はいこんばんはRM307です。読書回の今週は小野不由美作の「白銀の墟 玄の月」4巻の感想。
1巻の感想https://rm307.blog.jp/archives/82632252.html
2巻の感想https://rm307.blog.jp/archives/82890451.html
3巻の感想https://rm307.blog.jp/archives/83094246.html

【あらすじ】
戴の朝廷は泰麒を中心に動きつつあり、徐々に民の救済が行われるようになっていった。廃坑の
奥深くに囚われた驍宗は、静かに眠る騶虞と出会いこれを捕え、ようやく暗闇から脱出する。
かつての驍宗麾下たちと再会した李斎たち墨幟は規模を大きくし、王師に対抗できるほどの
人員が集まっていった。そして土匪朽桟を助ける為に友尚軍との戦いに駆けつけた際、ついに
驍宗と再会する。後は驍宗と雁に渡り助力を願い、阿選を斃すだけ――。順調に思われたが、
阿選の前に次々と失われていく命、囚われる驍宗。もう誰も驍宗を助け出す事はできない――。
李斎も泰麒もすべてを諦めるが、それでも身命を賭して驍宗の、民の、戴の為に最後まで抗う。


驍宗の居場所がわかり、李斎と阿選、どちらが最初に接触するのかと思っていたら、騶虞を
手懐けて自分から出てくる驍宗。すごいwさすがは王だ。騶虞を手懐ける為の段取りが細かく
描かれていて、これだけ説得力のあるプロセスを想像するのすごいな・・・と改めて思った。
驍宗一人でも懐柔できたし、すぐに甘えてきたし、羅睺は元から人懐っこい子だったのかな。
李斎たちの驍宗との再会シーンも良かったなぁ。泣きじゃくる静之泓宏が微笑ましかった。

非合法な存在である土匪で、国を取り戻した後は敵になる朽桟たちとの関係も良かったな。
彼らの窮地に駆けつけた李斎たちに「莫迦か」と言いながらも鼻の奥が熱くなったシーンが
特に好き。最初は露見するのは得策じゃない、助けるのはやめた方が良いと思っていたけど、
結果的に驍宗と再会するキッカケになったので僥倖だった。以前の感想で李斎はもう少し自分を
抑えて欲しいと書いたけど、その熱い性分で運命が良い方向へ動いたのだな。その後墨幟として
いっしょに戦う事になった経緯も良かった。少しずつ味方が増えていくのが嬉しかったなぁ。

友尚も、阿選の麾下だけど道理がわかっていた人物だったし、阿選の口封じの指示や烏衡らに
よって苦しい思いをしていたのを不憫に感じていたので、墨幟に寝返ってくれて嬉しかった。
阿選に従っていた兵たちも、決してその残虐なやり方を支持していた訳では無かったのだな。
あと友尚の、相変わらず服を脱ぎ散らかすくせも描写されていて良かったwユニークだなぁ。
驍宗の元へ行く際の、弦雄との軽妙なやりとりも良かった。そして「我々麾下の務めだ」という
セリフ。阿選に背き討とうとしていても、麾下だった事は今でも否定していないのだな・・・。

霜元の「阿選に手が届いた」から希望を見出せたのに、中盤以降どんどん味方が死んでいき、
あれだけ居た墨幟がわずかな人数になっていったのが悲しかった。名前のあるキャラも、特に
鄷都の死や生死不明になった静之が悲しかった・・・。鄷都は最初期から、たった数名の頃から
ずっと李斎たちと戦い続けてきたのに。あと少しで平和な日々に還る事ができたのに・・・と。
静之も驍宗と目されていた人物が亡くなった時にあれだけ後悔したり、再会できた時にあれだけ
喜んだり、囚われた驍宗の事も最後まで想い続けてついに救えたりしたのに・・・と。つらい。
葆葉、朽桟、梳道、高卓戒壇勢や牙門観勢や檀法寺勢も・・・。名前の無い兵や土匪も数多く。
まだ戴には不羈の民がたくさん残っている事が嬉しくて、味方が増えて心強く思っていたのに。
李斎の騎獣の飛燕も、慶までの苦しい旅を耐え抜き、幾多の危機も乗り越えてきたのに・・・。
泰麒も再会できずに悲しかっただろうな・・・。騎獣だけど、動物が死ぬ展開はやはり堪える。
泰麒を支えた恵棟も、3巻であんなに感動的なシーンがあったのに、文州候として驍宗たちを
助けられるようになったと思ったのに、阿選により病んでしまって・・・とても悲しかったな。
そしてついに泰麒が阿選に面と向かって欺瞞を指摘されて。はらはらする怖いシーンだった。

直接驍宗を手にかけるのでは無く、簒奪者と偽って民の前で謝罪させ、民の手で処刑させる。
これまでの苦難はすべて驍宗の所為だったと思わせるなんて。よくこんな方法を考えるな・・・
と作者が恐ろしくなった。しかも李斎の言うように、のちに阿選が偽王だと露見した時に民は
自分たちの手で正当な王を殺した事になる。これほど強いショックは無いだろうからな・・・。
しかし阿選はいずれバレるだろうに、自ら驍宗を殺しても結果は変わらなかっただろうに、よく
この案作の奸計に乗ったなぁ。この頃になるともう目先の事しかわからなくなっていたのかな。

「これはあんまりです」、「驍宗様が王なのに!」と子どものように叫ぶ静之のシーンも良い。
それ以上に絶望したのは、己の無能さにだったと思う。自分でどうにかできたかもしれない、なのにその機会を自らの無能でみすみす逸した、と認めることの絶望、自分への侮蔑と嫌悪――憎しみ。誰が許しても自分だけは自分を許すことができない、というあの腸が捻じ切れるような気分。
特にここに共感した。今は詳しく書けないけど、僕もすごく自分に当てはまる出来事がある。
毎回アクセス数の少ないこのブログを、もしかしたら僕と交流のある方は誰も読まないかも
しれないけど、もし良ければ覚えていて欲しいと思う。いつか語れる日がきたら良いな・・・。
共感というと、鴻基に入った時に李斎がその美しい景色を見て、自分の気分や状況と関係無く
世界が美しくある事に衝撃を受けるシーンも。僕もよく死にたいと思った時にきれいな空を見て
感傷に浸っていたので。よく言われる事だけど、自分の存在なんて本当に無意味でちっぽけだ。

でも絶望的な状況になっても、まだ英章たちが居る!最後は泰麒が麒麟の力を取り戻すはず!と
信じて読み続けていた。それまでにあと何人失われるのだろうかという不安はあったけど。
以前の記事で「泰麒にも戴の民の血が流れているのだとわかる」と書いたような気がするけど、
最後の展開はすごかったな。まさか本当に剣を振るって人を殺傷する事ができるとは・・・。
精神力の強さ。その所為で、今後一生不調が続くほどの穢瘁が残ってしまったのは悲しいけど。
ただ使令が戻ったのは良かったなぁ。あれだけ泰麒を想っていた汕子が戻る事ができて嬉しい。
また今は汕子と傲濫しか居ないけど、今の強靭になった泰麒なら、使令の数をもっと増やせる
かもしれないし。まぁ使令が必要な場面が無いのが一番なんだけど。でもそうはいかないかな。

鴻基から逃げる驍宗たちの元にかつての麾下が次々に集まって、集団がふくれ上がっていく。
兵の顔と名前をよく覚えている驍宗だからすぐにわかる。以前語られていたその設定がここで
回収されるとは!その様子や、これまでの驍宗と麾下たちの関係の描かれ方を見ていると、
驍宗と阿選、似た者同士だと言われていてもその器の大きさがまったく異なる事がよく伝わる。
最初から阿選が天に選ばれる事など無かったのだ。昇山しても王にはなれなかっただろうな。

阿選の度重なる誅伐の所為で、誰かが阿選に逆らった→この場に居たすべての者が虐殺されると
判断した民が押し寄せて門を閉ざせず、墨幟が逃げる道を作ったというのも皮肉でとても良い。
各州候を傀儡にした事で乱を未然に防ぐ事もできなかったし、阿選は最終的に自分で自分の首を
絞める事になったのだなぁ。ちなみにこのシーンでの阿選「なぜだ」→臥信「――なぜなら」、
「虚仮威しだ」→「――虚仮威しなんですけどね」と、両者のセリフが同時進行で、臥信
セリフが阿選の言葉を受けたかたちになっている表現が珍しくて面白かった。映像的な印象。

ここまでが苦しかった分、ラストは痛快だったけど、残念だったのは阿選の最期を見る事が
できなかった点。あれだけ描写されていたんだから、その死も描写して欲しかったなぁ・・・。
まぁ驍宗と泰麒に逃げられた後の彼は一気に小物臭が漂っていたので、わざわざ描くまでもない
という事だったのかもしれないけど。それでも、張運や烏衡のようにその凋落も見たかった。
張運は小物ゆえに最後まで泰麒の障害になりそうだと思っていたら、あっさりと失墜したな。
更迭した内宰の証言が効いたな。自分の奸計に溺れて。案作の独白の伏線回収だ。自業自得!w
最後に阿選に手紙を書き、いつも憤っていた「聞いた」という返答だけが返ってきたのも良いw
しかし張運を本人にも気づかれず操っていたのが案作だったとは!彼の最期も見たかったなぁ。
烏衡も賓満をつけてもらって強くなっただけだったのに、阿選に対してあんな振る舞いを続けて
いたら簡単に討たれるよ。もっと惨く殺して欲しかったけど、まぁ無事に死んで嬉しかったな。

そういえば2巻で泰麒と阿選が最初に対峙した時の事について。叩頭、契約をさせればすぐに
露見したのにそれをさせなかった、泰麒を守ったように見える琅燦には何か意図があったんじゃ
ないかと思っていたけど、それは泰麒もわかっていたのだな。耶利の主人かはわからないけど。
玄管と呼ばれる王宮から沐雨や李斎に青鳥を飛ばしていた人物は、僕も琅燦じゃない気がする。
キャラが違うよね。考察コメントにもあったけど、登場していない冬官長だったりするのかな。
僕は基本的に考察サイトを滅多に見ないのだけど、今回は主に琅燦についてわからない部分が
いくつかあったのでいくつか見て回った。特にこの記事とコメント欄が一番参考になりました。

そうか、いずれ謀反を起こしたであろう阿選、その場合簡単に泰麒の命を奪えたから泰麒の角を
斬り驍宗を幽閉させる事が驍宗の命を永らえさせる道につながったのか。なるほど!面白い。
あと正頼が裏切り者じゃないかと考察していた人は結構たくさん居たみたいだった。良かったw
混乱の中、無事に助け出されて本当に良かったな。早く元気になって戴を一層支えて欲しい。

考察記事を読んでいて、天意というものを改めて意識した。土匪に逆らった定摂たちの里が
反撃に遭い、李斎たち一行が一度は助けたものの先を急いだ為か、驍宗は捕えられてしまった。
ここに天意が働いていたのは気づかなかったな・・・この判断で一度は失いかけていたのか。
天とは何だろう。この作品でもその答えは出なかったな。最後まで出ないのかもしれないけど。
でもとても気になる・・・。試してみたくなる琅燦の気持ちもわからないでも無いな・・・。
そのの里を助けたのも、墨幟のはくしに加わる

尚隆に助力を願い、「その瞬間、戴の命運は劇的に変わった」という一文を読んだ時は本当に
心底安心した!これでやっと救われるのだと。延麒と尚隆が登場した安心感はすごかったな。
自ら他国に訪ねてきてくれる大国の王と宰補、ありがたすぎる・・・。しかしこのふたり、
シリーズの出演率が高いなw陽子よりも出番が多いんじゃw大好きなので、逢えて嬉しかった。

花影も生きていて李斎と再会できて良かった。あと帰泉の最期は、品堅に教えてあげて欲しい。
それと気になるのが、江州城を制圧する際に大きな助けになった江州の春官長、彼(彼女?)
にも何か物語がありそうだ。玄管の正体と同じく、いつかどこかで語られて欲しいな・・・。

ラストで好きなのが去思項梁の会話。戦いにおいて多くの犠牲は目に見えない場所で起こる。
生きているかもしれない、生きていて欲しい。宙ぶらりんの気持ちを生涯抱えていく・・・。
これはネットでの関わりも同じだなと思った。更新が止まった、削除出された作品、作者さん。
気になってもその後どうしているか知る術は無い。僕も宙ぶらりんの気持ちのまま生きている。


驍宗や泰麒たちはこうして国を取り戻した。しかし何度も書いたように、失ったものは大きい。
本当に大きすぎる・・・。もし阿選の計略が失敗して、あのまま平和に国を納める事ができて
いたらと思わずにはいられない。もしかしたら、その場合は苛烈な驍宗と弱気な泰麒のままで、
他に問題が起きて結局上手くいかなかったのかもしれないけど。仮にそうだったとしても、
ここまでの犠牲が出る道しか無かったのかな・・・と思ってしまうな・・・難しい・・・。
仮の話をすると、阿選の言うように彼が李斎ともっと早く出会っていたらどんな話をしたのか、
というところにも興味があるな。もしかしたらそこで阿選の運命も変わっていたかもしれない。

定摂や帰泉や品堅、名も無い貧しい一家など、様々な視点の物語が一本により合わさっていき、
大きな流れにつながっていく様が見事だった。李斎が言った、過去に積み上げた小さな石が
いつのまにか大きな結果をもたらしたように、それぞれの想いが大きな未来を作っていった。
こんなに壮大なストーリーを作れるの、すごいなぁ・・・。本当に小野先生は素晴らしい。
15年以上待ち望んだ物語を読む事ができて本当に嬉しかったし楽しかったけど、物足りないと
思うところもあって。再会した驍宗と泰麒の会話をもっと読みたかった!!!数少ない会話も
とても印象的で、だからこそより美しさが引き立つのだという意見もわかるんだけど・・・。
平和になった戴での彼らの様子が知りたかったのだ・・・。戴の話はこれで最後だろうから。
いやでも、常に平和などはあり得ないのかもしれない。戴史乍書では阿選が討たれたと
記されて終わっているけど、本編ラストではかすかに戦乱の予兆を感じさせて締められている。
国を納め続けるのも戦いで、それはこの先もずっと続いていくのだという事なのかなと思った。
でもやっぱり、「冬栄」のように一時でも日が差し込んでいる話を読みたかったな・・・と。
使令に戻った汕子、傲濫とのやりとりや、助け出された正頼、再会した李斎とのやりとりも。
これで泰麒たちとお別れかと思うととても寂しい・・・また短編などで読めないかなぁ・・・。

最後にかなり台無しな話を。利公も言っていたけど、終わらない王朝は無い。驍宗の王朝も
いつかは終わるだろう。もし今後驍宗が失道するような事があった時に、泰麒や麾下たちは
これだけの想いで、たくさんの命を失って驍宗を救った事を後悔するんじゃないだろうか・・・
と思った。あの時そのまま死なせていれば、後の戴にとっては良かったのかもしれない・・・
というように。そうなったらめちゃくちゃ悲しいな・・・。なので驍宗、良い王になってね。
泰麒も不調が残っていると思うけど、これからは幸せに生きられますように。李斎もずっと
驍宗たちを支えて欲しい。項梁も園糸たちと再会できると良いな。去思も平和な国で、
立派な道士として民の暮らしを守っていって欲しい。他の墨幟のメンバーも、土匪たちも。
戴のすべての民が救われ、みんなが安心して幸せに暮らせるようになりますように・・・!


以上、今作を読む為に去年の9月から少しずつ読み返していた「十二国記」シリーズでしたが、
一年以上かけてついに今回で終了!楽しかったなぁ。また最初から読み返しても良いぐらいだ。
小野先生は過去にインタビューで長編の続編はもう書かないと何度も仰っているようだけど、
もっともっと読みたいよ・・・!また陽子や泰麒たちと会いたいなぁ・・・。それではまた。

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