はいこんばんはRM307です。今週は読書回、小野不由美作の「風の万里 黎明の空」下巻の感想。
上巻の感想http://rm307.blog.jp/archives/80869876.html

【あらすじ】
里家で遠甫という老人から十二国の世界の事を学ぶ陽子。景王に会う旅の途中で出会った
清秀という子どもを止水郷の郷長昇紘に轢き殺され、昇紘と景王を弑する事を決意する
楽俊と出会い自分の罪を知り、景王の造る国を見に慶へ向かう祥瓊。三人の運命が交錯する。

あらすじは前回のように時間をかけて書いてもたぶん誰も読まないので、今回はあっさり目に。


いやーやっぱり面白かったですね。夢中になって二日で読み切ってしまった。僕にしては早い。
鈴や祥瓊に対し、母は昔「そんなにすぐ改心するなんてあり得ない」なんて言っていたけど、
まぁたしかに創作だから上手くいきすぎているところはあるけど、やっぱり良い展開だと思う。
禁軍が乗り出した事で虎嘯たちを非難し、城門を開けるように言いにきた街の代表革午に対し、
祥瓊が公主である事を名乗り出て、鈴が旅券に書かれた采王の御名御璽を見せる。決まった!w
そして戦場に突如現れた景麒に騎乗し、禁軍を一喝した陽子。「主上の御前にあって、なにゆえ
許しもなく頭を上げるか」という景麒の言葉に平伏する一同、ここは水戸黄門メソッドだよねw
まぁ身分を隠して虐げられた人々とともに悪と戦う、というところからすでにそうなんだけど。

見知った枠組みではあるけれど、それを支える世界観、設定がしっかりしているから楽しめる。
酷吏である呀峰を捕らえられない理由に、徴収された高い割合の税で名目通り土地の整備を行い、
実際に堤や橋が作られていては国は咎められないというものがある。しかもその税は税では無く、
供託された金だと言い張り、その上作った堤や橋は簡単に壊れるように作られている。それも
人夫が手を抜くと言うので何も言えない。七割の税うち、四割が呀峰の取り分になっている。
なるほど、手を出せない理由に説得力がある。雁と柳の国境の宿についての描写も好きだな。
豊かな国である雁には最低の宿が無い。だから貧しい旅人や荒(難)民は柳の宿に駆け込む。
その話から、人が集まる豊かな雁だからこそ、流入した民との貧富の差、追いつめられた浮民や
荒民による犯罪に長年頭を悩まされているという話に。十二国の世界にも難民問題があるんだな。
隣国だからとは言われていたけど、延王が慶や柳の心配をする一番の理由がこれだったのか。

あと忘れていた部分で、どんなに富んだ者でも、子どもに自分の財産を分け与える事ができない
というものがあった。六十になれば土地も家も国に返さないといけない。そうだったっけ!
十二国の世界が、何百年も何千年も変わらない生活スタイルが続いている理由の一つだな。
恥ずかしながら浅学でわからないのだけど、この世界にもこういうシステムの国はあるのかな?
だから、十二国の世界では自分の子どもを持つという意味も変わってくる。自分の遺伝子を
継いでいく訳でも無く、財産を受け継がせていく訳でも無い。実際は手やお金がかかるだけ。
ただ、子を与えられ、その子を立派に育てる事が人にとって道を修める事につながっている。
子を通し天に仕える、だから親は子に尽くす。面白いな。こちらには良い親も多そうな気がする。
たくさんの子連れの再婚は、それだけ親の資格があったのだからと歓迎されるもの面白い設定。

一番痺れたのは、虎嘯の元に単身乗り込んだ陽子が、虎嘯たちの昇紘を倒そうという狙いを知り、
その剣で仙は斬れるかと問われた時の「――斬れる」という一言。ここ忘れていたから興奮したw
陽子カッコ良いなぁ・・・。この妓楼に乗り込む時の、仲間の一人に剣を突きつけて「あくまで
隠すと言うなら、虎嘯もお前も犯人とみなす」と脅すところも良い。男が言うように無茶苦茶w
ここだけ切り取ると、王だなんて想像できないな。ましてや少し前まで女子高生だったなんてw

まぁでも年相応というか、物慣れない反応もあったりする。景麒が里家を訪ねてきた際、蘭玉
「下僕が来たと言ってもらえれば分かるはずだ」と伝え、陽子が蘭玉にからかわれるシーン、
その件で景麒を言外に軽く非難し、「いいけどね」と言うシーンなど。微笑ましいやりとりだ。
ここでは陽子の言いたい意味のわかっている班渠がくつくつと笑っているのも良い。感情豊かw
「わたしは誰とも申しあげておりませんが。浩瀚のことを真っ先に思い出されるのでしたら、主上になにか負い目があるからでしょう」
 陽子は小さく溜め息を落とした。
「景麒は麒麟とは思えないぐらいいやみだな」
「主がとにかく頑固ですから、これぐらいでいいんです」
 くつくつと陽子は笑って立ち上がった。
このやりとりも良い。こうやって嫌味を言いながらでも、ふたりが上手くやっていけたら良いな。
戦いが終わった後の陽子の、反乱分子に混じってともに戦った事は楽俊には内緒にして欲しい、
と上目遣いで祥瓊に頼むところも好き。「陽子がどうしてもって言うんなら助けてあげないでも
無い」と言われて「どうしても」と頼むところとかも、鈴や祥瓊のような同じくらいの年代の
女の子といっしょに居る時は、王である時のように気を張らなくて良いんだなと気づかされる。

上巻でも書いたけど、やっぱり楽俊の存在には救われますね。本当に大きな役割を担っている。
祥瓊と別れる際に、雁からもらった旅費からでは無く、自分の懐からお金を渡すところとかも
めちゃくちゃすごい。作中でも語られていたけど、姓の関係から王に慣れないのが本当に残念。
同じ姓が続けて王になれないだけなのか、それとも一度別の姓を挟んだらまた王になれるのか。
こんなにできた人間なんだから、王になって巧国を良くしていって欲しいんだけどなぁ・・・。
それかせめて有能な官吏になって、巧、あるいは陽子の元で慶の力になって欲しいなと思う。

虎嘯たち殊恩の人々も、できた人間とは少し違うかもしれないけど、民衆の事をしっかり考えて
行動した立派な人たち。昇紘を討つだけだと郷府の人間が犯人探しをして民を虐げるだけなので、
自分たちがやった事を示しながら逃亡する。それも戦い続けるには笑えるぐらい少ない人数で。
このへんの展開も良いですよね。復讐させて終わりの物語は多そうだけど、考えられている。
和州師が殊恩の人々をいぶり出す為に街に火を放った時、虎嘯たちが出ていけば勝つ見込みが
無くなる、しかし出ていかなければ単なる人殺しになってしまう!と義憤を私憤にさせないよう
街の人々を逃しに行くところもカッコ良い。「東の海神~」の斡由にはできなかった事だな。
虎嘯といえば、弟の夕暉とあまり似ていなかったなと思い出したけど、そうか、この世界では
家族も兄弟も似ていないんだったなwそれに血のつながっているうちの姉妹も似ていなかったw

そして里家の姉弟の蘭玉と桂桂。やっと新王が登極して明るい未来はこれからだという時に・・・。
ふたりが幸せに生きて欲しかったなぁ。蘭玉が殺されるシーンは読んでいて一番つらかった。
一度この前で読むのを止めてしまった。どうしてあんなに何度も何度も斬りつけられないと
いけなかったのだろう。目的は遠甫を攫うだけで、そこまでする恨みがある訳では無いのに。
一体蘭玉が何をしたというのだ・・・。こんなふうに殺されるべきでは無かったのに・・・。
呀峰が捕まった事で、この下手人たちも捕らえられ、死をもって裁かれて欲しいと強く願った。


以上、読み終わりたくない、もっと読んでいたいと思う小説は久しぶりだったな。それではまた。

Web拍手

この感想も書くのがめちゃくちゃしんどくて、5時間以上かかった・・・やっぱりやめようかなぁ。