はいこんばんはRM307です。今週は読書回、今回は小野不由美作の短編集「丕緒の鳥」の感想。
十二国記シリーズの第8作目、これまでの王や麒麟では無く、官や民に焦点を当てた作品です。
読むのは2回目、七年前に読んで以来。ついこないだだと思っていたけど、内容を忘れていた。
【「丕緒の鳥」あらすじ】
慶国の射儀に用いる陶鵲を作る射長氏の祖賢、羅人の簫蘭、そして羅氏の丕緒。職務に真剣で、
王の為に、そして自分たちの為に良い陶鵲を思案し作り続けていたが、祖賢は冤罪で、簫蘭は
予王による悪政で失われた。陶鵲に民の姿を重ね、それが壊れる事で王にその現実を伝えようと
丕緒は工夫を重ねるが、王から賜った言葉で思いが届かないと悟り、陶鵲を作る意欲が消え、
思案も枯れ果てた。その後新たな王が践祚する。丕緒にはまた陶鵲を作るように指示された。
内容を忘れていたので楽しめた。しかし祖賢が、簫蘭も恐らく殺されたのは悲しかった・・・。
あんなにも一生懸命で、楽しい時間を過ごした仲間たちが・・・と。王が悪政を敷く、これまで
端的に語られていただけに留まっていたけど、実際に虐げられる人々の目線に立つとこんなにも
無慈悲でひどいものなのだ、とわかってつらかった。今までまったくわかっていなかったな。
だから最後、丕緒たちの思いが陽子に届いて本当に良かった。枯れたと思っていたアイディアが、
陽子の言葉をキッカケに次々と浮かんでくるラストも。深く追求せず、自然に描かれている。
この陶鵲という設定、とても細かくて面白いなぁ。その成り立ちから工夫されていった様子、
いろんなパターンの陶鵲のアイディア。この世に存在しないアイテムをここまで広げられるの、
ただただすごいな・・・。しかもそれを民の姿とリンクさせ、丕緒は民の為に、王にその思いを
伝える為に陶鵲を作り続ける。面白いなぁ。官吏なんて私服を肥やすだけ、と思いがちだけど、
丕緒たちは国政には関わらない下級官ではあるけれど、それなのにこれだけ民を思い、責任感を
持ち、その為に苦心する官吏も居る、人知れず戦っているんだとわかり、救われる気になる。
身分が低ければ伝わるけど、高い相手には伝わらない、そんな苦しみの中でも陶鵲を作り続けた
丕緒はすごいな。国を動かす事は無くても、これからも羅氏としての仕事を全うして欲しい。
あとこの作品で、予王以前の女王について知る事ができたのも良かった。ぜいたくに溺れた
薄王が17年、強大な権力に溺れた比王が23年。以前も書いたけど、そんなすぐに道を失う者に
天啓があるというのが不思議だなぁ。もっとマシな人はたくさん居ると思うんだけどな・・・。
【「落照の獄」あらすじ】
柳国では、狩獺という残忍な殺人者に対し民の怒りが爆発していた。民は殺刑を望んでいるが、
柳では殺刑を用いらない事になっており、また国が傾いている中で復活させると、乱用される
恐れがある。しかし殺刑を避ければ、民の心が司法から離れる・・・。司法の番人たちの苦悩。
瑛庚たちが何度も話し合いを重ね、時間をかけて検証している様子が良かったな。彼らもまた
本来は国の行く末を左右する立場で無い。でもここで死刑を復活させる事は、その後の国の
命運を握っている。だから慎重にならざるを得なかったし、どうしても死刑は避けたかった。
国や民の事を考える彼らの思いに多少なりとも胸を打たれたし、思いが報われて欲しかった。
しかし結局は、狩獺に敗北する。勝負では無いし、正確には負けた訳では無いのだけれど、
すべての人を教化する事はできないという現実を動かす事ができなかった。でも仕方が無いよ。
そういう人はどこにだって存在してしまうのだ。どうか自分たちを責めないで欲しいと思う。
これから柳はどんどん傾いていくのだろう。他作品でそう触れられていたけど、こちらも実際に
傾く、乱れるというのはこういう事だとようやくわかったような気がする。そして命の重みも。
ラストの、何かの予兆のように鉄格子の影が堂内を切り刻んでいたのは良い描写だな・・・。
狩獺は今で言うとサイコパスなのかもしれない。命を命と思わず、強盗をし住人に拷問をする、
一家を惨殺しその家に住み、死体は沢に渡し橋として使う、必要も無かったのに子どもを殺す。
残忍とは書いたけど、罪の意識が存在しない。自分が死刑になっても構わないと思っている。
ラストの狩獺の高笑いがつらかった。たくさんの罪の無い命を奪った人間が、勝者などであって
欲しくは無いのに。願わくば、処刑の際に狩獺が死を恐れますように。それならまだ救われる。
清花や淵雅のような人間も本当に厄介だ。清花は今で言うとTwitterで炎上させ騒く人かな。
たとえば最近の、ラブドールの規制を求める過激派の論法に酷似しているように感じる。清花も
瑛庚の言葉に聞く耳を持たず、理に対し情の話をしている。いっしょにしては駄目なのだ。
まぁでもそれは、僕が瑛庚の考えを知れる読者の立場だからそう思うだけなのかなぁ・・・。
僕も清花みたいに考えてしまう気持ちがわからないでもないもの・・・気をつけたいところだ。
こちらも、前妻の事を含め瑛庚は自分を責めなくて良いと思う。わかり合えない人も居るのだ。
淵雅は理想論を振り回し、それが己の理想ならまだ納得できる部分もあるけど、ただの借り物、
父の威を借る狐でしか無い。淵雅の人物評もすごく細かくリアルで、こういう人間を描けるの
すごいな・・・!と感嘆した。現実にモデルになるような人物が居るのだろうか?政治家とか?
淵雅はこれから確実に障害になる。賢帝と言われるような劉王も、息子には甘いのかな・・・。
以前も書いたかもしれないけど、劉王に何があったんだろうな。黥面の仕組みとかも面白く、
上手く機能していて、柳に凶悪犯罪が少ない事、死刑に罪を止める効力が無い事にも説得力が
あったのだけど、狩獺の処遇を司法に丸投げして、自ら破綻している政策を施行したりして。
雁国の為もあるけど、柳国が何とか持ち直してくれたら良いな・・・。もう遅いかもだけど。
十二国記シリーズでは初めてと言っても良い、救いの無いバッドエンドだった。面白いけどね。
あと、仙籍に入った妻が離縁した場合、仙籍に入っていた間の分下界は時間が進んでいるので、
両親や兄弟や友人はすでに死に、知り合いが誰も居ない状態で寄る辺無く、どこにも居場所が
無い孤独というのは考えていなかったな。国官になれば自分も家族も仙籍に入ると当たり前の事
のように考えていたけど、単純には考えられない、重い決断が必要な事だったのだな・・・。
「青条の蘭」でも、兄弟縁者の昇仙は許されない、どこかで線引きしないといけないとあった。
そうか、昇仙すれば、親や兄弟や友人たちをすべて看取らないといけないのだな。つらいな。
【「青条の蘭」あらすじ】
野木に生ずる新しい草木や鳥獣を集める任の官吏の標仲、山野の保全をつかさどる包荒は、
故郷の山で一本の変色した山毛欅を見つける。その枝はまるで石のように姿を変えていた。
年を経るごとにその奇病は広がっていく。このままでは山毛欅が倒れ、山毛欅が養っていた
野生動物たちが民の生活を脅かし、その根が抑えていた山肌が崩れ、盧や里を襲ってしまう。
標仲と包荒、そして猟木師の興慶は、何年もかけて奇病を止める薬になるものを探し続けた。
やっと「青条」と名づける蘭が薬になる事がわかったが、国府に奏上しても、一向に音沙汰が
無い。標仲は私財を投げ売り高官に便宜を図ってもらおうとしたが、あえなく裏切られる。
早くしなければ雪解けに間に合わない、標仲は直接王宮を目指す。その苦難の道のりの物語。
ラストの展開だけを覚えていた。こちらも、民を救う為に必死になって薬を探す標仲たちが
すごく良かった。ただの奇病ならいざしらず、自然の理の外の謎の病だから大変だ・・・。
どれが薬になるか、あらゆるものを試すのってまさに雲をつかむような話で、不眠不休で何年も
探し続けたその苦労を思うと頭が下がる。見つけてからも、どうすれば効くのか、栽培方法や
保存方法は・・・と考えるとはてしなく遠い道のりだ。みんなの努力が報われて良かったな。
その期間で、たくさんの身内が奇病の影響で亡くなったのはつらかったけど。「丕緒の鳥」も
そうだけど、みんな大切なものを失っている。物語に救いはあるけど、命はもう戻ってこない。
報われた、と書いたけど、金に目がくらんだ頼みの高官に裏切られ、興慶は国を追われる事を
余儀なくされる。黄朱の仲間と袂を分かち、その上犯罪者扱いされるなんて悲しすぎる・・・。
あんなに頑張ってくれたのに・・・。どうか彼も幸せになって欲しいと思う。でも戸籍が無いと
どこへ行ってもつらいだろうな。仲間の元へももう戻れない。彼のその後が気になるよ・・・。
山毛欅(ブナ)の設定が面白かったな。自然の中のその一つが壊れたらどう影響があるのか。
また地官遂人と果丞の設定の建前と実情の設定も。ファンタジーの世界でも世知辛いな・・・。
国が傾いているから余計にひどいのかな。今の雁国ならきっともっとクリーンなんだろうけど。
新王が践祚しても、現在の地位にしがみつこうとする者、この機に乗じて他者を蹴落とす者、
官位を失う前に私財をかき集めようとする者など、国情が以前よりもひどくなるとは・・・。
もちろん中には良い官吏も居る。「東の海神 西の滄海」に登場するメンバーなどがそれだ。
最後に「新王によって任じられた新しい地官遂人」という記述では「帷湍だ」と嬉しくなる。
読者はこれでもう安心だ、と胸をなで下ろし、ここで「これは五百年前の雁の話だったのか!」
とわかって面白さが増すんだよね。ここまでずっと伏せられていたから、カタルシスがすごい。
でも国府がきちんと機能していれば、王宮から騎獣を使って青条を受け取りにきてもらえたし、
興慶も王宮を目指した標仲もここまで苦しい思いをしなくて良かったのにな・・・と残念だ。
青条が帷湍を知る民の手に渡らなければ、標仲が考えたように彼の身分では謁見を許されず、
またどこかで握りつぶされていたかもしれない。最後の民へのリレーは本当に奇跡だったな。
標仲が脚を動かせなくなり、「もう無理だよ」と言われて泣くシーンはせつなくてぐっときた。
誰にも事の重大性を理解してもらえない・・・。それでも、そんな中で最後に標仲の意志を
継いでくれたのが民だった。標仲の事情も荷が何かも知らない、それでも国の為という言葉を
受けて、それまで国が何をしてくれた訳でも無いのに、力の限り走り続けてくれた。すごいな。
彼、彼女らもまた荒廃でたくさんのものを失っていたのに、それでも前を向いて生きていて、
託された思いをつなげてくれた。みな名も無き民だけど、その一人ひとりが居てこそ、国は
成り立っているのだな。標仲の言うように、すべての人が救われる日が早くきていますように。
【「風信」あらすじ】
予王の悪政により、慶に暮らす女性は国を追われた。家族や友人を失った蓮花もまた、旅の末に
慶を出ようとしていたが、その折に王が斃れた事を知る。身寄りも無く、虚しさで空っぽに
なってしまった蓮花は進むのも戻るのもやめ、その場に留まる事に決める。親切な大人たちが
保章氏の住む園林での働き口を見つけてくれ、蓮花はそこで奇妙な人々の世話をする事になった。
この作品は内容を完全に失念していた。予王が慶から女性を追放した事は何度も語られていた
けど、こうして空行師に射られ、逃がそうとした家族まで殺された上に、女性を燻り出す為に
街に火を点けるなんてひどい事までやっていたとは・・・と実際の非道を知りつらくなった。
州師はそこまでする必要なんて、そんな命令に従う必要なんてどこにも無いはずなのに・・・。
でも一番好きな話。深く傷ついた蓮花が、支僑たちとの暮らしの中で癒えていくのが嬉しい。
変わった人ばかりだけど、その奇妙さが心地良く、親しみを感じられる。それだけじゃなく、
みんな蓮花が下働きだと雑に扱わず、相手を尊重して丁寧に接しているのもとても良いなぁ。
この暮らしがずっと続いていくと良いな・・・蓮花が候風や保章氏になって欲しいなとも思う。
それかいつか、自分の夢を得て外の世界に飛ぶ立つ日がくるのかもしれない。それもまた良い。
彼女のその後の物語をぜひ読みたいけど、無理かなぁ。いつか本編で登場したりしないかなぁ。
暦を作る仕事の設定も面白い。それもただの暦じゃなくて、風土を様々な角度から検証した、
その場所に合った、農作物の出来を左右する大事なもの。農民の失敗で民が飢える事になる、
なのでとても大切な仕事なのだとわかるのが良い。なるほどな。嘉慶の「戦うことが道なら、
日々を支えるのもまた道」という言葉も良かった。僕にも戦う事はできない。新都社においても
そうで、直接新都社の役に立つシステムを作ったり、住人を呼び込んだりする事はできない。
でも、何かの支えになれたら良いなと思う。その為に、ささやかでも活動していきたいと思う。
ラストも忘れていていたので、希望のある美しいシーンで本当に良かった。候風は新しい王が
立った事もわかるんだ!日々の何気ない日常の観察が結びついているのが何だか無性に嬉しい。
優しい支僑の言葉に救われる。蓮花もココロを抑えず、失った家族を想い泣けて良かったなぁ。
以上、新鮮に楽しめて良かったです。さて一年近くかけて読み返してきた十二国記シリーズ、
来月からはいよいよ新作を読み始める予定です。どんな話なるのか緊張するな!それではまた。
十二国記シリーズの第8作目、これまでの王や麒麟では無く、官や民に焦点を当てた作品です。
読むのは2回目、七年前に読んで以来。ついこないだだと思っていたけど、内容を忘れていた。
【「丕緒の鳥」あらすじ】
慶国の射儀に用いる陶鵲を作る射長氏の祖賢、羅人の簫蘭、そして羅氏の丕緒。職務に真剣で、
王の為に、そして自分たちの為に良い陶鵲を思案し作り続けていたが、祖賢は冤罪で、簫蘭は
予王による悪政で失われた。陶鵲に民の姿を重ね、それが壊れる事で王にその現実を伝えようと
丕緒は工夫を重ねるが、王から賜った言葉で思いが届かないと悟り、陶鵲を作る意欲が消え、
思案も枯れ果てた。その後新たな王が践祚する。丕緒にはまた陶鵲を作るように指示された。
内容を忘れていたので楽しめた。しかし祖賢が、簫蘭も恐らく殺されたのは悲しかった・・・。
あんなにも一生懸命で、楽しい時間を過ごした仲間たちが・・・と。王が悪政を敷く、これまで
端的に語られていただけに留まっていたけど、実際に虐げられる人々の目線に立つとこんなにも
無慈悲でひどいものなのだ、とわかってつらかった。今までまったくわかっていなかったな。
だから最後、丕緒たちの思いが陽子に届いて本当に良かった。枯れたと思っていたアイディアが、
陽子の言葉をキッカケに次々と浮かんでくるラストも。深く追求せず、自然に描かれている。
この陶鵲という設定、とても細かくて面白いなぁ。その成り立ちから工夫されていった様子、
いろんなパターンの陶鵲のアイディア。この世に存在しないアイテムをここまで広げられるの、
ただただすごいな・・・。しかもそれを民の姿とリンクさせ、丕緒は民の為に、王にその思いを
伝える為に陶鵲を作り続ける。面白いなぁ。官吏なんて私服を肥やすだけ、と思いがちだけど、
丕緒たちは国政には関わらない下級官ではあるけれど、それなのにこれだけ民を思い、責任感を
持ち、その為に苦心する官吏も居る、人知れず戦っているんだとわかり、救われる気になる。
身分が低ければ伝わるけど、高い相手には伝わらない、そんな苦しみの中でも陶鵲を作り続けた
丕緒はすごいな。国を動かす事は無くても、これからも羅氏としての仕事を全うして欲しい。
あとこの作品で、予王以前の女王について知る事ができたのも良かった。ぜいたくに溺れた
薄王が17年、強大な権力に溺れた比王が23年。以前も書いたけど、そんなすぐに道を失う者に
天啓があるというのが不思議だなぁ。もっとマシな人はたくさん居ると思うんだけどな・・・。
【「落照の獄」あらすじ】
柳国では、狩獺という残忍な殺人者に対し民の怒りが爆発していた。民は殺刑を望んでいるが、
柳では殺刑を用いらない事になっており、また国が傾いている中で復活させると、乱用される
恐れがある。しかし殺刑を避ければ、民の心が司法から離れる・・・。司法の番人たちの苦悩。
瑛庚たちが何度も話し合いを重ね、時間をかけて検証している様子が良かったな。彼らもまた
本来は国の行く末を左右する立場で無い。でもここで死刑を復活させる事は、その後の国の
命運を握っている。だから慎重にならざるを得なかったし、どうしても死刑は避けたかった。
国や民の事を考える彼らの思いに多少なりとも胸を打たれたし、思いが報われて欲しかった。
しかし結局は、狩獺に敗北する。勝負では無いし、正確には負けた訳では無いのだけれど、
すべての人を教化する事はできないという現実を動かす事ができなかった。でも仕方が無いよ。
そういう人はどこにだって存在してしまうのだ。どうか自分たちを責めないで欲しいと思う。
これから柳はどんどん傾いていくのだろう。他作品でそう触れられていたけど、こちらも実際に
傾く、乱れるというのはこういう事だとようやくわかったような気がする。そして命の重みも。
ラストの、何かの予兆のように鉄格子の影が堂内を切り刻んでいたのは良い描写だな・・・。
狩獺は今で言うとサイコパスなのかもしれない。命を命と思わず、強盗をし住人に拷問をする、
一家を惨殺しその家に住み、死体は沢に渡し橋として使う、必要も無かったのに子どもを殺す。
残忍とは書いたけど、罪の意識が存在しない。自分が死刑になっても構わないと思っている。
ラストの狩獺の高笑いがつらかった。たくさんの罪の無い命を奪った人間が、勝者などであって
欲しくは無いのに。願わくば、処刑の際に狩獺が死を恐れますように。それならまだ救われる。
清花や淵雅のような人間も本当に厄介だ。清花は今で言うとTwitterで炎上させ騒く人かな。
たとえば最近の、ラブドールの規制を求める過激派の論法に酷似しているように感じる。清花も
瑛庚の言葉に聞く耳を持たず、理に対し情の話をしている。いっしょにしては駄目なのだ。
まぁでもそれは、僕が瑛庚の考えを知れる読者の立場だからそう思うだけなのかなぁ・・・。
僕も清花みたいに考えてしまう気持ちがわからないでもないもの・・・気をつけたいところだ。
こちらも、前妻の事を含め瑛庚は自分を責めなくて良いと思う。わかり合えない人も居るのだ。
淵雅は理想論を振り回し、それが己の理想ならまだ納得できる部分もあるけど、ただの借り物、
父の威を借る狐でしか無い。淵雅の人物評もすごく細かくリアルで、こういう人間を描けるの
すごいな・・・!と感嘆した。現実にモデルになるような人物が居るのだろうか?政治家とか?
淵雅はこれから確実に障害になる。賢帝と言われるような劉王も、息子には甘いのかな・・・。
以前も書いたかもしれないけど、劉王に何があったんだろうな。黥面の仕組みとかも面白く、
上手く機能していて、柳に凶悪犯罪が少ない事、死刑に罪を止める効力が無い事にも説得力が
あったのだけど、狩獺の処遇を司法に丸投げして、自ら破綻している政策を施行したりして。
雁国の為もあるけど、柳国が何とか持ち直してくれたら良いな・・・。もう遅いかもだけど。
十二国記シリーズでは初めてと言っても良い、救いの無いバッドエンドだった。面白いけどね。
あと、仙籍に入った妻が離縁した場合、仙籍に入っていた間の分下界は時間が進んでいるので、
両親や兄弟や友人はすでに死に、知り合いが誰も居ない状態で寄る辺無く、どこにも居場所が
無い孤独というのは考えていなかったな。国官になれば自分も家族も仙籍に入ると当たり前の事
のように考えていたけど、単純には考えられない、重い決断が必要な事だったのだな・・・。
「青条の蘭」でも、兄弟縁者の昇仙は許されない、どこかで線引きしないといけないとあった。
そうか、昇仙すれば、親や兄弟や友人たちをすべて看取らないといけないのだな。つらいな。
【「青条の蘭」あらすじ】
野木に生ずる新しい草木や鳥獣を集める任の官吏の標仲、山野の保全をつかさどる包荒は、
故郷の山で一本の変色した山毛欅を見つける。その枝はまるで石のように姿を変えていた。
年を経るごとにその奇病は広がっていく。このままでは山毛欅が倒れ、山毛欅が養っていた
野生動物たちが民の生活を脅かし、その根が抑えていた山肌が崩れ、盧や里を襲ってしまう。
標仲と包荒、そして猟木師の興慶は、何年もかけて奇病を止める薬になるものを探し続けた。
やっと「青条」と名づける蘭が薬になる事がわかったが、国府に奏上しても、一向に音沙汰が
無い。標仲は私財を投げ売り高官に便宜を図ってもらおうとしたが、あえなく裏切られる。
早くしなければ雪解けに間に合わない、標仲は直接王宮を目指す。その苦難の道のりの物語。
ラストの展開だけを覚えていた。こちらも、民を救う為に必死になって薬を探す標仲たちが
すごく良かった。ただの奇病ならいざしらず、自然の理の外の謎の病だから大変だ・・・。
どれが薬になるか、あらゆるものを試すのってまさに雲をつかむような話で、不眠不休で何年も
探し続けたその苦労を思うと頭が下がる。見つけてからも、どうすれば効くのか、栽培方法や
保存方法は・・・と考えるとはてしなく遠い道のりだ。みんなの努力が報われて良かったな。
その期間で、たくさんの身内が奇病の影響で亡くなったのはつらかったけど。「丕緒の鳥」も
そうだけど、みんな大切なものを失っている。物語に救いはあるけど、命はもう戻ってこない。
報われた、と書いたけど、金に目がくらんだ頼みの高官に裏切られ、興慶は国を追われる事を
余儀なくされる。黄朱の仲間と袂を分かち、その上犯罪者扱いされるなんて悲しすぎる・・・。
あんなに頑張ってくれたのに・・・。どうか彼も幸せになって欲しいと思う。でも戸籍が無いと
どこへ行ってもつらいだろうな。仲間の元へももう戻れない。彼のその後が気になるよ・・・。
山毛欅(ブナ)の設定が面白かったな。自然の中のその一つが壊れたらどう影響があるのか。
また地官遂人と果丞の設定の建前と実情の設定も。ファンタジーの世界でも世知辛いな・・・。
国が傾いているから余計にひどいのかな。今の雁国ならきっともっとクリーンなんだろうけど。
新王が践祚しても、現在の地位にしがみつこうとする者、この機に乗じて他者を蹴落とす者、
官位を失う前に私財をかき集めようとする者など、国情が以前よりもひどくなるとは・・・。
もちろん中には良い官吏も居る。「東の海神 西の滄海」に登場するメンバーなどがそれだ。
最後に「新王によって任じられた新しい地官遂人」という記述では「帷湍だ」と嬉しくなる。
読者はこれでもう安心だ、と胸をなで下ろし、ここで「これは五百年前の雁の話だったのか!」
とわかって面白さが増すんだよね。ここまでずっと伏せられていたから、カタルシスがすごい。
でも国府がきちんと機能していれば、王宮から騎獣を使って青条を受け取りにきてもらえたし、
興慶も王宮を目指した標仲もここまで苦しい思いをしなくて良かったのにな・・・と残念だ。
青条が帷湍を知る民の手に渡らなければ、標仲が考えたように彼の身分では謁見を許されず、
またどこかで握りつぶされていたかもしれない。最後の民へのリレーは本当に奇跡だったな。
標仲が脚を動かせなくなり、「もう無理だよ」と言われて泣くシーンはせつなくてぐっときた。
誰にも事の重大性を理解してもらえない・・・。それでも、そんな中で最後に標仲の意志を
継いでくれたのが民だった。標仲の事情も荷が何かも知らない、それでも国の為という言葉を
受けて、それまで国が何をしてくれた訳でも無いのに、力の限り走り続けてくれた。すごいな。
彼、彼女らもまた荒廃でたくさんのものを失っていたのに、それでも前を向いて生きていて、
託された思いをつなげてくれた。みな名も無き民だけど、その一人ひとりが居てこそ、国は
成り立っているのだな。標仲の言うように、すべての人が救われる日が早くきていますように。
【「風信」あらすじ】
予王の悪政により、慶に暮らす女性は国を追われた。家族や友人を失った蓮花もまた、旅の末に
慶を出ようとしていたが、その折に王が斃れた事を知る。身寄りも無く、虚しさで空っぽに
なってしまった蓮花は進むのも戻るのもやめ、その場に留まる事に決める。親切な大人たちが
保章氏の住む園林での働き口を見つけてくれ、蓮花はそこで奇妙な人々の世話をする事になった。
この作品は内容を完全に失念していた。予王が慶から女性を追放した事は何度も語られていた
けど、こうして空行師に射られ、逃がそうとした家族まで殺された上に、女性を燻り出す為に
街に火を点けるなんてひどい事までやっていたとは・・・と実際の非道を知りつらくなった。
州師はそこまでする必要なんて、そんな命令に従う必要なんてどこにも無いはずなのに・・・。
でも一番好きな話。深く傷ついた蓮花が、支僑たちとの暮らしの中で癒えていくのが嬉しい。
変わった人ばかりだけど、その奇妙さが心地良く、親しみを感じられる。それだけじゃなく、
みんな蓮花が下働きだと雑に扱わず、相手を尊重して丁寧に接しているのもとても良いなぁ。
この暮らしがずっと続いていくと良いな・・・蓮花が候風や保章氏になって欲しいなとも思う。
それかいつか、自分の夢を得て外の世界に飛ぶ立つ日がくるのかもしれない。それもまた良い。
彼女のその後の物語をぜひ読みたいけど、無理かなぁ。いつか本編で登場したりしないかなぁ。
暦を作る仕事の設定も面白い。それもただの暦じゃなくて、風土を様々な角度から検証した、
その場所に合った、農作物の出来を左右する大事なもの。農民の失敗で民が飢える事になる、
なのでとても大切な仕事なのだとわかるのが良い。なるほどな。嘉慶の「戦うことが道なら、
日々を支えるのもまた道」という言葉も良かった。僕にも戦う事はできない。新都社においても
そうで、直接新都社の役に立つシステムを作ったり、住人を呼び込んだりする事はできない。
でも、何かの支えになれたら良いなと思う。その為に、ささやかでも活動していきたいと思う。
ラストも忘れていていたので、希望のある美しいシーンで本当に良かった。候風は新しい王が
立った事もわかるんだ!日々の何気ない日常の観察が結びついているのが何だか無性に嬉しい。
優しい支僑の言葉に救われる。蓮花もココロを抑えず、失った家族を想い泣けて良かったなぁ。
以上、新鮮に楽しめて良かったです。さて一年近くかけて読み返してきた十二国記シリーズ、
来月からはいよいよ新作を読み始める予定です。どんな話なるのか緊張するな!それではまた。