えた。そして遠甫や楽俊、采王など、彼女たちは
良い大人に恵まれたよなぁ。楽俊は言わずもがな、采王の鈴への処遇も面白い。彼女だけを
王宮に召し上げずに、しばらく下界で暮らす事を勧める。本当に相手の事をちゃんと見て、
相手の事を考えていないとできないよね。王が一人の民をそれだけ気にかけているのがすごい。
そして結果的にこの処遇が良かったのだけど、慧眼だなぁ。さすが王になるだけの事はある。

そういえば翠微洞で働く人々が王宮に召し上げられた後、一人になった梨耀はどうしたのだろう。
処罰もされたのかな・・・。梨耀についてその後語られる事が無かったのはちょっと残念だった。
作中で、梨耀は先々代の王をよく助け、諌めて疎まれるほどの存在であった事が語られている。
このへんも気になる。「華胥の幽夢」で登場していた記憶は無い。彼女の事も知りたかったな。
それほど王を助けていた彼女が、ああも陰湿になってしまったのはなぜだろうな。歳の所為かな。

歳といえば采王が初めて鈴と会った時に「ずいぶん若い娘さんだこと」と言っていたけど、実際は
鈴の方が長生きしているんじゃなかったっけ・・・wまぁおばあさんだから仕方が無いけど。
この世界には仙籍、神籍があって歳をとらないから、見た目で判断できないのがややこしいな。

見た目で判断できないといえば供王珠晶。12歳で王になり在位90年だから、100歳を超えている。
でも中身はさすがしっかりしている。祥瓊が御物を盗んで出奔した時、哀れんた供麒を叱る。
「嫌だ嫌だって駄々をこねて逃げ出す人間を許すことはね、そういう仕事をきちんと果たしている人に対する侮辱なの。同じように朝から晩まで働いて、盗みも逃げ出しもしなかった人と同じように扱ったら、まっとうな人たちの誠意はどこへ行けばいいの?」
景麒もそうだけど、仁道の生き物である麒麟は大変だよなぁ。哀れまずにはいられないから。
哀れみの対象を向ける相手を考えろと言っても難しいだろうし。と言いつつ、蓬莱へ行った時に
そちらの服を持って帰ってくる延麒には笑った。性向が仁とはいえ、悪い事もできちゃうんだw
そんな麒麟だけど、別に良い感情だけがある生き物という訳でも無いのだよな。陽子と初めて
会った時に、予王と似ている事に辟易したとあって最初読んだ時はちょっと驚いた覚えがある。

予王も可哀そうな人だよな・・・。欲しかったのは穏やかな暮らしで、慎ましやかな幸せで。
月の影 影の海」だったかアニメだったかで、ただの娘に返してくれと景麒に詰め寄る姿が
せつなかった。予王が官に恵まれ、王としての責務を果たす事ができたら良かったのにな・・・。
楽俊が言っていたけど、王や公主は玉座を失えばやり直しはできない。特に王は死に直結する。
でも祥瓊に知らない事はこれから知れば良いと言い、ぜんぜん問題じゃないと言うのが優しい。

アニメでせつなかったところが、固継の里家が妖魔に襲われたシーン。アニメでは陽子が妖魔を
倒したすぐ後に遠甫と話すのだけど、その時後ろで蘭玉たちが殺された子どもたちと対面して
悲しみ泣き叫ぶ声が入っていたと思う。つらかっただろうな・・・。王が登極してからも、まだ
荒廃した地には妖魔が出没するというのが悲しい。ぴたっと居なくなるものだと思っていたから。
王が玉座にいなければ国は荒れる。天災が続く、妖魔が跋扈する。火災や水害で家を失えば、人は冬に生きる術を失う。(中略)夏の気候がましでも、実った麦を蝗が襲えば民は食べるものを失う。
シビアな世界だよなぁ。平和な日本で生きているとどこか遠く感じる飢えや死が身近な存在で。
芳や柳や巧がこれからその荒廃を迎えていくと思うと悲しいな。もうちょっと天帝も生きやすい
世界を作ってくれたら良かったのに・・・。そして慶や戴が救われていきますように、と思う。


以上、やっぱり面白かったです。清秀が亡くなるシーンは悲しかったけど・・・。それではまた。

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2019年11月23日 東の海神 西の滄海 感想

はいこんばんはRM307です。読書回の今週は小野不由美作「東の海神 西の滄海」の感想。
十二国記シリーズの3作目。1作目と2作目にも登場した延王尚隆と延麒が主役の過去編です。
一応番外編らしい。延王が登極して20年後の話なので、1作目から数えると480年以上前になる。



【あらすじ】
暴虐の限りを尽くした前王が斃れ、次の麒麟も王を見つける事ができず、30年の月日が流れた。
国土は荒廃し、三百万居た民の数は十分の一になった。半ば廃墟と化した雁国にようやく待望の
新王が践祚して20年、地にはだんだんと緑が戻ってきていたが、前王の任じた奸臣はそのまま、
国土の復興を最優先とし、官吏の整理にまで手は回っていなかった。そんな国府から始まる。
王宮を抜け出しては城下でふらふらと遊ぶ延王尚隆、そして同じく政をさぼりがちな延麒六太
側近たちから叱責される日々だったが、ある時、元州が武器を仕入れているという情報を得る。
そしてそれと同じ頃、六太は更夜と再会する。昔一度だけ会った、妖魔と生きる人の子だった。
元州の射士となった彼と再会を喜ぶ六太だったが、更夜は赤子を人質に、六太を元州へと招く。
そこで待っていた元州の令尹斡由は、最初こそ漉水の治水の権、州候の復権を願っていたが、
政務を放棄していると聞いた王から実権を取り上げ上帝となる事を望み、兵を挙げていた。
麒麟を害されれば王も死ぬ。王が死ねば国が荒れる。尚隆は六太を救い出さなくてはいけない。


やっぱり面白かったけど、尚隆は普段からまじめに政務に取り組んでも良かったんじゃない?
と気になってしまった。街に下りて民衆と交流する事でわかった情報があって、それによって
犯人をすぐに特定できたり敵陣に潜り込めたりした事はもちろん良かったと思うんだけど、
解決できたから許容するという気にもなれなかった。冒頭から提起されていた治水の件は特に、
尚隆が早く決断していれば斡由にもつけ入る隙を与えなかったんじゃないかな・・・と思った。
最後、尚隆が六太に「任せろと言ったろう」と言ったけど、いまいち納得できなかったな。
民の声を聞くのは大事、それはわかる、でもここまでさぼる必要はあったのだろうか・・・?
昔は何も考えずにすんなり読めていたのだけど、今回はどうもすんなり受け止められなかった。

とぶちぶち言っていますが、切れ者の尚隆の事は好きなんだけどね。困窮していた国の為に
王宮の装飾をすべてはがしたり建物を解体したりして売り払い、国庫の足しにするところとか。
王宮は初代の王が天帝から賜ったとされ、取り壊すのははばかられて誰もやらなかったのに。
あとは「俺が王なんだから勝手にやらせてもらう」と言って、内乱になりそうなタイミングで
唐突に六官三公を罷免したり。ただこれには意味があった事が後々わかるのが面白いところ。
まぁ普段からしっかりしていれば周りをはらはらさせなかったのに、と思わないでも無いけど。
政務をさぼった罰として王と宰補の心得を書写させられている時に、一文一文ぜんぶ適当に
書き換えてやろうと無駄に悩んでいたところも面白い。六太の「朱衡ってかわいそう」もw
朱衡から叱られ、どちらが悪いかなすりつけ合っている時の尚隆と六太の「五十歩百歩という
言葉を知っているか?」→「五十歩の差は確実にあるって意味だろ?」というやりとりも良いw

尚隆が敵陣に潜入した時も面白かった。いつも尚隆がないしょで街へ抜け出す手引をしていて、
もし左遷されたら・・・と心配していた毛旋という兵を大臣クラスの役職に抜擢したところ、
尚隆が成笙に「首を取られないように気をつけろ、禁軍将軍は悪くない(元州士が徴兵する際に
「王の首を獲ったら禁軍将軍になれる」と言っていたのだ)」という伝言を残していったところ。
側近たちは生きた心地がしなかっただろうなぁ。でも本当に生死に関わる危機なのは尚隆で、
その状況でいつもと変わらず飄々と、そして大胆に動けたのがすごい。計り知れないな・・・。

本当に振り回される側近たちは可哀そうだw彼らも魅力的で、特に帷湍のエピソードが好き。
祭典のさなかに、登極に時間のかかった尚隆に「なぜもっと早く王にならなかったのか、
その間にこれだけの民が死んだ」と責めた。そして自分が処刑される事で、浮かれている官や
浮かれているであろう王に前王の暴虐を思い起こさせようとしたのだ。しかし尚隆は帷湍を
処分する事無く、逆に要職に抜擢した。日本の政治家にもこういう人が居たら良いのにな!w
そんな側近たちをそこまで位の高くない官に選んだ理由が驪媚によって語られたシーンも好き。
尚隆は適当に見えて、ちゃんと考えるところは考えているのだな。でももうちょっとまじめに(ry

本筋も面白いのだけど、また戦いが起こるのかという不安から司右府に民衆が集まった時の、
兵役に志願した人々のエピソード、州士が堤を切ろうとした時の兵士たちの視点もとても良い。
こういう描写がある作品は魅力的ですよね。本筋という大黒柱をしっかりと支える支柱になる。
丕緒の鳥」も十二国の世界の民が主役の話だったけど、同じくとても面白く魅力があった。


だんだん斡由の化けの皮が剥がれていくのも面白かったですね。最後に追い詰められるシーン、
この時の言動がこないだ規制された新都社の荒らしを思わせる。この作品を初めて読んだ時は
実際こんな人間は居るんだろうか、なんて思ったけど、本当に居るものなんですねぇ・・・。
斡由の本性がもっと早く露呈していれば、更夜が人を殺したりせずに済んだだろうにな・・・。

家が飢えるほど貧しく、口減らしとして親に捨てられた二つの世界の幼い子ども、六太と更夜。
ふたりは不思議な縁で邂逅する。更夜は声が石田彰さんだけど、そこまで好きでは無いかなぁ。
やっぱり罪人を妖魔に喰わせていたのがな。六太を逃してくれた女の人が殺されて悲しかった。
梟王から生き延びた亦信が死んでしまったのも、赤ちゃんが犠牲になったのも悲しかったな。
ただ、妖魔とともに暮らし、人々から忌み嫌われ殺されかける生活を送っていた更夜と妖魔が、
初めて自分たちを受け入れてくれると思えた斡由に出会った時のこの部分は胸にくるものがある。
「――更夜」
更夜は答え、名乗れる自分にささやかな感銘を受けた。名を持つ自分、それを尋ねてくれる人のあること、そんな場面を何度も夢見ていた気がする。
やっぱり子どもがつらい目に遭う話は創作でもキツいな。子どもはみんな幸せであって欲しい。

尚隆に対し、斡由に仇なせば妖魔に襲わせるという更夜。でも、最後に斡由が尚隆に後ろから
斬りかかった時は思わず妖魔を止めてしまった。その流れも良い。前フリが効いている(?)。
斡由は決して妖魔に触れようとはしなかったけど、尚隆は気にせず撫でてくれたのも良いシーン。

そして終章に書かれた雁史邦書の文章。尚隆は斡由を討った年に元号を「大化」から「白雉」に
改めている。これは日本の元号が大化から白雉に変わっていたからそれに倣ったのか、それとも
生涯で王の即位と崩御の二回だけ鳴く白雉という鳥を意識して名づけた、意味があるものなのか。
大元元年には、「乗騎家禽の令」を発し、妖魔を騎獣や家畜の一つとして加えて更夜との約束を
果たした。国を越えて、更夜が暮らしているであろう金剛山まで発布したのも良いですよね。
元号が「大元」に改められたのも元州を意識してなのかな。いつか尚隆や六太と再会して欲しい。
この部分は読むまですっかり忘れていたので、今回読んで「おおっ!」と思った。良かったです。


以上、不満を述べたところもあったけど面白かったです。最近感想文は一日、1時間半~2時間で
書いていたのだけど、今回は何だか難しくて二日、3時間以上かかってしまった。疲れた・・・。
まぁ大した文章は書いていないんだけどね・・・。つくづく感想が下手だ・・・。それではまた。

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2019年11月9日 風の海 迷宮の岸 下巻 感想

はいこんばんはRM307です。読書回の今週は小野不由美作「風の海 迷宮の岸」下巻の感想。
もう新作が発売されたというのに読み返すのがまだ全然進んでいません。読めるのは来年かな。
上巻の感想http://rm307.blog.jp/archives/80438237.html

【あらすじ】
蓬山に昇山者がやってきた。これから泰麒は王を選定する事になる。しかし、どの民にも天啓と
呼ばれる兆候は見えなかった。今回の昇山者の中には王は居ないようだとどこかほっとする泰麒。
そんな中、ふたりの昇山者と親しくなる。承州師の将軍李斎、そして王直属の禁軍の将軍驍宗
彼らと彼らの騎獣に会うのが日課になった泰麒だったが、なぜか驍宗への恐れは拭えなかった。
ある時、泰麒は黄海へ騶虞を狩りに行くふたりについて行く事になった。未だに使令を持たず、
転変して逃げる事もできない泰麒の身を女仙たちは心配する。そしてその不安は的中した。
一行は饕餮と呼ばれる最大級の力を持つ妖魔と遭遇してしまったのだ。泰麒は驍宗を助ける為に
折伏を試みる。類稀なる意志の力を見せ数時間にらみ合った後、何とか使令に下す事ができた。
そしてとうとう驍宗が下山する日がやってきた。いつか生国に下ればまた会えるかもしれない、
そう思っていた泰麒だったが、驍宗は将軍を辞し、戴国を出ると言う。もう二度と会えない、
それはとても耐えがたい。驍宗が王であれば・・・。そう考えた泰麒は一つの答えに行きつく。
王であるかどうかは麒麟である泰麒にしかわからない。ならば、偽りの契約を交わせば――。

あらすじ、どうせ誰も読まないだろうと思いつつ、書いていたら楽しくて長くなってしまった。


好きなシーンは、驍宗と李斎が対面した時に、驍宗が李斎を高く評価している事を知った泰麒が
「やっぱり」と口を挟むところ、泰麒の為に延王や麒麟たちが集まって一芝居打つところかな。
戴国を訪れた景麒が、泰麒の「驍宗には天啓が無かった」という告白を聞いて一度帰るのだけど、
その二日後に延王と延麒を連れてくる。他国の王と麒麟に一日で話をつけるとは!景麒すごい!
泰麒が毎日罪の意識にさいなまれてたとはいえ、そこまで急を要する事柄では無かっただろうに。
それだけ泰麒の事を大切に想っていたのだなぁと嬉しくなる。承諾した延王と延麒もすごいよね。
異例中の異例だ。普通はわざわざ来ないよ。まぁふたりの事だから面白がっていたとは思うけど。
アニメで初めて観た時、延王の悪役っぷりに笑ったなぁ。まぁめでたしめでたしの良いラストだ。
まぁその後の事を考えると喜んではいられないのだけど。この幸せがずっと続いて欲しかったな。


泰麒はまだたった十歳の子どもで、半年前に家族と離れこの世界に連れてこられたばかりなのに、
王を選んで大人とみなされ、女仙たちと離れなければならなくなったのも可哀そうだったなぁ。
乳母の役割を果たす女怪の汕子も使令として扱われる為、人前に姿を現せなくなってしまったし。
十歳には酷だよ・・・。まぁでも驍宗のそばに居られる事が何よりも喜びになったのだけど。
でも驍宗と会えない時は寂しいですよね・・・。執務もあるし。まだ子どもなのに、えらいなぁ。

あとえらいと思ったのは、昇山者たちの王気を確かめている時に、「泰麒はおとなしく進香を
ながめていたが、二日で飽きた。四日めにようやく外を出る決心がついた。」というところ。
三日目は我慢したんだwただ座って眺めているのは女仙たちでもつらかったのに、えらいなぁ。
女仙も仙人ではあるけれど、一般的な人々と変わらないですよね。進香を退屈に感じていたり、
何度も進香に現れた昇山者にあだ名をつけたり。でも見栄えがする王が良いとか、主の見かけが
あれではお世話をした甲斐が無いとか言ってしまう女仙は怖いな・・・と思った。人間らしいけど。


つばき先生と十二国記の話をしていた時、先生が泰麒について「ちょっと良い子すぎるかな」
と仰っていて、そうだったっけと思いながら今回読み返していたのだけど、そうでも無くない?
たしかに良い子には違いなく、年齢よりは幼いところはあるけれど、考え方は普通な気がした。
謙虚、卑屈と言っても良いくらいの時があると書かれていたけど、僕はそうは思えなかったなぁ。
いたらない自分がどれほど周囲の人間の心を痛めさせているか、にもかかわらず、どれほど深い愛情を注いでもらっているか。――それを考えるとせつない。
この部分もすごくよくわかる。昔の僕はまさにこの事で悩んでいた。みんなに良くしてもらって
いるのに、自分は何も返せていない、むしろ迷惑をかけるだけだ。そんな自分が情けない・・・。
上巻の感想でも書いたけど職場の人たちに対して、そしてつばき先生に対してもそう思っていた。
職場の人たちに何もお返しできないうちに退職してしまった事は、今でも本当に申し訳無く思う。
つばき先生にも、一生返せないぐらいの恩がある。いつか返していけたら良いのだけど・・・。


今回共感したポイントはもう一つあった。今までは読んでいて一度も気にならなかったところ。
彼は少しも泰麒と別れることなど気に留めていないのだと、思った。泰麒がいまだに寝込んでいれば、挨拶もなく下山してしまうつもりだったのだ。
泰麒は驍宗を選ばなかった。驍宗は戴国を離れる。そうなれば驍宗にとって泰麒は無価値な十の子供でしかない。己の運命を切り開くに怖じることのない彼は、無価値なものを決して振りかえらないだろう。
こういうせつなさってあるよね。僕の片思いもだいたいこういう種類のもののような気がする。
恋愛においても恋愛以外においても、だいたいにおいて僕の一方通行の想いである事が多い。

まぁでも、驍宗も決して泰麒に対して未練が無かった訳では無く、未練を残す己が許せないから
早く下山する事にしたとわかって嬉しかったのだけど。それを泰麒が知る事は無かったけどね。
いや、泰麒に対してというより王に対しての未練か。泰麒と逆で、自分に自信のある驍宗の事は
実はあまり好きでは無かったりする。「おまえは小さいのに見る目がある」とか、すごいなぁ。
あまりにも僕と違いすぎるのが怖いのかなぁ?もちろん泰麒への優しさもちゃんとあるのだけど、
苛烈な感じにちょっと引いちゃうのだよな。もしかしたら新作を読むと意見が変わるのかもだけど。


あと汕子の「隠伏していれば泰麒の影にしがみついてどこまでも一緒についていけたものを、
なまじ泰麒を止めようとして姿を顕したために離れてしまった」というところ、ああ、だから
泰麒が日本に戻ってしまった時に、彼の前に姿を現してくれなかったんだな、と悲しく思った。
汕子や傲濫が泰麒の前に現れ説明してくれていたら・・・いや、どのみち記憶が無いのだから
意味が無かったのかな。その結果、汕子や傲濫と別れなくてはいけなくなるのもとても悲しい。
まぁそれについては「魔性の子」あたりを読んだ時に改めて書くかもしれません。それではまた。

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2019年10月19日 風の海 迷宮の岸 上巻 感想

はいこんばんはRM307です。読書回の今週は小野不由美作「風の海 迷宮の岸」上巻の感想。
十二国記」シリーズの続編、今回は胎果の麒麟である泰麒が主役のお話です。10歳の男の子。
以前も書いたけど、子どもの頃から親しんでいてもはや自分の一部になっている作品なので、
内容についての感想はほとんど生まれなかった。またしても自分語りが中心になっています。

【あらすじ】
蓬山で起きた蝕によって蓬莱へ流された戴国の麒麟の卵果は、十年後にようやく見つかった。
普通の人間の子どもとして成長し、けれど周りと馴染む事ができなかった彼は、自分の本当の
居場所がそこには無かった事を知り涙する。「泰麒」と呼ばれ、新たな居場所で女仙たちから
愛情深く接せられる彼だったが、転変もできず、自分が彼女らに何も返せない事に悩んでいた。
蓬山から十年も離れていた、転変のみならず使令も居ない泰麒は、自国の王を選べるのだろうか。

またアニメの話になるけど、僕は釘宮理恵さんはこの作品で知ったので、釘宮さんというと
男の子役のイメージだった(その次が「鋼の錬金術師」のアルフォンスだったのでなおさら)。

泰麒は10歳だけど、だいぶ幼いですね。僕が10歳の頃はもっとずっとこまっしゃくれていたな。
蓉可がひざをついて泰麒の目線に合わせて話すシーンがあったけど、10歳の僕だったらきっと
「子ども扱いされている!」と腹が立っただろうな。いやまぁ10歳なら子どもなんだけどねw
以前新ブログにも書いたけど、僕は小学校に上がったら「子ども」は卒業だと思っていたし、
幼い頃から大きな相手にかがんで目線を合わせられると「侮られた」とむかっとする性格だった。
子ども扱いするな!対等に扱え!と思っていたのだよな。ずいぶんと生意気な話だけど・・・w
僕が悪ガキだっただけか。まぁでも、泰麒はかしこいけど反応や行動が6歳児ぐらいに思える。
別世界に連れてこられたにしては順応するのが早いし。それだけ純粋な子なのかもしれないな。
僕は泰麒のような良い子ではぜんぜん無いけど、読んでいて昔の自分をいろいろと思い出した。

たとえば、祖母から床に水をこぼした犯人扱いされた要(泰麒の日本での名前)が、雪の降る
寒空の下に立たされた場面で、彼は常々祖母から嘘をつくなとしつけられていた為、自分が
やったと嘘をつく事ができなくて途方に暮れていたエピソード。僕が小さい頃、食事中に父から
お茶碗を持つ腕の脇を締めなさいと注意されたんだかなんだったかした時に、言いつけを守って
忠実に脇を締めて窮屈そうにして食べていたら、父から「それ嫌味でやってんの?」と言われた。
僕としては父の言いつけをちゃんと守ろうと思っての行動だったので、とても驚き悲しかった。
たしか、「嫌味」という言葉の意味もまだわからないくらい幼かったので、何も言えなかった。
母は何も言わなかったので、もしかしたら本当に僕が嫌味で行っていたように見えたのかもな。
あの時の父の冷たい声、重苦しい空気は今でもよく覚えているので、相当つらかったのだろうな。

景麒と話した後に自分が情けなくなった泰麒が、できそこないで、愛情をもらうばかりで、
期待に応えられないでごめんなさいと泣く場面、僕もよく似たような事を思っていたなぁ。
子どもの頃から思っていた事だったけど、新卒で入った会社で働いていた時の事も思い出された。

就職当時、とにかく周りに迷惑をかける事が怖かった。忙しい先輩社員に教えてもらう事に
いつも恐縮していて、相手の時間を奪ってしまう事がとても申し訳無くて常につらかった。
新人なんだからわからない事があって当たり前、訊いて当たり前なのだけど、僕が訊いた事で
先輩の作業を遅らせてしまう、余計に残業させてしまうという考えを振り払えなかったし、
僕と同い年でもばりばり作業をこなしている協力会社の人も居て、僕もちゃんとできないと、
と毎日プレッシャーだった。結局そのプレッシャーに押し潰されてしまう事になるのだけど。
その後退職して、もっと迷惑をかける事になってしまった。辞めてからも本当に申し訳無くて、
頻繁に職場の夢をみていた。今でもたまに思い出しては申し訳無かったな・・・と反省している。
当時、始めのうちはできなくても良かったんだ、と思えたらぜんぜん違ったんだろうけどなぁ。
「みんなが普通にやってる事ができない」という意識が強かった。まぁ今もなんだけどね・・・。
たぶん今後転職しても、新しい職場でもそう思い続けるだろう。変えられそうにない・・・。

この後、景麒が泰麒を探している時に女仙たちから小言を言われまくっていたのが面白かった。
景麒の面白かったところでいうと、妖魔の折伏(使令として契約する際の呪術のようなもの)の
方法を教える時に「息を吐く時はできるだけそっと吐く事、これも常日頃から心がけるように」
と言っているのだけど、お前普段からため息ばっかりついとるやんけ!とツッコんでしまったw

そんな良い子な泰麒だけど、学校の先生から「周りと馴染んでくれなくて困る」、「友だちが
居ないのは問題」と言われていたのはひどいなぁ。先生の言う言葉じゃないよね・・・可哀そう。
だからこちらの世界に来る事ができて良かったな、と思ったのだけど、一年後に泰麒は・・・。

以上。あと泰麒がここは別の世界なのかと尋ねた時に、「タンスを通り抜けたみたいにして」と
書かれているけど、後に「ナルニア国物語」を読んでその意味がわかった思い出。それではまた。

2019年10月5日 月の影 影の海 下巻 感想

はいこんばんはRM307です。読書回の今週は小野不由美作「月の影 影の海」下巻の感想。
上巻を読み終わった後と連休中に読んでいました。下巻は楽しくてするする読めちゃったな。
上巻の感想:


【あらすじ】
負傷と体力の限界から行き倒れた陽子は、ねずみの姿で人語を解する半獣の楽俊に拾われる。
頭の切れる楽俊から、海客である陽子は雁国へ行く事を勧められ、ともに旅立つ事になった。
しかしまたしても妖魔に襲われる陽子。妖魔を屠るも、傷を負い倒れた楽俊を前に逡巡する。
楽俊は自分が雁国へ行く事を衛士に話さないだろうか、戻ってとどめを刺すべきだろうか、と。
一度は楽俊を見捨てて逃げた陽子だったが、陽子自身が人を信じる事と人が陽子を裏切る事は
関係無いと気づく。ついに蒼猿を退け、雁国に渡った陽子は、そこで楽俊と再会したのだった。

やっぱり楽俊が登場すると心底安心するなぁ。前回も書いたけど僕はアニメから入ったので、
鈴村健一さんのお声を聴くだけで「楽俊だ」と嬉しくなってしまうくらい楽俊が好きだった。
「悪い海客は国を滅ぼすと言われた」と言う陽子に対し、あっさり「迷信だ」と言った時や、
自分が来た蝕の被害が大きかった事に陽子が心を痛めていた時の蝕についての説明、
陽子が楽俊を見捨てて逃げた後に再会した時の「逃げて良かったんだ、捕まったらどうする、
逃げろと言って財布を渡せば良かった」というセリフなど、さらっと言えるのが本当にすごい。
楽俊にしてみれば当たり前の事を言っているだけなのかもしれないけど、こちらまで救われる。
たぶん同情される訳では無く、当たり前のように言ってくれるのがとてもありがたいのだよな。
「おいらは陽子に信じてもらいたかった。だから信じてもらえりゃ嬉しいし、信じてもらえなかったら寂しい。それはおいらの問題。おいらを信じるのも信じないのも陽子の勝手だ。」
このセリフもすごいなぁ。漫画やらブログやら絵板やらでも書いたけど、僕は「自分の言葉が
相手に届かない」と悩む事が多い。今でも。どうしたら楽俊みたいに考える事ができるだろう。
相手に直接伝えはしないけど、僕はやっぱり信じて欲しいと願ってしまう事が多いなぁ・・・。
相手の自由を尊重できていない。まぁ落ち込んでしまうのも仕方が無いと言えばそうなんだけど。
だってしょうがないよ、相手が好きなんだもの。そうやって開き直るのは良くない事だろうか?
「お人好しなんだ、楽俊は」
「そうかもな。だとしても陽子を見捨てて危険じゃないところにいるより、陽子といっしょに危険なところに行くほうが自分にとって値打ちのあることだと思ったんだ」
「まさか、こんなに危険だと思ってなかったでしょう?」
「だとしたら、おいらの見込みが甘かったんだ。それはおいらのせいで陽子のせいじゃねえ」
このやりとりも素晴らしい。僕だったら後悔したり、相手を恨めしく思ったりしてしまうかも。
七年前、僕という重くて厄介な存在を抱え込む事になってしまったつばき先生に謝罪した時、
つばき先生が「仕方の無かった事だと思う。ネガティブな意味じゃなくてね」と仰っていた。
何だかその時の事を思い出してしまった。僕もまた、つばき先生の優しさに救われていたのだ。

半獣を嫌悪する塙王の所為で働く事が許されず、高等教育機関にも通えなかったのにも関わらず、
「主上は悪い王じゃないけど少しばかり好き嫌いが激しい」と無下に批判しないのもすごい。
言葉の端々からも感じられるけど、やっぱり巧国が好きだったのだなぁ。貧しいし、職にも
就けないけどずっと住み続けていた訳だし。塙麟が失道と聞いた時も相当ショックを受けていた。
僕は日本に住み続けているけど、決してこの国を愛してはいないかもなぁ。言葉さえ通じれば、
どこへ行ったって良いと思っている。日本に住む事を選択しているというより、ただの妥協だ。

話を戻そう。楽俊の元に戻ろうとして、陽子が「楽俊を殺さなくて良かった」と涙するシーン、
「月の影 影の海」の最大の名場面ですね。アニメでは毎回ここでぽろぽろ泣いてしまう。
裏切られても良い、裏切った相手が卑怯になるだけ、裏切って卑怯者になるよりずっと良い。
ずっと前に、母とこの話の録画を観ながらごはんを食べていた事があった。当時母は職場の
人間関係で悩んでいて、そんな時にこのセリフを聞いて気持ちが楽になったと言っていたな。
ひとりでひとりで、この広い世界にたったひとりで、助けてくれる人も慰めてくれる人も、誰ひとりとしていなくても。それでも陽子が他者を信じず卑怯にふる舞い、見捨てて逃げ、ましてや他者を害することの理由になどなるはずがないのに。
この部分の「ひとり」の繰り返しも良いなぁ。読んでいて、孤独が伝わって泣きそうになった。

文章でいうと、8ページの「村人か、獣か、妖魔か。いずれにしても選択肢が増えるだけで、
結果が増えるわけではない」や、236ページの「自分を卑下して満足してるんじゃない」が好き。
後者は、子どもの頃に観て「そうか!僕がやっているのもただ卑下して満足しているだけだ!」
とはっとした事があったな。あと七年半前にもはてなダイアリーの記事で一度使った事がある。
それと「畢竟」という言葉はこの作品で知って、当時意味がわからず辞書を引いた思い出が。

意味がわからないといえば、楽俊が陽子に子どもが宿る木「里木」を見せに行ったシーンで、
陽子はうなずき、ふとした疑問を感じたが、あまりにはしたない質問なので訊ねるのは思いとどまった。遊郭があったりするのだから、まぁそういうことなのだろう。
この部分がどういう事なのか、初めて読んだ子どもの頃はわかっていなかったなwと思い出した。

もう何度も親しんだ作品なので、この後のストーリーに関しては今さら語る事は出てこないかな。
なのであらすじも途中までにしました。面白い作品なのでぜひ読んでいただけると嬉しいです。

以上、とても面白かったです。楽俊が登場して得られるカタルシスは、他のどの作品と比べても
比較にならないほど大きくて、十二国記シリーズでも一番好きな巻かもしれない。それではまた。

2019年9月14日 月の影 影の海 上巻 感想

はいこんばんはRM307です。読書回の今週は小野不由美作「月の影 影の海」上巻の感想。
有名な「十二国記」シリーズの最初の話です・・・と思ったんだけど、正確には「魔性の子」が
最初だったな・・・と読んでから気づいた。まぁ良いか。そちらも後々読む事になると思うし。
読むのはもう5、6回目かも。前回読み返したのは七年前?つばき先生とこの作品の話で
盛り上がったのがキッカケだった。アニメもかなり観返したので、内容はほとんど覚えている。
でも今年最新刊が出るので読み返そう!と以前から思っていたのだけど、元気が無いと
キツそうだったのでなかなか読めなかった。5月以降はずっとメンタルの調子が悪かったので。

【あらすじ】
日本の女子高生中嶋陽子は、少し前から異形の獣がどんどん近づいてくる悪夢にうなされていた。
それでも平凡で、しかし窮屈な日常を送っていた彼女だったが、ある日学校に見知らぬ男が現れる。
彼は陽子に探した、陽子が自分の主だと言う。そして、危機が迫っているので自分といっしょに
きて欲しいと言う。抵抗する陽子だったが、突然襲撃に遭う。それは夢でみた異形の獣だった。
男から渡された剣と身体に取りついたバケモノによって異形の獣を斬り伏せた彼女だったが、
身の安全の為に彼とともに別世界へと旅立つ事になる。しかし追手に襲われ男と離れ離れになり、
陽子はたった一人で見知らぬ世界をさまよう。その男に再会して、元の世界に、自分の家に帰る。
その一心で旅をする陽子だったが、妖魔には襲われ、役人には追われ、人々には裏切られ続ける。
こちらには味方が居ない。でも帰っても自分の居場所は無い。陽子は心身ともに疲弊していく。


子どもの頃から親しみ、もはや身体の一部のようになっている作品なので、あまり書く事が無い。
とりあえず、もう二度と自分の家へ帰れないのはつらすぎるな・・・と思った。僕は自分の家が
大好きで、お仕事中も外出中もとにかく早く家に帰りたいとばかり考えている人間なので・・・。
もちろん好きな人々、猫たちと別れないといけないのも苦しい。現実世界で好きな存在といえば
母と飼っている猫ぐらいしか居ないけど、ネット上の好きな人々とは絶対に離れたくない・・・。
もし蝕に巻き込まれて海客として十二国に行ったとしても、インターネットはできて欲しい(?)。

同じ海客として日本からやってきた松山誠三というおじいさんも、あと半月で第二次世界大戦が
終わったのに、自分は言葉も習慣もわからないこの世界に放り込まれ、二度と故郷へは戻れず、
家族も居ない、何十年もたった一人で生きてきた・・・。つらすぎるな・・・としか言えない。
僕も将来的には独りぼっちになるだろうけど、まだ安心して暮らせる世界には居るからな・・・。
このおじいさんが陽子を裏切った時もつらかったけど、でも誰にも責められないような気もする。

僕はこの作品はアニメから入ったのだけど、アニメではずっと翻弄されていた印象だった陽子が
原作では計算して動いていたりしてちょっと驚いた。たとえば最初に巧国で役人に捕らえられ、
馬車で護送されていた時、剣の場所を確認する為にそれとなく役人にたしかめさせたところとか。
アニメではこの時ずっと泣いていた印象だったものな。浅野君と杉本さんが居たからだろうけど。
その後妖魔に襲われてその男が殺され、その身体の下を探って剣を引き抜くシーン、つらい・・・!
死体なんて見るだけでも相当キツいのに、陽子は人間の死体を見るのはその時が初めて、
しかもそれは妖魔に食い散らかされた肉の塊となった死体で・・・。一生トラウマになるよ・・・。

ただひたすら帰りたいと願う陽子。剣の見せる幻で、泣いているお母さんを見て絶対に帰ると言う
彼女に、蒼猿は「たとえ子どもがお前じゃなくても、もっと最低の子どもでも母親は悲しむ、
そういう生き物だから。情が移っているだけ」と嘲笑う。子どもの頃にこのシーンを観た時は、
そうなのか!親は必ずしも子どもを愛している訳では無いのか!情が移るだけなんだ!と思った。
それ以来、幼い僕の中で「親は僕が僕だから好きでいてくれている訳では無い、情が移っただけ」
という考えはしっかり根づいてしまい、その後あらゆる場面でその言葉を思い出す事になった。
そして僕の父親もそうなんだろうな、それならあの父親の態度にも納得がいく、と思っていた。
もちろん実際にはそんな事は無く、子どもを愛してる親だってきっとたくさん居るんだけどね。

あと以前も書いたけど、世間には夫がお風呂に入る際に妻が着替えを用意する家庭があるらしく、
陽子の両親もそのうちの一つだった。以前どこかで知ったような気がしていたのはここだったか!
陽子のお父さんは陽子がジーンズを履こうとした時に「女の子らしくない格好はみっともない」とか
「女の子は男の子に競争で勝たなくて良い」とか平然と言ってのけていて、当時子どもながらに
うわぁ・・・古い・・・と思っていたなぁ。現実にもこういう男は居たりするのだろうか・・・。
この作品が書かれたのは1992年だけど、当時でも古い価値観だったんじゃないかなぁ。たぶん。


以上、実はここでやめるのがつらくて楽俊に会いに下巻も読み始めたのだけど、今回は上巻だけ。
上巻はひたすら救いが無いけど、そんなところもどこか心地良かったりしました。それではまた。

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