はいこんばんはRM307です。読書回の今週は小野不由美作の「白銀の墟 玄の月」2巻の感想。
1巻の感想https://rm307.blog.jp/archives/82632252.html

【あらすじ】
項梁と王宮へ戻った泰麒は偽王阿選と対面し、彼を新王だという泰麒の欺瞞は受け入れられた。
これで州候の任を果たせると思っていた泰麒だったが、待っていたのは事実上の軟禁だった。
一方李斎たちは函養山周辺で驍宗を捜索していたが、一向に何の手がかりも得られずにいた。
代わりに知るのは王の不在による戴の民の厳しい現状。そんな中で阿選が践祚するという噂を
聞く。あり得ないと驚く李斎たちだったが、同時に聞いた情報はもっと驚くべきものだった。
驍宗が亡くなった。李斎たちは間に合わなかったのか。そしてこれからどうすべきなのか――。


僕はこの作品を読むまで、きっと驍宗を探し出し、直接的では無いにしろ阿選を斃して玉座を
取り返す、そしてハッピーエンドな物語になるだろうとどこか当たり前のように思っていた。
しかし実際は、泰麒は王宮へ戻る、驍宗と思われる人物は亡くなったと、驚く展開が続いた。
言うまでもない当然の事だけど、やっぱり僕なんかの予想は簡単に上回る面白さだな・・・!

しかし実際に驍宗が死んだとは思えない。辻褄は合っているけれど齟齬が生じているというか。
謎の人物の遺物は驍宗のものでは無かったが禁軍のもので、容姿も振る舞いも驍宗を思わせる。
ただ、亡くなったタイミングと泰麒が一行を離れたタイミングは合致しているけど、恐らく
泰麒は王気を感じる事ができないし、泰麒も自身の発言は方便だったと白状しているので、
これは偶然かもしれない。しかし泰麒は阿選に王気を感じたと発言し、驍宗の気配も感じると
発言している。そして阿選を憎んでいるような素振りが無く、祈ってさえいるように見える。
でも驍宗を禅譲させる為に王宮へ連れてこさせようとするのは、とても良い手のように思える。
というように、一方を信じたら一方に違和感が生まれ、どこか一貫していないんだよね・・・。
まだ判断できない。というかやっぱり、驍宗の死を信じたくないのだよな。泰麒とまた再会して
国を治めて欲しいし、阿選に天命が下るなんて信じたくない。物語的にもハッピーエンドには
ならないし。でもメタ的な話をすると、4巻の表紙が阿選ぽいのが気になるんだよなぁ・・・。
風の海 迷宮の岸」でだったか忘れたけど、麒麟は相手を憎んでいても天命には逆らえないと
書かれていてずっと気になっていた。ここで回収される為に張られた長年の伏線だったのかな。

ほとんど人の前に姿を現さない阿選は、実はすでに王宮には居ないのでは・・・?なんて予想も
していたけど、居る事は居るんだな。無気力な彼は普段は何をして過ごしているのだろうか?
泰麒の腕を斬ったシーン、もっと浅く斬れよと腹が立った。まぁもともと泰麒を殺そうとした
(それとも角だけを斬るつもりだった?)し、そんな優しさは持ち合わせていないか・・・。
正頼も囚われて拷問されているのか・・・キツすぎる。もしかして阿選に通じているのでは、
と思った事もあったけど、実際はどうなんだろう。拷問されていないなら、その方が良いけど。

そんな中で琅燦の立ち位置がまったくわからない。「黄昏の岸 暁の天」の時点で何か裏がある
人物だと思っていたけど、阿選に粗雑な口を利いているけど対立はしておらず、対等なようで、
驍宗には敬称をつけているけど実は阿選に簒奪をそそのかしたのでは無いかとも目されている。
天の配剤に触れた部分も興味深かった。禅譲した後に死ぬまで猶予がある事も知らなかったな!
その行いが教条的と言われる天が天命を革める場合は、以下の二つしか無いと考えられている。
  • 王に非があって失道にあたると判断される場合
  • 自ら位を降りた場合
だから非の無い驍宗は失道にあたらないので、天命を変えられない。なるほど、面白いなぁ。
以前も書いたけど、このへんは明確なシステムが働いているよなぁ・・・。だからこそ、僕は
琅燦の言う通りに天が動いたとは考えられない。あくまで教条的に動くのであれば、このまま
天は戴を放置していたような気がする。その方が一貫しているように感じるんだけど・・・。
あとこのくだりで一番気になったのは、阿選は実は驍宗を弑するのに失敗した訳では無い事。
殺すつもりは無かったのか?では今の状況を作り出す事が阿選の目的だったのか?何の為に?
そして琅燦の目的はいったい・・・。一連の流れから、天を相手取り天を試したいのか・・・?
阿選が天に選ばれないもう一つの理由も気になるな・・・それをなぜ琅燦が知っている訳も。
あとは耶利の主も気になるところだ。彼もまた、阿選が王になる事は無いと断言している。

泰麒を取り巻く人々、その中で恵棟は阿選側の人間だったけど好感を持つ事ができた。泰麒と
張運の間で板挟みになっていたけど、泰麒や民を思う気持ちが本人にも伝わって良かったな。
それと恵棟の朋友の友尚、服を脱ぎ散らかす面白いキャラw高官にもそんな人が居るんだなw
その友尚の服を恵棟が畳みながら話すシーンも良いな。阿選の麾下にもまともな人は居るんだ。
一兵卒からの叩き上げで、事務仕事の苦手な伏勝も良かった。後の巻で活躍するのだろうか?

そして味方では無い平仲淶和。早く自邸に戻って子どもに会いたいと思う平仲には同情する。
でもそんな彼は役目が変わったとの事だった。昇進だけど、喜んであげられない不穏さがある。
淶和はやっぱり間諜だったのだな。でも1巻で泰麒の様子を報告するように言った立昌も、もう
興味を失くしたようだった。朝廷を襲っている無気力の波がどんどん押し寄せているのか。
今回登場した謎の鳩の鳴き声。これがそのひみつみたいだ。さらにまじないというワードも
あって、それは冬官の領分らしい。やっぱり元冬官の琅燦がキーになっているみたいだ・・・。

李斎一行パートは、その捜索がことごとく徒労に終わるのだけど、一つとして無駄では無く、
その道程で戴の窮状などを知れたのが良かった。こういう描写一つ一つが重要なのだよな。
1巻に続き、酷なシーンが描かれていた。仲活は女房が化粧をしても気づかなかったけど、
残された手だけですぐにそれとわかった。せつない・・・それでも笑って前を向いて生きるのが
すごい。僕だったら絶対に無理だろうな。1巻に登場した貧しい一家は、自分の食事を妹たちに
分け与えていた姉が痩せ細って死んでしまった。父親の悲痛な叫びがとてもつらかった・・・。
里に入れず凍死した老人と孫、強盗の恐れもあって外を伺わなかった女性は、自分が強盗に
襲われて死んだ。彼らの死が後ろめたくて黙殺できなかったのだろうという予想は悲しすぎる。
そしてそれを見越した近隣の誰かの犯行かもしれないという予想はもっとやりきれなくなる。
本当に王が玉座に居れば、府第が機能していれば防げた死だったのかもしれないのに・・・。

王の不在による荒廃をこれでもかと実感させられた。そして王の絶対的な必要性も。だから、
梳道の言った「いるかいないか分からない、民のために何一つできない王ではなく、実際に
玉座に坐り、民のために政を施してくださる王が」必要だというシーンではせつなかった。
だからこそ、阿選に追われる事無く、驍宗に玉座に居て欲しかった。そして民には新王が必要
なのかもしれないけど、それが阿選であって欲しくない。僕も許すなんてあり得なかった。

李斎はよく衝動を抑えられず、相手に本心から発言する事が多く、読んでいてはらはらしたな。
実際に驍宗を捜している事が噂になっていたし、いつ阿選側にバレてもおかしくなかったのだ。
命を狙われている身だし、これからはもっと言動に気をつけて、慎重になって欲しいな・・・。
李斎たちの噂を聞きつけ、驍宗らしき人物が毒を盛られ命を落とす事になってしまったけど、
無関係な僕は、阿選側に知られて誅伐を受ける恐れもあった老安の人々を責める事はできない。
でも捜す事は必要だったと思う。どうすれば良かったんだろうな。どちらにも非は無いのだ。
とにかく願うのは、驍宗は実は生きていて、無事玉座に戻る事、そして戴の民が救われる事だ。

あと新たに知った情報では、切られた白雉の脚がだんだん黄金に変じるという事。だから王が
不在の間に御璽の代わりになるのだな!その白雉がまだ落ちていない事も気になるポイントだ。
それとどうでも良い事だけど、鄷都が子どもに「こんにちは」と話しかけたシーンがあって、
この世界でも「こんにちは」って言うんだな!こちらでは当たり前に使っている言葉だから、
何だか平和すぎてギャップがあるなと思ってしまった。戴も、早く平和になって欲しい・・・。


以上、面白かったです。まだ全4巻の半分、この先どうなるか予想もつかない!それではまた。

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