金魚ちゃんプレゼンツ 学べ!不死鳥学

主に不死鳥作品を読み返して感想を書くブログ。小説、漫画、映画、演劇、料理の感想も。

【読書感想】2020年12月5日 続あしながおじさん

はいこんばんはRM307です。今月の読書回はウェブスター作の「続あしながおじさん」の感想。
このブログの最初の読書回が「あしながおじさん」だったので、最後はこの作品にしました。
前作を読んだのはもう三年近く前なので、サリーの事はまったく覚えていなかったのだけど。
前作の感想https://rm307.blog.jp/archives/74121454.html

続 あしながおじさん (偕成社文庫4061)
ジーン ウェブスター
偕成社
1986-08-09


【あらすじ】
ジュディの親友のサリーはジュディからの頼みを受け、彼女が生まれ育った孤児院である
ジョーン・グリア―孤児院の院長に就任する事になった。最初は早く後任を見つけて欲しいと
願っていたサリーだったが、意見の合わない「強敵さん」ことロビン・マックレイ嘱託医
サリーを否定する評議員たちと日々格闘しながら、百を超える孤児たちに愛情をそそいでいく。
また同時に、交際していた政治家のゴードンと婚約するが、将来に不安を覚えるようになる。


鷲崎健・千葉翔也 今んとこやや好き」14回で鷲崎さんが「続」の方が好きだと仰っていて、
前作も面白いけどなぁと思って読んだのだけど、たしかにその通りだった。すごく良かった!
前作同様手紙形式を退屈にも感じたのだけど、終盤は夢中で読めたし、もっと読みたかった!
サリーの多忙で、問題が山積みで、けれど満たされる日々をもう読めないのが寂しい・・・。

ジュディと同様にユーモラスなサリーが、最初はうんざりして誰かに任せたいと思いながらも
孤児院の改革に前向きに取り組み、次第に子どもたちの存在が大きくなっていき、院長職を
愛するようになっていった過程が良かったなぁ。「院長をやめたいとは思っていません」、
「どうか、わたしをくびにしないでください」という言葉がすぐに出てきた時は嬉しかったな。
誰と話していても「この人を孤児院にどう利用したらいいだろう?」と考えるようにもなって。
火事の後の手紙で、「これから何年間かのあいだは、勢いづいて働きまわるでしょう」と
書かれていた時は、「結婚をやめて院長を続けるつもりなんだ!」ととても嬉しかったなぁ。
孤児院の子どもたちだけじゃなく、親友のジュディがここで苦しい日々を送っていた事を思い、
彼女の為にも子どもたちを幸せにしたいと頑張っていた友だち想いなところも良かったな。

作中でも書かれていたけど、院長の仕事はものすごくたくさんあるんだよね。その上勉強も
欠かさなかったし、ジュディやゴードンにも頻繁に手紙を書いていたし。すごいしえらいなぁ。
また、ただ仕事に忙殺される事だけに喜びを見出しす訳じゃなく、孤児院にうんざりする時も
あったと正直で、その際はちゃんと休暇を取ってリフレッシュしていたのもすごいなと思った。
休むのも大事だね。これが日本の物語だったら、働き続ける事を美談にしてしまいそうだな。

サリーは子育てをした訳でも大学で教育学を学んだ訳でも無いのに、子どもたちにとって何が
必要かをちゃんと見抜いていてすごいよね。就任する前に孤児についての本を読んだり孤児院を
見て回ったりしたとの事だけど、それだけでよくここまで改善できたなぁ。逸材だったのだな。
就任して最初に自己紹介した時に、ジュディと評議員会の会長である夫のジャービスの名前を
出して、他の孤児院の職員に自分の改革は上の方々からの命令によるもので、自分の軽はずみな
頭から出たものではないとアピールを欠かさなかったのもちゃっかりしているw策士だなぁw

マックレイ先生やミス・スネイスなどへの、最初の印象や評価がいっしょに働いていくにつれて
変わっていく様子も良かった。ミス・スネイスをやめさせたいと思っていたのに、その後は
マックレイ先生に「やめさせるわけにはいかない」と断っていたし。結果的に、あまり換気を
したがらない彼女が居たおかげで火事の際にアレグラが助かったので良かった。上手い伏線だ。

アレグラや兄たちは無事に全員同じ家に引き取られていって良かったな。ただ、三人の子の為に
頑張って亡くなった父親が忘れられそうになっている事が悲しくもある、と書かれていたのも
印象的だった。父親の遺したものが、これからも彼らの中に生き続けてくれたら良いな・・・。

孤児院が火事になって時は本当に肝が冷えて、せっかくサリーがここまで頑張って改善してきた
のに水泡に帰してしまうのか、いやその前に孤児たちの命は?もしここで孤児院が無くなったら
これから子どもたちはどうやって生きていけば良いのだろう?とすごく心配になったのだけど、
避難訓練が役に立ち(ここも伏線だったのか!)、パーシーや年上の男の子たちが頑張って
みんなを避難させ全員が助かり、服などの物も持ち出す事ができ、しかも孤児院の周りで暮らす
大人たちも助けてくれたばかりでは無く、自分の家で子どもたちを一時的に預かってくれたのが
すごく良かった!普段はそっけなかったり好意的じゃなかったりしたのに、いざという時には
こうして助けてくれたのが嬉しかったなぁ。サリーと同様に、人の思いやりと優しさを知った。
そしてサリーが以前から考えていた、子どもたちに暖かい家庭、愛情を経験させてあげたい
という願いも叶って。結果的に火事があって良かったな。もちろん一歩間違えばアレグラや
マックレイ先生は死んでいた訳で、ステリーの事は許せないけど。たっぷり反省しなさいよ!

そして火事があったからこそ、サリーはマックレイ先生への強い想いを自覚できたのだなぁ。
ケンカや悪口もあったけど、ふたりの関係が少しずつ変わっていく様子もすごく良かったな。
微笑ましかった・・・恋愛(最初は違ったけど)って良いな、素敵だなぁ。良いラストだった。
サリーはラブレターを上手く書けないと言っていたけど、最後の手紙はとても良い恋文だった。
僕もこういう手紙を書きたいし、もらってみたい・・・!衝突する事はあるかもしれないけど、
これからもふたりがいっしょに、幸せに暮らし続けてくれると良いなぁ。結ばれて嬉しかった!
もちろん孤児たちも、全員が良い家庭に引き取られて幸せに暮らせるようになりますように。

その他にサリーの手紙で好きだった部分は、ゴードンに謝った後に「これほどみごとに自分の
まちがいをみとめられる女って、ほかにいるかしら?」、南方から送られたジュディの写真への
「わざわざしるしをつけてくださらなくても、ジャービスとヤシの木を、まさかまちがえは
しないわ。ヤシの木のほうが、毛がふさふさしていますものね」、新しい職員を雇った時の
「ターンフェルトさんがきてから、ブタはすごいかわりようです。すっかりきれいになって
(中略)おたがいにすれちがっても、相手がわからないほどです」、マックレイ先生の家政婦の
いじわるなマックガークがまた立ちふさがった場合の「こちらではおしとやかにひと突きくれ、
相手をひっくりかえし、そのおなかをしっかりと片足でふんまえて(中略)いくつもりです」、
歓喜に湧いた大きな太字の「青いギンガム服廃止!」など。読んでいて楽しい良い手紙だった。
あとゴードンへの手紙の「あなたがおしえてくださるもうひとつの方法は、わたしにもわかって
います。でも、それはおっしゃらないでください――ここしばらくはね」という書き方、これは
結婚の事だなとすぐわかる事ができた。直接言葉にせず表現しているのがしゃれているなぁ。

最後に当時の事情で驚いたのが、一般人が使う歯科用の椅子と道具があった事。家庭でも治療を
行っていたんだ!麻酔はあったのかな・・・?もし無かったとしたらつらかっただろうなぁ。
大人もだけど、当時の子どもたちは大変だ・・・。僕だったら生きていけなかったかも・・・。

以上、とても面白かったです。外国の昔の小説を読むのは久しぶりで、ちゃんと楽しめるか心配
だったけど、読んで本当に良かった!この作品の続編も読みたかったな・・・。それではまた。

Web拍手

【読書感想】2020年11月7日 白銀の墟 玄の月 4巻

墨幟はいこんばんはRM307です。読書回の今週は小野不由美作の「白銀の墟 玄の月」4巻の感想。
1巻の感想https://rm307.blog.jp/archives/82632252.html
2巻の感想https://rm307.blog.jp/archives/82890451.html
3巻の感想https://rm307.blog.jp/archives/83094246.html

【あらすじ】
戴の朝廷は泰麒を中心に動きつつあり、徐々に民の救済が行われるようになっていった。廃坑の
奥深くに囚われた驍宗は、静かに眠る騶虞と出会いこれを捕え、ようやく暗闇から脱出する。
かつての驍宗麾下たちと再会した李斎たち墨幟は規模を大きくし、王師に対抗できるほどの
人員が集まっていった。そして土匪朽桟を助ける為に友尚軍との戦いに駆けつけた際、ついに
驍宗と再会する。後は驍宗と雁に渡り助力を願い、阿選を斃すだけ――。順調に思われたが、
阿選の前に次々と失われていく命、囚われる驍宗。もう誰も驍宗を助け出す事はできない――。
李斎も泰麒もすべてを諦めるが、それでも身命を賭して驍宗の、民の、戴の為に最後まで抗う。


驍宗の居場所がわかり、李斎と阿選、どちらが最初に接触するのかと思っていたら、騶虞を
手懐けて自分から出てくる驍宗。すごいwさすがは王だ。騶虞を手懐ける為の段取りが細かく
描かれていて、これだけ説得力のあるプロセスを想像するのすごいな・・・と改めて思った。
驍宗一人でも懐柔できたし、すぐに甘えてきたし、羅睺は元から人懐っこい子だったのかな。
李斎たちの驍宗との再会シーンも良かったなぁ。泣きじゃくる静之泓宏が微笑ましかった。

非合法な存在である土匪で、国を取り戻した後は敵になる朽桟たちとの関係も良かったな。
彼らの窮地に駆けつけた李斎たちに「莫迦か」と言いながらも鼻の奥が熱くなったシーンが
特に好き。最初は露見するのは得策じゃない、助けるのはやめた方が良いと思っていたけど、
結果的に驍宗と再会するキッカケになったので僥倖だった。以前の感想で李斎はもう少し自分を
抑えて欲しいと書いたけど、その熱い性分で運命が良い方向へ動いたのだな。その後墨幟として
いっしょに戦う事になった経緯も良かった。少しずつ味方が増えていくのが嬉しかったなぁ。

友尚も、阿選の麾下だけど道理がわかっていた人物だったし、阿選の口封じの指示や烏衡らに
よって苦しい思いをしていたのを不憫に感じていたので、墨幟に寝返ってくれて嬉しかった。
阿選に従っていた兵たちも、決してその残虐なやり方を支持していた訳では無かったのだな。
あと友尚の、相変わらず服を脱ぎ散らかすくせも描写されていて良かったwユニークだなぁ。
驍宗の元へ行く際の、弦雄との軽妙なやりとりも良かった。そして「我々麾下の務めだ」という
セリフ。阿選に背き討とうとしていても、麾下だった事は今でも否定していないのだな・・・。

霜元の「阿選に手が届いた」から希望を見出せたのに、中盤以降どんどん味方が死んでいき、
あれだけ居た墨幟がわずかな人数になっていったのが悲しかった。名前のあるキャラも、特に
鄷都の死や生死不明になった静之が悲しかった・・・。鄷都は最初期から、たった数名の頃から
ずっと李斎たちと戦い続けてきたのに。あと少しで平和な日々に還る事ができたのに・・・と。
静之も驍宗と目されていた人物が亡くなった時にあれだけ後悔したり、再会できた時にあれだけ
喜んだり、囚われた驍宗の事も最後まで想い続けてついに救えたりしたのに・・・と。つらい。
葆葉、朽桟、梳道、高卓戒壇勢や牙門観勢や檀法寺勢も・・・。名前の無い兵や土匪も数多く。
まだ戴には不羈の民がたくさん残っている事が嬉しくて、味方が増えて心強く思っていたのに。
李斎の騎獣の飛燕も、慶までの苦しい旅を耐え抜き、幾多の危機も乗り越えてきたのに・・・。
泰麒も再会できずに悲しかっただろうな・・・。騎獣だけど、動物が死ぬ展開はやはり堪える。
泰麒を支えた恵棟も、3巻であんなに感動的なシーンがあったのに、文州候として驍宗たちを
助けられるようになったと思ったのに、阿選により病んでしまって・・・とても悲しかったな。
そしてついに泰麒が阿選に面と向かって欺瞞を指摘されて。はらはらする怖いシーンだった。

直接驍宗を手にかけるのでは無く、簒奪者と偽って民の前で謝罪させ、民の手で処刑させる。
これまでの苦難はすべて驍宗の所為だったと思わせるなんて。よくこんな方法を考えるな・・・
と作者が恐ろしくなった。しかも李斎の言うように、のちに阿選が偽王だと露見した時に民は
自分たちの手で正当な王を殺した事になる。これほど強いショックは無いだろうからな・・・。
しかし阿選はいずれバレるだろうに、自ら驍宗を殺しても結果は変わらなかっただろうに、よく
この案作の奸計に乗ったなぁ。この頃になるともう目先の事しかわからなくなっていたのかな。

「これはあんまりです」、「驍宗様が王なのに!」と子どものように叫ぶ静之のシーンも良い。
それ以上に絶望したのは、己の無能さにだったと思う。自分でどうにかできたかもしれない、なのにその機会を自らの無能でみすみす逸した、と認めることの絶望、自分への侮蔑と嫌悪――憎しみ。誰が許しても自分だけは自分を許すことができない、というあの腸が捻じ切れるような気分。
特にここに共感した。今は詳しく書けないけど、僕もすごく自分に当てはまる出来事がある。
毎回アクセス数の少ないこのブログを、もしかしたら僕と交流のある方は誰も読まないかも
しれないけど、もし良ければ覚えていて欲しいと思う。いつか語れる日がきたら良いな・・・。
共感というと、鴻基に入った時に李斎がその美しい景色を見て、自分の気分や状況と関係無く
世界が美しくある事に衝撃を受けるシーンも。僕もよく死にたいと思った時にきれいな空を見て
感傷に浸っていたので。よく言われる事だけど、自分の存在なんて本当に無意味でちっぽけだ。

でも絶望的な状況になっても、まだ英章たちが居る!最後は泰麒が麒麟の力を取り戻すはず!と
信じて読み続けていた。それまでにあと何人失われるのだろうかという不安はあったけど。
以前の記事で「泰麒にも戴の民の血が流れているのだとわかる」と書いたような気がするけど、
最後の展開はすごかったな。まさか本当に剣を振るって人を殺傷する事ができるとは・・・。
精神力の強さ。その所為で、今後一生不調が続くほどの穢瘁が残ってしまったのは悲しいけど。
ただ使令が戻ったのは良かったなぁ。あれだけ泰麒を想っていた汕子が戻る事ができて嬉しい。
また今は汕子と傲濫しか居ないけど、今の強靭になった泰麒なら、使令の数をもっと増やせる
かもしれないし。まぁ使令が必要な場面が無いのが一番なんだけど。でもそうはいかないかな。

鴻基から逃げる驍宗たちの元にかつての麾下が次々に集まって、集団がふくれ上がっていく。
兵の顔と名前をよく覚えている驍宗だからすぐにわかる。以前語られていたその設定がここで
回収されるとは!その様子や、これまでの驍宗と麾下たちの関係の描かれ方を見ていると、
驍宗と阿選、似た者同士だと言われていてもその器の大きさがまったく異なる事がよく伝わる。
最初から阿選が天に選ばれる事など無かったのだ。昇山しても王にはなれなかっただろうな。

阿選の度重なる誅伐の所為で、誰かが阿選に逆らった→この場に居たすべての者が虐殺されると
判断した民が押し寄せて門を閉ざせず、墨幟が逃げる道を作ったというのも皮肉でとても良い。
各州候を傀儡にした事で乱を未然に防ぐ事もできなかったし、阿選は最終的に自分で自分の首を
絞める事になったのだなぁ。ちなみにこのシーンでの阿選「なぜだ」→臥信「――なぜなら」、
「虚仮威しだ」→「――虚仮威しなんですけどね」と、両者のセリフが同時進行で、臥信
セリフが阿選の言葉を受けたかたちになっている表現が珍しくて面白かった。映像的な印象。

ここまでが苦しかった分、ラストは痛快だったけど、残念だったのは阿選の最期を見る事が
できなかった点。あれだけ描写されていたんだから、その死も描写して欲しかったなぁ・・・。
まぁ驍宗と泰麒に逃げられた後の彼は一気に小物臭が漂っていたので、わざわざ描くまでもない
という事だったのかもしれないけど。それでも、張運や烏衡のようにその凋落も見たかった。
張運は小物ゆえに最後まで泰麒の障害になりそうだと思っていたら、あっさりと失墜したな。
更迭した内宰の証言が効いたな。自分の奸計に溺れて。案作の独白の伏線回収だ。自業自得!w
最後に阿選に手紙を書き、いつも憤っていた「聞いた」という返答だけが返ってきたのも良いw
しかし張運を本人にも気づかれず操っていたのが案作だったとは!彼の最期も見たかったなぁ。
烏衡も賓満をつけてもらって強くなっただけだったのに、阿選に対してあんな振る舞いを続けて
いたら簡単に討たれるよ。もっと惨く殺して欲しかったけど、まぁ無事に死んで嬉しかったな。

そういえば2巻で泰麒と阿選が最初に対峙した時の事について。叩頭、契約をさせればすぐに
露見したのにそれをさせなかった、泰麒を守ったように見える琅燦には何か意図があったんじゃ
ないかと思っていたけど、それは泰麒もわかっていたのだな。耶利の主人かはわからないけど。
玄管と呼ばれる王宮から沐雨や李斎に青鳥を飛ばしていた人物は、僕も琅燦じゃない気がする。
キャラが違うよね。考察コメントにもあったけど、登場していない冬官長だったりするのかな。
僕は基本的に考察サイトを滅多に見ないのだけど、今回は主に琅燦についてわからない部分が
いくつかあったのでいくつか見て回った。特にこの記事とコメント欄が一番参考になりました。

そうか、いずれ謀反を起こしたであろう阿選、その場合簡単に泰麒の命を奪えたから泰麒の角を
斬り驍宗を幽閉させる事が驍宗の命を永らえさせる道につながったのか。なるほど!面白い。
あと正頼が裏切り者じゃないかと考察していた人は結構たくさん居たみたいだった。良かったw
混乱の中、無事に助け出されて本当に良かったな。早く元気になって戴を一層支えて欲しい。

考察記事を読んでいて、天意というものを改めて意識した。土匪に逆らった定摂たちの里が
反撃に遭い、李斎たち一行が一度は助けたものの先を急いだ為か、驍宗は捕えられてしまった。
ここに天意が働いていたのは気づかなかったな・・・この判断で一度は失いかけていたのか。
天とは何だろう。この作品でもその答えは出なかったな。最後まで出ないのかもしれないけど。
でもとても気になる・・・。試してみたくなる琅燦の気持ちもわからないでも無いな・・・。
そのの里を助けたのも、墨幟のはくしに加わる

尚隆に助力を願い、「その瞬間、戴の命運は劇的に変わった」という一文を読んだ時は本当に
心底安心した!これでやっと救われるのだと。延麒と尚隆が登場した安心感はすごかったな。
自ら他国に訪ねてきてくれる大国の王と宰補、ありがたすぎる・・・。しかしこのふたり、
シリーズの出演率が高いなw陽子よりも出番が多いんじゃw大好きなので、逢えて嬉しかった。

花影も生きていて李斎と再会できて良かった。あと帰泉の最期は、品堅に教えてあげて欲しい。
それと気になるのが、江州城を制圧する際に大きな助けになった江州の春官長、彼(彼女?)
にも何か物語がありそうだ。玄管の正体と同じく、いつかどこかで語られて欲しいな・・・。

ラストで好きなのが去思項梁の会話。戦いにおいて多くの犠牲は目に見えない場所で起こる。
生きているかもしれない、生きていて欲しい。宙ぶらりんの気持ちを生涯抱えていく・・・。
これはネットでの関わりも同じだなと思った。更新が止まった、削除出された作品、作者さん。
気になってもその後どうしているか知る術は無い。僕も宙ぶらりんの気持ちのまま生きている。


驍宗や泰麒たちはこうして国を取り戻した。しかし何度も書いたように、失ったものは大きい。
本当に大きすぎる・・・。もし阿選の計略が失敗して、あのまま平和に国を納める事ができて
いたらと思わずにはいられない。もしかしたら、その場合は苛烈な驍宗と弱気な泰麒のままで、
他に問題が起きて結局上手くいかなかったのかもしれないけど。仮にそうだったとしても、
ここまでの犠牲が出る道しか無かったのかな・・・と思ってしまうな・・・難しい・・・。
仮の話をすると、阿選の言うように彼が李斎ともっと早く出会っていたらどんな話をしたのか、
というところにも興味があるな。もしかしたらそこで阿選の運命も変わっていたかもしれない。

定摂や帰泉や品堅、名も無い貧しい一家など、様々な視点の物語が一本により合わさっていき、
大きな流れにつながっていく様が見事だった。李斎が言った、過去に積み上げた小さな石が
いつのまにか大きな結果をもたらしたように、それぞれの想いが大きな未来を作っていった。
こんなに壮大なストーリーを作れるの、すごいなぁ・・・。本当に小野先生は素晴らしい。
15年以上待ち望んだ物語を読む事ができて本当に嬉しかったし楽しかったけど、物足りないと
思うところもあって。再会した驍宗と泰麒の会話をもっと読みたかった!!!数少ない会話も
とても印象的で、だからこそより美しさが引き立つのだという意見もわかるんだけど・・・。
平和になった戴での彼らの様子が知りたかったのだ・・・。戴の話はこれで最後だろうから。
いやでも、常に平和などはあり得ないのかもしれない。戴史乍書では阿選が討たれたと
記されて終わっているけど、本編ラストではかすかに戦乱の予兆を感じさせて締められている。
国を納め続けるのも戦いで、それはこの先もずっと続いていくのだという事なのかなと思った。
でもやっぱり、「冬栄」のように一時でも日が差し込んでいる話を読みたかったな・・・と。
使令に戻った汕子、傲濫とのやりとりや、助け出された正頼、再会した李斎とのやりとりも。
これで泰麒たちとお別れかと思うととても寂しい・・・また短編などで読めないかなぁ・・・。

最後にかなり台無しな話を。利公も言っていたけど、終わらない王朝は無い。驍宗の王朝も
いつかは終わるだろう。もし今後驍宗が失道するような事があった時に、泰麒や麾下たちは
これだけの想いで、たくさんの命を失って驍宗を救った事を後悔するんじゃないだろうか・・・
と思った。あの時そのまま死なせていれば、後の戴にとっては良かったのかもしれない・・・
というように。そうなったらめちゃくちゃ悲しいな・・・。なので驍宗、良い王になってね。
泰麒も不調が残っていると思うけど、これからは幸せに生きられますように。李斎もずっと
驍宗たちを支えて欲しい。項梁も園糸たちと再会できると良いな。去思も平和な国で、
立派な道士として民の暮らしを守っていって欲しい。他の墨幟のメンバーも、土匪たちも。
戴のすべての民が救われ、みんなが安心して幸せに暮らせるようになりますように・・・!


以上、今作を読む為に去年の9月から少しずつ読み返していた「十二国記」シリーズでしたが、
一年以上かけてついに今回で終了!楽しかったなぁ。また最初から読み返しても良いぐらいだ。
小野先生は過去にインタビューで長編の続編はもう書かないと何度も仰っているようだけど、
もっともっと読みたいよ・・・!また陽子や泰麒たちと会いたいなぁ・・・。それではまた。

Web拍手

【読書感想】2020年10月3日 白銀の墟 玄の月 3巻

はいこんばんはRM307です。読書回の今週は小野不由美作の「白銀の墟 玄の月」3巻の感想。
1巻の感想https://rm307.blog.jp/archives/82632252.html
2巻の感想https://rm307.blog.jp/archives/82890451.html



【あらすじ】
泰麒は膠着状態を打開する為、阿選の六寝に侵入を試みる。その途中で気づいた東宮の様子。
そこに囚われた正頼が居るのでは。深夜、泰麒は項梁耶利とともに地下から東宮に向かった。
予想通り囚われていた正頼と接触し、国帑のありかを聞いた項梁は王宮を抜け出す事になった。
しかし正頼を助け出す事は叶わず。苦しむ泰麒だったが、民を思いすぐに毅然として前を向く。
一方李斎たちは石林観の主座沐雨から、驍宗が身罷っていない事を聞かされる。また密かに
驍宗を捜索し、阿選に対抗しようとしている民や勢力が多い事を知り、もう一度希望を抱いた。
そしてついに驍宗の居場所に目星をつける。時同じくして、阿選も麾下を驍宗の元に派遣する。


冒頭で項梁の泰麒への疑念が晴れる。泰麒が祈っていたのは阿選では無く、文州に居る李斎や
驍宗だったんだね。味方をも騙せるぐらい泰麒の演技が上手かったという事なので結果良し!
しかし李斎が阿選と通じていた可能性すらも考えていたとは!そこまで用心深かったのだな。
王宮に戻ったのも、早く民を救いたいと逸る気持ちだけでは無く、驍宗を王宮の中から捜す事、
自分の警護に労を割かせない事などの理由もあったのか!めちゃくちゃ考えていてすごい!
泰麒のすごさについては耶利や琅燦も舌を巻いている。外界に開かれていたものが閉じられる、
内面を見せず閉ざす術は、蓬莱での苦しい日々に身につけたものだから複雑だけど。悲しい。

この巻では「魔性の子」に関する記述が多くて嬉しかった。それはすなわち泰麒が苦しんでいる
シーンでもあったから複雑だけど。東宮に忍び込み、兵士と相対する際に広瀬先生を思って
「先生」とつぶやき勇気を奮い立たせたり、阿選に誓約を迫られた時にかつて同級生たちから
土下座を強要され、その為に彼らが屋上から飛び降りた事を思い出したり。これまでの巻では
語られる事は無く、十二国の世界に戻った事で過去を振り返らなくなったのかとも思ったけど、
泰麒の中では決して過去では無いのだな・・・。思えば、読者からしたら「魔性の子」から
新刊までは30年近く経っているけど、泰麒は十二国の世界に戻ってきてまだいくらも時間が
経っていないのか・・・うっかり失念してしまっていた。それでも民を想い、その救済の為に
前を向き続ける泰麒は本当にすごい。殺されるかもしれない正頼を残し、館に戻る時の表情も。
計り知れない精神力の強さだな・・・。兵卒を殺す事ができず、項梁に「甘い」と言われは
したけど、これは性格じゃなく麒麟だからどうしようも無いと思う。項梁は叱らないであげて。

囚われて、拷問されていた正頼。阿選に通じている可能性もあると疑っていたごめんよ・・・。
六年もの長い間、殺される手前の壮絶な苦痛を毎日与えられていたなんてひどすぎるよ・・・。
その上脱走しようとした咎で、今後さらに痛めつけられる事になるなんて・・・惨い話を書く。
殺される前に、すべてが解決して何とか救い出されて欲しい・・・。阿選、絶対に許せない。
正頼に接触した後、泰麒の居る館に阿選が現れた時は、耶利同様読んでいて僕もびっくりした。
さすがに頭が良い。阿選自身が天意を疑っているから思い当たったという事もあるだろうけど。

阿選が驍宗に背いた理由も明かされた。そんなに驚くような事は無かったので少し残念だった。
驍宗と比べられたり自分が影のように思えたりするプレッシャー、軍を退いて野に下る事は
できなかったのかなぁ。まぁ驍宗にはそれができただろうけど、阿選にそれは難しいか・・・。
驍宗でも、一度は泰麒から天意を得られなかった時、「王になる者如何では玉座を掠め取ろうと
思わないとは限らない」と言っていた。王になる人物でもそう思う事があったのだな・・・。
驍宗と阿選は似ていると言われる事もあった。ならば似ている、けれど王たり得ない阿選が
ずっと驍宗に仕え続ける事はどだい無理な話だったのか。泰麒への「嫉妬に触れなかったのは、
私に対する気遣いか?」というセリフはしびれるなぁ。阿選にじゃなくて小野不由美先生にね。

泰麒の角だけを斬る事、驍宗を殺さず幽閉する事は結果的にそうなったのでは無く、最初からの
狙いだったのか。角を封じれば良いという事はあくまで結果から導き出せる答えであって、
月の影 影の海」でも景麒塙麟に角を封じられてはいたけど、それは麒麟だから、麒麟の
事情がわかっている塙麟にだからできた事で、それ以外にできる術は無いと思っていたけど、
琅燦の存在が狂わせたな・・・ここまで詳しいとは。天の摂理を試す事が目的みたいだけど、
阿選に大逆をそそのかすだけじゃなく、その計画や幻術や妖魔を提供するなど、完全な共犯者
だったのか。2巻で軽くそのようだと触れられていたけど、ここまで深く結びついていたなんて。
厄介すぎるし、琅燦に対する怒りも湧いてきた。阿選といっしょに報いを受けて欲しい・・・。

王が斃れていないのに妖魔が蔓延っていたのも、阿選が使った妖魔が同族を呼び寄せたから。
なるほど!長年の謎が解けてすっきりした。謀反の疑いがあれば何も残さず殲滅するのも、
傀儡ゆえの機械的な行動だから。こちらも腑に落ちた。読んでいた当時はこの世界に幻術が
存在すると思っていなかったからなぁ。最初は世界観を壊さない?と心配だったのだけど。
あと黄海で採れるらしい先が光る木の棒、これはまんま懐中電灯だなwこんなに都合の良い
アイテムを出して良いのだろうか?wでもだからこそ、これは蓬莱や崑崙に存在するものを
十二国の世界を作った存在が真似て作った、という可能性がより感じられるようになったな。
人の魂魄を抜く妖魔次蟾。2巻で出てきた謎の鳩の声はこれだったのか。その所為で淶和
平仲徳裕は病み、ある程度病が進んだらもう元には戻らないという。可哀そうに・・・。

そんな中で巌趙が大僕として泰麒を助けてくれる事になったのは良かったな。駆けつけた巌趙に
応対した、前の巻から登場している阿選の麾下の兵卒駹淑が気になる。何か役割がありそう。
2巻の感想でも書いたけど、阿選の麾下にも良い人は居る。巌趙や、かつての巌趙の麾下杉登
気遣ってくれた品堅。そして泰麒に仕えて信頼を得て瑞州州宰になった恵棟。恵棟は、非道の
限りを尽くした阿選が王になる事が納得できなくて職を辞そうとした。ただそれは阿選が麾下を
拒絶し、その想いを踏みにじったからというのが人間らしい。「黄昏の岸 暁の天」の感想で
「なぜここまで非道を行う阿選に麾下は追従するのか?人の心があるはずなのに」と書いて、
1巻からも主人と麾下の関係が描写されていたけど、ここで一つの答えが出たように感じた。


李斎パートでは、死んだ武将は驍宗では無く基寮だったという事もわかる。髪や目の色が驍宗と
一致していたからおかしいなとは思ったけど、これは老安の民の嘘だったのだな!どうりで。
薬を盛っていたというのも、毒薬じゃなく本当の薬だったという事で良かった。死んだ基寮、
傷が治りきる前に無理をして倒れる事を繰り返したのがな・・・ちゃんと養生して欲しかった。

葆葉のように実は戴の事を考え、密かに行動している民が多いとわかったのが嬉しかったな。
轍囲の民も白幟として、救われたのは自分が生まれるはるか前の出来事なのに、驍宗を思い
捜し続けていたし、李斎が慶に転がり込んだ時、戴の命運は尽きる間近のように思われたけど、
不羈の民がたくさん残っていたのだな・・・。まだまだ戴に希望はあるのだ!と心強く思った。
土匪にも朽桟のように、一見敵や悪人に見えるけど実は事情があったり道理がわかっていたり
する人物も居る。ただ、だからといって土匪すべてに考慮すべき事情があるとは限らないし、
人出が足りなくなると里を脅して人を連れて行き、使い捨てる者たちは同情に値しないけど。

高卓に至る厳しい道のり。僕は以前から過酷な修行をする宗教に対して疑問を抱いていたの
だけど、そこまでしなければ削ぎ落とせない邪念がある、という考えもあるのだな・・・。
それにしても、その過程で命を落としてしまうなんて意味が無いと思っちゃうけど・・・。
そして潜伏していた同志たちと再会!こんなにたくさんの味方が生き残っていたのだな・・・!
出発した時は三人、それが六千以上の人数になった。熱い展開。文州城を攻略できるだろうか。
ただ順当に驍宗とともに城を落とし反旗を翻す、みたいな展開にならないような気もするけど。


そしてついに驍宗の描写が。1、2巻に登場し、姉が亡くなった貧しい一家が流した供物が驍宗の
元に届き、その命を救っていたのもすごい・・・。貧しい一家がそれを知れたら良いな・・・。
そうすれば少しは一家も救われるだろう。どうか厳しい冬を越え、生き残って欲しいと思う。
驍宗はやっぱり阿選が裏切るだろうと思っていて、罠だとわかっていて出兵したのだな・・・。
阿選が妖魔を使うとは予想できなかっただろうし、侮りや慢心があって仕方が無かったのかも。
生き残り、折れて皮膚を突き破った脚の骨を無理やり接いだ描写はめちゃくちゃ痛そうだった!
切開するだけでも痛いのに・・・!こちらも精神力が強いな!正しく戴の王って感じがする。


さて阿選が朝に戻り、泰麒の周りにも人が集まり出した中で、窮地に立たされた冢宰の張運
上位の者を蹴落とす為の「過剰な忠義」作戦や、嘘で塗り固めているうちに事実を捻じ曲げ、
自分に都合良い認識を持つという、現実の人間にも多く居そうなパターンの小物っぷりを晒す。
丕緒の鳥」にも淵雅という矮小な人物が登場しましたね。どこの世界にも居るのだな・・・。
最終的に周りに蹴落とさせる「過剰な忠義」は特に厄介だ。でも泰麒には通じなくて良かった。
「新王阿選は泰麒の欺瞞だ」という主張がかえって驍宗が王である事を後押ししたのも面白い。
しかしきっとやられっぱなしでは無いよな・・・阿選や琅燦よりも障害になりそうな気がする。


以上、面白かったです。次回はいよいよ最終巻!どういった結末になるのか・・・実はキャラの
名前をコピペする為に検索した時、うっかり不安になるネタバレを見てしまった・・・心配。
誰も失われる事無く、幸せな結末を迎えて欲しい・・・読むのが怖いな・・・。それではまた。

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【読書感想】2020年9月5日 白銀の墟 玄の月 2巻

はいこんばんはRM307です。読書回の今週は小野不由美作の「白銀の墟 玄の月」2巻の感想。
1巻の感想https://rm307.blog.jp/archives/82632252.html

【あらすじ】
項梁と王宮へ戻った泰麒は偽王阿選と対面し、彼を新王だという泰麒の欺瞞は受け入れられた。
これで州候の任を果たせると思っていた泰麒だったが、待っていたのは事実上の軟禁だった。
一方李斎たちは函養山周辺で驍宗を捜索していたが、一向に何の手がかりも得られずにいた。
代わりに知るのは王の不在による戴の民の厳しい現状。そんな中で阿選が践祚するという噂を
聞く。あり得ないと驚く李斎たちだったが、同時に聞いた情報はもっと驚くべきものだった。
驍宗が亡くなった。李斎たちは間に合わなかったのか。そしてこれからどうすべきなのか――。


僕はこの作品を読むまで、きっと驍宗を探し出し、直接的では無いにしろ阿選を斃して玉座を
取り返す、そしてハッピーエンドな物語になるだろうとどこか当たり前のように思っていた。
しかし実際は、泰麒は王宮へ戻る、驍宗と思われる人物は亡くなったと、驚く展開が続いた。
言うまでもない当然の事だけど、やっぱり僕なんかの予想は簡単に上回る面白さだな・・・!

しかし実際に驍宗が死んだとは思えない。辻褄は合っているけれど齟齬が生じているというか。
謎の人物の遺物は驍宗のものでは無かったが禁軍のもので、容姿も振る舞いも驍宗を思わせる。
ただ、亡くなったタイミングと泰麒が一行を離れたタイミングは合致しているけど、恐らく
泰麒は王気を感じる事ができないし、泰麒も自身の発言は方便だったと白状しているので、
これは偶然かもしれない。しかし泰麒は阿選に王気を感じたと発言し、驍宗の気配も感じると
発言している。そして阿選を憎んでいるような素振りが無く、祈ってさえいるように見える。
でも驍宗を禅譲させる為に王宮へ連れてこさせようとするのは、とても良い手のように思える。
というように、一方を信じたら一方に違和感が生まれ、どこか一貫していないんだよね・・・。
まだ判断できない。というかやっぱり、驍宗の死を信じたくないのだよな。泰麒とまた再会して
国を治めて欲しいし、阿選に天命が下るなんて信じたくない。物語的にもハッピーエンドには
ならないし。でもメタ的な話をすると、4巻の表紙が阿選ぽいのが気になるんだよなぁ・・・。
風の海 迷宮の岸」でだったか忘れたけど、麒麟は相手を憎んでいても天命には逆らえないと
書かれていてずっと気になっていた。ここで回収される為に張られた長年の伏線だったのかな。

ほとんど人の前に姿を現さない阿選は、実はすでに王宮には居ないのでは・・・?なんて予想も
していたけど、居る事は居るんだな。無気力な彼は普段は何をして過ごしているのだろうか?
泰麒の腕を斬ったシーン、もっと浅く斬れよと腹が立った。まぁもともと泰麒を殺そうとした
(それとも角だけを斬るつもりだった?)し、そんな優しさは持ち合わせていないか・・・。
正頼も囚われて拷問されているのか・・・キツすぎる。もしかして阿選に通じているのでは、
と思った事もあったけど、実際はどうなんだろう。拷問されていないなら、その方が良いけど。

そんな中で琅燦の立ち位置がまったくわからない。「黄昏の岸 暁の天」の時点で何か裏がある
人物だと思っていたけど、阿選に粗雑な口を利いているけど対立はしておらず、対等なようで、
驍宗には敬称をつけているけど実は阿選に簒奪をそそのかしたのでは無いかとも目されている。
天の配剤に触れた部分も興味深かった。禅譲した後に死ぬまで猶予がある事も知らなかったな!
その行いが教条的と言われる天が天命を革める場合は、以下の二つしか無いと考えられている。
  • 王に非があって失道にあたると判断される場合
  • 自ら位を降りた場合
だから非の無い驍宗は失道にあたらないので、天命を変えられない。なるほど、面白いなぁ。
以前も書いたけど、このへんは明確なシステムが働いているよなぁ・・・。だからこそ、僕は
琅燦の言う通りに天が動いたとは考えられない。あくまで教条的に動くのであれば、このまま
天は戴を放置していたような気がする。その方が一貫しているように感じるんだけど・・・。
あとこのくだりで一番気になったのは、阿選は実は驍宗を弑するのに失敗した訳では無い事。
殺すつもりは無かったのか?では今の状況を作り出す事が阿選の目的だったのか?何の為に?
そして琅燦の目的はいったい・・・。一連の流れから、天を相手取り天を試したいのか・・・?
阿選が天に選ばれないもう一つの理由も気になるな・・・それをなぜ琅燦が知っている訳も。
あとは耶利の主も気になるところだ。彼もまた、阿選が王になる事は無いと断言している。

泰麒を取り巻く人々、その中で恵棟は阿選側の人間だったけど好感を持つ事ができた。泰麒と
張運の間で板挟みになっていたけど、泰麒や民を思う気持ちが本人にも伝わって良かったな。
それと恵棟の朋友の友尚、服を脱ぎ散らかす面白いキャラw高官にもそんな人が居るんだなw
その友尚の服を恵棟が畳みながら話すシーンも良いな。阿選の麾下にもまともな人は居るんだ。
一兵卒からの叩き上げで、事務仕事の苦手な伏勝も良かった。後の巻で活躍するのだろうか?

そして味方では無い平仲淶和。早く自邸に戻って子どもに会いたいと思う平仲には同情する。
でもそんな彼は役目が変わったとの事だった。昇進だけど、喜んであげられない不穏さがある。
淶和はやっぱり間諜だったのだな。でも1巻で泰麒の様子を報告するように言った立昌も、もう
興味を失くしたようだった。朝廷を襲っている無気力の波がどんどん押し寄せているのか。
今回登場した謎の鳩の鳴き声。これがそのひみつみたいだ。さらにまじないというワードも
あって、それは冬官の領分らしい。やっぱり元冬官の琅燦がキーになっているみたいだ・・・。

李斎一行パートは、その捜索がことごとく徒労に終わるのだけど、一つとして無駄では無く、
その道程で戴の窮状などを知れたのが良かった。こういう描写一つ一つが重要なのだよな。
1巻に続き、酷なシーンが描かれていた。仲活は女房が化粧をしても気づかなかったけど、
残された手だけですぐにそれとわかった。せつない・・・それでも笑って前を向いて生きるのが
すごい。僕だったら絶対に無理だろうな。1巻に登場した貧しい一家は、自分の食事を妹たちに
分け与えていた姉が痩せ細って死んでしまった。父親の悲痛な叫びがとてもつらかった・・・。
里に入れず凍死した老人と孫、強盗の恐れもあって外を伺わなかった女性は、自分が強盗に
襲われて死んだ。彼らの死が後ろめたくて黙殺できなかったのだろうという予想は悲しすぎる。
そしてそれを見越した近隣の誰かの犯行かもしれないという予想はもっとやりきれなくなる。
本当に王が玉座に居れば、府第が機能していれば防げた死だったのかもしれないのに・・・。

王の不在による荒廃をこれでもかと実感させられた。そして王の絶対的な必要性も。だから、
梳道の言った「いるかいないか分からない、民のために何一つできない王ではなく、実際に
玉座に坐り、民のために政を施してくださる王が」必要だというシーンではせつなかった。
だからこそ、阿選に追われる事無く、驍宗に玉座に居て欲しかった。そして民には新王が必要
なのかもしれないけど、それが阿選であって欲しくない。僕も許すなんてあり得なかった。

李斎はよく衝動を抑えられず、相手に本心から発言する事が多く、読んでいてはらはらしたな。
実際に驍宗を捜している事が噂になっていたし、いつ阿選側にバレてもおかしくなかったのだ。
命を狙われている身だし、これからはもっと言動に気をつけて、慎重になって欲しいな・・・。
李斎たちの噂を聞きつけ、驍宗らしき人物が毒を盛られ命を落とす事になってしまったけど、
無関係な僕は、阿選側に知られて誅伐を受ける恐れもあった老安の人々を責める事はできない。
でも捜す事は必要だったと思う。どうすれば良かったんだろうな。どちらにも非は無いのだ。
とにかく願うのは、驍宗は実は生きていて、無事玉座に戻る事、そして戴の民が救われる事だ。

あと新たに知った情報では、切られた白雉の脚がだんだん黄金に変じるという事。だから王が
不在の間に御璽の代わりになるのだな!その白雉がまだ落ちていない事も気になるポイントだ。
それとどうでも良い事だけど、鄷都が子どもに「こんにちは」と話しかけたシーンがあって、
この世界でも「こんにちは」って言うんだな!こちらでは当たり前に使っている言葉だから、
何だか平和すぎてギャップがあるなと思ってしまった。戴も、早く平和になって欲しい・・・。


以上、面白かったです。まだ全4巻の半分、この先どうなるか予想もつかない!それではまた。

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【読書感想】2020年8月1日 白銀の墟 玄の月 1巻

はいこんばんはRM307です。読書回の今週は小野不由美作の「白銀の墟 玄の月」1巻の感想。
十二国記シリーズの第9作目、去年18年ぶりに本編の続きが描かれた待望の最新作です。全4巻。
もともとこの作品を読む為に去年からシリーズを読み返していたのでした。ようやく読める!

【あらすじ】
内乱の鎮圧に向かった泰王驍宗の行方がわからなくなり、王宮では蝕により泰麒も姿を消した。
それから六年。戴国は偽王阿選により荒廃の一途をたどっていた。驍宗の麾下や、阿選に反抗の
意のある者はことごとく誅伐され、誰も声を上げられなくなったが、民はひたすら祈り続けた。
そこに麒麟の力を失った泰麒と片腕を失った李斎が戻る。無力な彼らは戴を救えるのか――。


まだそこまで大きく話が動く訳では無いんだけど、やっぱりとても面白くてするする読めた。
本筋も好きなんだけど、中でも好きなのは地図と兵力に関するくだり。そうか、単純に騎獣で
ひとっ飛びすれば良いと思っていたけど、この世界には精巧な地図は無いから街道を見ながら
行かないといけないのか。そして戦場の無機的な力学も衝撃だった。今まで触れてきた創作で
起きていた逆転劇は奇跡で、現実では無勢で多勢を倒す事はほとんど不可能に近いのか・・・。
正攻法では阿選を落とせそうにない・・・。それを知ったら、僕ならすぐに諦めていたかも。
このへんがしっかり語られるのはさすがだなぁ。最近流行りの異世界転生系の素人小説なら、
また僕でも、きっと何も疑問に感じず可能なものとして軽く考えて処理していただろうから。
負傷の影響に関する話、項梁の経験談も面白かった。味方の矢だったのかw災難だな・・・w

華胥の幽夢」の「冬栄」で、泰麒が驍宗から子馬を賜る事が描かれていたけど、その子馬を
泰麒に引き合わせたのが項梁だったんだな。そしてその翌日に「騒乱あり」の報が届く・・・。
ここが幸せだった最後の日になったのか・・・その事実を知るともっとせつなく読める・・・。
ただ巖趙が生きていたのは良かった。英章や、他の驍宗の麾下たちも生きていて欲しい・・・。

園糸の項梁に対する気持ちは痛いほどわかった。「そのとき」がきたシーンでは、僕のココロも
冷えるようだった。僕も必ず「いつか別れる時がくる」と思いながら相手と交流していたので。
これで唐突に袂を分かち、園糸の描写が無くなったら嫌だなと思っていたから、ちゃんと項梁と
別れるシーンがあって良かった。本当にすべてが解決して、いつの日か再会できますように。

瑞雲観の生き残り、去思も本当につらい日々だったな・・・。丹薬の製造の為に、忍びながら
絶えず渡り歩いていた六年間、材料を守って死んでいった同輩。泰麒も蓬莱で苦しみ、記憶が
戻ってからはよりつらい思いをしてきたから責めないでと思うけど、去思の気持ちもわかる。

神仙が存在し、一介の民でも仙籍に入れば不老を得る事ができるこの十二国の世界において、
六年というと短く感じられるけど、たくさんの命が失われてしまった、もう取り返しのつかない
と改めて感じさせられた。4歳の娘を失った園糸や、夫と子どもを妖魔に殺され、家には今も
生々しい血痕や爪痕が残っている為に夜しか活動できない妻など、読んでいてつらかった。
本当だったら、新王が践祚しこれから家族との明るい未来が待っていたはずなのに、「こんな
生など早く終わりになれば良い」と思いながら苦しい生を送らないといけないのは悲しすぎる。
阿選が奪っていったものはとても大きい。そしてその残虐なやり方は改めて異常だと感じる。

黄昏の岸 暁の天」上巻の感想で、どうしてこんな非道を行う阿選に従う者が居るのだろうと
書いた。下巻にも記されていた「幻術」というワードから、阿選がそれらを洗脳しているのだと
思っていたけど、それだけじゃなかったのだな。純粋に阿選が王に足る存在だと思っていて、
心酔している者も多かったのか。大逆を犯したという認識が足りないのが残念に思うな・・・。
午月のように考える人間は稀なのだろうか。たとえ好きな相手、信奉している相手でも、何でも
従事したり擁護したりするのでは無く、罪は罪と認め、その事実と向き合わないといけない。
ここにもそれができない人が多いのだな・・・。最近の新都社を見ていてもそう思ったけど。

泰麒が「天がお命じなる」と言って一行を離れて王宮に向かった時、阿選が新王だと嘘をつく、
あるいは阿選に叩頭するとは考えたけど、天が命じたというのも嘘だったのは読めなかった!
天が助けてくれたのか、泰麒に麒麟の力が戻ってきたのか?と嬉しかったのに・・・!しかし
泰麒は大胆だなぁ・・・。民を救う為とはいえ、あっさり殺される事も十分考えられたのに。
まぁでも冒頭で泰麒が言ったように、泰麒を切り捨ててしまえば数年で戴の窮状は是正される
かもしれないのだけど。その前に、戴の民が冬を乗り越えられないかもしれないけど・・・。
虜囚のように拘禁された時には小さく笑う余裕もあって、度胸があるなぁ・・・さすが戴の民。
しかし書かれているように、この嘘がいつまでも通じるはずは無い。泰麒はどうするつもりだ?

李斎の「自分の期待に裏切られた」感もよくわかる。僕だったらこの裏切られた感を誤認して、
相手への不信感が募ってしまいそうだけど、きちんと自覚できる李斎は当たり前だけどさすが。
前述の地図の会話もそうだけど、李斎と泰麒のやりとりが好きなので早くまた再会して欲しい。
そんなふたりを尻目に、項梁や去思たちは泰麒に話しかけるのが畏れ多くて。まぁ当然だけど。
鄷都と三人の時の「自分だけではないと分かって安心しました」という会話が微笑ましかった。
たしかに鄷都は初対面の時からわりと気安くて、物怖じしなくてすごいなぁと思っていたw

初めて知った情報では、国庫と卵果について。国帑は物資やお金の出入りを記録した帳簿や証書
なのか!国庫という倉庫に仕舞われている物だと思っていた。それなら一人でも持ち出せるな。
面白い仕組みだ。卵果は、両親が死ねば孵らず落ちて砕けてしまうのだな・・・とても悲しい。
落ちた卵果の中身、生き物の残骸の描写が少し生々しくて怖かった。これは見る方もつらいな。
あと蓬莱と十二国の世界は暦が一月ズレている事。うろ覚えだけど、以前も語られていたっけ?
何か意味があるのか、過去作品の描写に関して辻褄合わせをする必要があったとかなのかな?

轍囲の攻防戦の内容を知れたのも嬉しかった。一切の攻撃を許されず、楯を構えてひたすら民の
攻撃を受ける、民を攻撃したら厳罰に処される・・・深手を負ったり、命を落としたりした兵も
居たのだからお互いの本気が伝わる。理は轍囲の民にある、しかし見逃せば国の根幹に関わり、
その為には轍囲を攻めざるを得ず、納税は完遂しなければならない。よく考えられているなぁ。
最終的に飢える覚悟をして、それでも驍宗の意を汲んで税の徴収に応じた轍囲の民はすごいな。
自腹で支援した驍宗たちもさすがだ。昔話だけど驍宗と轍囲の絆の深さがしっかりと伝わった。

平和な日本で暮らしている僕にはわからないけど、乏しい食糧の事を考え、日々追い立てられる
ように不安と焦燥感を抱きながら生きなくてはいけないのは、身体もココロも苦しいだろう。
冬まではわずかな時間しか無い、それまでに戴は救われるのだろうか・・・しかしどうやって?
驍宗は本当に身を潜めているだけなのか?他国に助力を求める事も可能だと思うんだけど、
六年も沈黙しているのは何か理由があるのか?気になるな・・・。そして善人に見えた、かつて
泰麒を世話していた淶和の上官立昌への返答、善意からでは無いようで泰麒の身が心配・・・。

さらに明らかにおかしい朝廷の様子。誰が何をしているかもわからず、命令の意図も不明で、
その命令すらも放置されたり結果を受け取る者が居なくなったりする・・・ふしぎだなぁ。
この混乱こそが阿選の目的なのだろうか?それともそれすらも阿選はどうでも良いのだろうか?
とても不可解だけど、平仲の一連の説明は面白く興味を惹かれた。早く理由を知りたいな!


展開がまったく予想できないけど、2巻も楽しみ。全員無事でありますように。それではまた。

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【読書感想】2020年7月4日 丕緒の鳥

はいこんばんはRM307です。今週は読書回、今回は小野不由美作の短編集「丕緒の鳥」の感想。
十二国記シリーズの第8作目、これまでの王や麒麟では無く、官や民に焦点を当てた作品です。
読むのは2回目、七年前に読んで以来。ついこないだだと思っていたけど、内容を忘れていた。

【「丕緒の鳥」あらすじ】
慶国の射儀に用いる陶鵲を作る射長氏の祖賢、羅人の簫蘭、そして羅氏の丕緒。職務に真剣で、
王の為に、そして自分たちの為に良い陶鵲を思案し作り続けていたが、祖賢は冤罪で、簫蘭は
予王による悪政で失われた。陶鵲に民の姿を重ね、それが壊れる事で王にその現実を伝えようと
丕緒は工夫を重ねるが、王から賜った言葉で思いが届かないと悟り、陶鵲を作る意欲が消え、
思案も枯れ果てた。その後新たな王が践祚する。丕緒にはまた陶鵲を作るように指示された。

内容を忘れていたので楽しめた。しかし祖賢が、簫蘭も恐らく殺されたのは悲しかった・・・。
あんなにも一生懸命で、楽しい時間を過ごした仲間たちが・・・と。王が悪政を敷く、これまで
端的に語られていただけに留まっていたけど、実際に虐げられる人々の目線に立つとこんなにも
無慈悲でひどいものなのだ、とわかってつらかった。今までまったくわかっていなかったな。
だから最後、丕緒たちの思いが陽子に届いて本当に良かった。枯れたと思っていたアイディアが、
陽子の言葉をキッカケに次々と浮かんでくるラストも。深く追求せず、自然に描かれている。

この陶鵲という設定、とても細かくて面白いなぁ。その成り立ちから工夫されていった様子、
いろんなパターンの陶鵲のアイディア。この世に存在しないアイテムをここまで広げられるの、
ただただすごいな・・・。しかもそれを民の姿とリンクさせ、丕緒は民の為に、王にその思いを
伝える為に陶鵲を作り続ける。面白いなぁ。官吏なんて私服を肥やすだけ、と思いがちだけど、
丕緒たちは国政には関わらない下級官ではあるけれど、それなのにこれだけ民を思い、責任感を
持ち、その為に苦心する官吏も居る、人知れず戦っているんだとわかり、救われる気になる。
身分が低ければ伝わるけど、高い相手には伝わらない、そんな苦しみの中でも陶鵲を作り続けた
丕緒はすごいな。国を動かす事は無くても、これからも羅氏としての仕事を全うして欲しい。

あとこの作品で、予王以前の女王について知る事ができたのも良かった。ぜいたくに溺れた
薄王が17年、強大な権力に溺れた比王が23年。以前も書いたけど、そんなすぐに道を失う者に
天啓があるというのが不思議だなぁ。もっとマシな人はたくさん居ると思うんだけどな・・・。


【「落照の獄」あらすじ】
柳国では、狩獺という残忍な殺人者に対し民の怒りが爆発していた。民は殺刑を望んでいるが、
柳では殺刑を用いらない事になっており、また国が傾いている中で復活させると、乱用される
恐れがある。しかし殺刑を避ければ、民の心が司法から離れる・・・。司法の番人たちの苦悩。

瑛庚たちが何度も話し合いを重ね、時間をかけて検証している様子が良かったな。彼らもまた
本来は国の行く末を左右する立場で無い。でもここで死刑を復活させる事は、その後の国の
命運を握っている。だから慎重にならざるを得なかったし、どうしても死刑は避けたかった。
国や民の事を考える彼らの思いに多少なりとも胸を打たれたし、思いが報われて欲しかった。
しかし結局は、狩獺に敗北する。勝負では無いし、正確には負けた訳では無いのだけれど、
すべての人を教化する事はできないという現実を動かす事ができなかった。でも仕方が無いよ。
そういう人はどこにだって存在してしまうのだ。どうか自分たちを責めないで欲しいと思う。
これから柳はどんどん傾いていくのだろう。他作品でそう触れられていたけど、こちらも実際に
傾く、乱れるというのはこういう事だとようやくわかったような気がする。そして命の重みも。
ラストの、何かの予兆のように鉄格子の影が堂内を切り刻んでいたのは良い描写だな・・・。

狩獺は今で言うとサイコパスなのかもしれない。命を命と思わず、強盗をし住人に拷問をする、
一家を惨殺しその家に住み、死体は沢に渡し橋として使う、必要も無かったのに子どもを殺す。
残忍とは書いたけど、罪の意識が存在しない。自分が死刑になっても構わないと思っている。
ラストの狩獺の高笑いがつらかった。たくさんの罪の無い命を奪った人間が、勝者などであって
欲しくは無いのに。願わくば、処刑の際に狩獺が死を恐れますように。それならまだ救われる。

清花淵雅のような人間も本当に厄介だ。清花は今で言うとTwitterで炎上させ騒く人かな。
たとえば最近の、ラブドールの規制を求める過激派の論法に酷似しているように感じる。清花も
瑛庚の言葉に聞く耳を持たず、理に対し情の話をしている。いっしょにしては駄目なのだ。
まぁでもそれは、僕が瑛庚の考えを知れる読者の立場だからそう思うだけなのかなぁ・・・。
僕も清花みたいに考えてしまう気持ちがわからないでもないもの・・・気をつけたいところだ。
こちらも、前妻の事を含め瑛庚は自分を責めなくて良いと思う。わかり合えない人も居るのだ。

淵雅は理想論を振り回し、それが己の理想ならまだ納得できる部分もあるけど、ただの借り物、
父の威を借る狐でしか無い。淵雅の人物評もすごく細かくリアルで、こういう人間を描けるの
すごいな・・・!と感嘆した。現実にモデルになるような人物が居るのだろうか?政治家とか?
淵雅はこれから確実に障害になる。賢帝と言われるような劉王も、息子には甘いのかな・・・。

以前も書いたかもしれないけど、劉王に何があったんだろうな。黥面の仕組みとかも面白く、
上手く機能していて、柳に凶悪犯罪が少ない事、死刑に罪を止める効力が無い事にも説得力が
あったのだけど、狩獺の処遇を司法に丸投げして、自ら破綻している政策を施行したりして。
雁国の為もあるけど、柳国が何とか持ち直してくれたら良いな・・・。もう遅いかもだけど。
十二国記シリーズでは初めてと言っても良い、救いの無いバッドエンドだった。面白いけどね。

あと、仙籍に入った妻が離縁した場合、仙籍に入っていた間の分下界は時間が進んでいるので、
両親や兄弟や友人はすでに死に、知り合いが誰も居ない状態で寄る辺無く、どこにも居場所が
無い孤独というのは考えていなかったな。国官になれば自分も家族も仙籍に入ると当たり前の事
のように考えていたけど、単純には考えられない、重い決断が必要な事だったのだな・・・。
青条の蘭」でも、兄弟縁者の昇仙は許されない、どこかで線引きしないといけないとあった。
そうか、昇仙すれば、親や兄弟や友人たちをすべて看取らないといけないのだな。つらいな。


【「青条の蘭」あらすじ】
野木に生ずる新しい草木や鳥獣を集める任の官吏の標仲、山野の保全をつかさどる包荒は、
故郷の山で一本の変色した山毛欅を見つける。その枝はまるで石のように姿を変えていた。
年を経るごとにその奇病は広がっていく。このままでは山毛欅が倒れ、山毛欅が養っていた
野生動物たちが民の生活を脅かし、その根が抑えていた山肌が崩れ、盧や里を襲ってしまう。
標仲と包荒、そして猟木師の興慶は、何年もかけて奇病を止める薬になるものを探し続けた。
やっと「青条」と名づける蘭が薬になる事がわかったが、国府に奏上しても、一向に音沙汰が
無い。標仲は私財を投げ売り高官に便宜を図ってもらおうとしたが、あえなく裏切られる。
早くしなければ雪解けに間に合わない、標仲は直接王宮を目指す。その苦難の道のりの物語。

ラストの展開だけを覚えていた。こちらも、民を救う為に必死になって薬を探す標仲たちが
すごく良かった。ただの奇病ならいざしらず、自然の理の外の謎の病だから大変だ・・・。
どれが薬になるか、あらゆるものを試すのってまさに雲をつかむような話で、不眠不休で何年も
探し続けたその苦労を思うと頭が下がる。見つけてからも、どうすれば効くのか、栽培方法や
保存方法は・・・と考えるとはてしなく遠い道のりだ。みんなの努力が報われて良かったな。
その期間で、たくさんの身内が奇病の影響で亡くなったのはつらかったけど。「丕緒の鳥」も
そうだけど、みんな大切なものを失っている。物語に救いはあるけど、命はもう戻ってこない。

報われた、と書いたけど、金に目がくらんだ頼みの高官に裏切られ、興慶は国を追われる事を
余儀なくされる。黄朱の仲間と袂を分かち、その上犯罪者扱いされるなんて悲しすぎる・・・。
あんなに頑張ってくれたのに・・・。どうか彼も幸せになって欲しいと思う。でも戸籍が無いと
どこへ行ってもつらいだろうな。仲間の元へももう戻れない。彼のその後が気になるよ・・・。

山毛欅(ブナ)の設定が面白かったな。自然の中のその一つが壊れたらどう影響があるのか。
また地官遂人と果丞の設定の建前と実情の設定も。ファンタジーの世界でも世知辛いな・・・。
国が傾いているから余計にひどいのかな。今の雁国ならきっともっとクリーンなんだろうけど。
新王が践祚しても、現在の地位にしがみつこうとする者、この機に乗じて他者を蹴落とす者、
官位を失う前に私財をかき集めようとする者など、国情が以前よりもひどくなるとは・・・。

もちろん中には良い官吏も居る。「東の海神 西の滄海」に登場するメンバーなどがそれだ。
最後に「新王によって任じられた新しい地官遂人」という記述では「帷湍だ」と嬉しくなる。
読者はこれでもう安心だ、と胸をなで下ろし、ここで「これは五百年前の雁の話だったのか!」
とわかって面白さが増すんだよね。ここまでずっと伏せられていたから、カタルシスがすごい。

でも国府がきちんと機能していれば、王宮から騎獣を使って青条を受け取りにきてもらえたし、
興慶も王宮を目指した標仲もここまで苦しい思いをしなくて良かったのにな・・・と残念だ。
青条が帷湍を知る民の手に渡らなければ、標仲が考えたように彼の身分では謁見を許されず、
またどこかで握りつぶされていたかもしれない。最後の民へのリレーは本当に奇跡だったな。
標仲が脚を動かせなくなり、「もう無理だよ」と言われて泣くシーンはせつなくてぐっときた。

誰にも事の重大性を理解してもらえない・・・。それでも、そんな中で最後に標仲の意志を
継いでくれたのが民だった。標仲の事情も荷が何かも知らない、それでも国の為という言葉を
受けて、それまで国が何をしてくれた訳でも無いのに、力の限り走り続けてくれた。すごいな。
彼、彼女らもまた荒廃でたくさんのものを失っていたのに、それでも前を向いて生きていて、
託された思いをつなげてくれた。みな名も無き民だけど、その一人ひとりが居てこそ、国は
成り立っているのだな。標仲の言うように、すべての人が救われる日が早くきていますように。


【「風信」あらすじ】
予王の悪政により、慶に暮らす女性は国を追われた。家族や友人を失った蓮花もまた、旅の末に
慶を出ようとしていたが、その折に王が斃れた事を知る。身寄りも無く、虚しさで空っぽに
なってしまった蓮花は進むのも戻るのもやめ、その場に留まる事に決める。親切な大人たちが
保章氏の住む園林での働き口を見つけてくれ、蓮花はそこで奇妙な人々の世話をする事になった。

この作品は内容を完全に失念していた。予王が慶から女性を追放した事は何度も語られていた
けど、こうして空行師に射られ、逃がそうとした家族まで殺された上に、女性を燻り出す為に
街に火を点けるなんてひどい事までやっていたとは・・・と実際の非道を知りつらくなった。
州師はそこまでする必要なんて、そんな命令に従う必要なんてどこにも無いはずなのに・・・。

でも一番好きな話。深く傷ついた蓮花が、支僑たちとの暮らしの中で癒えていくのが嬉しい。
変わった人ばかりだけど、その奇妙さが心地良く、親しみを感じられる。それだけじゃなく、
みんな蓮花が下働きだと雑に扱わず、相手を尊重して丁寧に接しているのもとても良いなぁ。
この暮らしがずっと続いていくと良いな・・・蓮花が候風や保章氏になって欲しいなとも思う。
それかいつか、自分の夢を得て外の世界に飛ぶ立つ日がくるのかもしれない。それもまた良い。
彼女のその後の物語をぜひ読みたいけど、無理かなぁ。いつか本編で登場したりしないかなぁ。

暦を作る仕事の設定も面白い。それもただの暦じゃなくて、風土を様々な角度から検証した、
その場所に合った、農作物の出来を左右する大事なもの。農民の失敗で民が飢える事になる、
なのでとても大切な仕事なのだとわかるのが良い。なるほどな。嘉慶の「戦うことが道なら、
日々を支えるのもまた道」という言葉も良かった。僕にも戦う事はできない。新都社においても
そうで、直接新都社の役に立つシステムを作ったり、住人を呼び込んだりする事はできない。
でも、何かの支えになれたら良いなと思う。その為に、ささやかでも活動していきたいと思う。

ラストも忘れていていたので、希望のある美しいシーンで本当に良かった。候風は新しい王が
立った事もわかるんだ!日々の何気ない日常の観察が結びついているのが何だか無性に嬉しい。
優しい支僑の言葉に救われる。蓮花もココロを抑えず、失った家族を想い泣けて良かったなぁ。


以上、新鮮に楽しめて良かったです。さて一年近くかけて読み返してきた十二国記シリーズ、
来月からはいよいよ新作を読み始める予定です。どんな話なるのか緊張するな!それではまた。

Web拍手

【読書感想】2020年6月6日 華胥の幽夢

はいこんばんはRM307です。読書回の今週は小野不由美作「華胥の幽夢」の感想。短編集で、
十二国記シリーズの第7作目。通して読むのは十代の頃以来で、こちらもたぶん2、3回目。

華胥の幽夢 十二国記 (講談社X文庫)
小野 不由美
講談社
2001-09-05


【「冬栄」あらすじ】
厳しい冬を迎えている戴国。泰王驍宗は宰補泰麒に「暖かいところに行ってみたくはないか?」
と尋ねる。泰麒は蓬莱からこちらの世界へ帰ってきた折に助けてくれた、漣国の廉麟へお礼の
使節として、南の国の漣へ旅立つ事になった。街を越えるごとに暖かくなっていき、戴の春や
秋のような気候の漣に到着した泰麒は、戴もこうだと良いのに、と思わずにはいられなかった。

阿選」という名前を目にするだけで腹が立ってしまい笑、護衛が居るから漣の街を歩いても
大丈夫だろうという判断にも「泰麒が危険な目に遭った方が良いからそう言うんだろうな」と
むかむかしながら読んでいたのだけど、気安い廉王と楽しそうな泰麒が可愛くてほっこりした。
泰麒と軽口を叩く正頼のやりとりも良かったな。正頼には胡散臭いイメージがあったのだけど、
今回読み返したらそうでも無い、というか良い人だった。どうしてそう思っていたのだろう?
「正頼、つまらないの?」
「もちろんですとも。腕白小僧の首根っこを捕まえて、がみがみ言うのが私のお役目なんですから。たまには大変な悪戯をしでかして、尊いお尻をぶたせてくれなくちゃ、じいやには楽しみがありません」
(中略)
「心掛けておくね」
「よろしくお願いしますよ」
「潭翠には内緒ですけど、私は一度、潭翠が血相を変えたところを見てみたいと、常々思っていたんです」
「潭翠がかんかんになるような悪戯をするんだね」
「頑張ってくださいまし。そうしたらじいやが、戻りしだい、園林の木に吊るして差しあげますから」
このへんの会話が好き。のちに自由すぎる廉王世卓、廉麟の振る舞いによって、途方に暮れる
潭翠の様子を見られて喜ぶというw戴と漣は地理、気候だけじゃなく、本当に間逆な国だなぁ。

農夫の世卓は自分は王として大した事をしていない、勝手に伸びていく国を助けているだけ、
と言っていたけど、政治の事がわからず周りに任せる事が多くても天命を失っていないのは、
その働きが大事で、多くの中から必要な事がちゃんとわかっている、正しい判断ができている、
という事なのかな。それとも世卓の言う通り、本当に農夫としての彼を必要としていたのか。
そう割り切って考える事ができたら良いだろうなぁ。僕は絶対に疑っちゃうと思うから・・・。
泰麒もきっと同じで、でも世卓の言葉によって救われていた。とても良い出逢いだったのだな。

自分は周りにとって邪魔で迷惑をかけている存在なのでは無いか、と思い悩んでしまう泰麒。
良かれと思ってした事がかえって家族を落胆させる結果になる、というのもちょっとわかるな。
しかも泰麒はまだやっと11歳!作中にもあったけど、大人に囲まれているだけで緊張するよね。
驍宗や周りの官吏たちで、もう少し泰麒の目線に立ってを思いやれる人が居たらなぁ・・・。
それか泰果が流されていなければ・・・などと「もし」を考える事が多い。本当に泰麒、戴国は
その気候から何から苦境に立たされてばかりだ。ことさら戴には救いが無いような気がする。
苦しい戴の民を思って胸を痛める泰麒もいじらしかった。こんなに思い悩んでしまう泰麒が
六年も国を離れて、そしてそれに気づいた時はどれほど悔やんだだろう・・・と思うと・・・。

ラスト、驍宗の正寝のすぐ隣に住めるようになり、また移動用の子馬も与えられて喜ぶ泰麒。
この幸せがいつまでも続いて欲しかった・・・その後を知っている読者全員せつないよ・・・。

泰麒と驍宗と気心の知れた臣下たち。冬が終わり、希望にあふれた未来が待っているのだ・・・
というところで阿選が裏切り、彼らの幸せは終わりを告げる。楽しく笑っていた臣下たちも、
ほとんどが殺されてしまう。この短編ではこうしてみな元気に笑っているけれど、もう失われて
しまったのだ、と思うととてもやりきれない気持ちになる。今回読み返してつらさが増した。
どうか阿選が報いを受けますように。何より泰麒と驍宗が無事に再会できますように・・・。


【「乗月」あらすじ】
苛烈な法を課し民を残虐した前峯王が討たれて四年。諸侯をまとめていた恵州候月渓は、諸官の
頼みを退け王宮を去ろうとしていた。簒奪者の自分が仮王として玉座に座る訳にはいかないと。
そんな折に、突然縁もゆかりも無い慶国から使者が訪れる。使者の禁軍将軍の青辛は、月渓への
親書を携えていた。それはかつての芳の公主、祥瓊から月渓に宛てられた一通の手紙だった。

前峯王仲韃がいっそ腐敗していれば期待する事も無く、憎む事さえできたのに、仲韃は最後まで
無私無欲で。憎みたくない相手を憎まなければいけない苦しみが、月渓に大逆を決意させた。
だからこの弑逆は大罪だった、という事がわかるのが良いなぁ。月渓と冢宰の小庸が仲韃を
懐かしそうに語るシーンも良かった。思慕と、憤りと。複雑だな・・・。そしてとても悲しい。

その後桓魋の言葉と、祥瓊からの手紙を読み、祥瓊の減刑を願う為に供王に文を送る、それは
恵州候という一州候としての立場では無く、芳を預かる人間として・・・という流れが上手い!
何より祥瓊の自覚と悔恨が月渓に届いた、というのが嬉しかった。供王珠晶の粋な処遇も良いw
表向きは国外追放という温情、そして「干渉するな」という自国に専念せよというメッセージ。
さすが在位90年の珠晶だわ・・・王の器というのはこういう事を指すんだな、と改めて感じた。
きちんと罪を贖う為に、恭へ向かおうとした祥瓊もえらいな。極刑になったかもしれないのに。

話としてはその流れでめでたしめでたしなんだけど、芳はこれから止めようもなく傾いていく、
民は苦難を舐める事になるという現実もしっかり記されている。まだまだ問題は山積みなのだ。
この世界で生きるという事は本当に大変だ・・・。芳の荒廃が少しでも抑えられる事を祈る。

あと今さら疑問に思ったけど、予王より、麦州候浩瀚の方がよっぽど王に向いてそうじゃない?
それでも天は予王を選んだ。浩瀚に足りないものが、予王にしか無いものがあったのかなぁ。
それは他の十二国記作品でも思う事だけど、本当に天意というものはよくわからないな・・・。

それと「罪の重さを知らない事が罪」という話、僕も無知な人間だから、身につまされるな。
今までたくさんの間違いを犯してきたけど、もう大きな罪を犯さないで生きていきたい・・・。


【「書簡」あらすじ】
慶国の首都尭天から雁国の首都関弓へと飛ぶ一羽の鳥。それは人の言葉を伝える。景王陽子
彼女を助けた半獣の楽俊の近況を知らせるやりとり。誠実に、けれどお互いに背伸びをして。

名高い雁国の最高学府、そこでも半獣としての差別がある事が残念だった。どこの世界でも、
差別は存在するのだな・・・。楽俊が優秀ゆえのやっかみもあるのだけど、彼だけが本を
借りた時にそのねずみの外見、貧しい身なり故か念書を書かされないといけないとか、嫌だな。

しかしそんな事は陽子には伝えない、しかし陽子はそんな事をちゃんとわかっていて、言葉に
して他者の同情を求めたりしない楽俊の事を陽子は尊敬している。本当に良い関係だなぁ。
これからもふたりの関係が続いて欲しいな。できれば近いところで。楽俊は将来的には巧国の
力になりたいと思うのかもしれないけど、慶の国府に入って欲しい気もする・・・難しいな。

こちらの世界の人々にとって、祖国は大切なものなのだなとたびたび感じる。国が荒れ故郷を
追われた難民も、新たな王が発ったら貧しくても帰ってくる。楽俊のお母さんも王が斃れて
妖魔が蔓延るなど荒廃が始まっても巧で暮らし続けている。それだけの拠り所なのかな・・・。
でもお母さんはどうやら楽俊が雁に呼ぶみたい。その方が絶対に良いよ、心配だもの・・・。
大学へ入れてももちろんそれで終わりでは無く、成績や学費の問題があり、差別も存在する。
つらい事も多いけど、上手く乗り越えていけると良いな。そしてまた楽俊の話を読みたい。


【「華胥」あらすじ】
才国は扶王の失政を糾弾する、砥尚を始めとした民衆による高斗という集団は、国の理不尽と
戦い、扶王亡き後は荒廃と戦った。そして砥尚は采麟の選定を受けて新王となる。誰もが砥尚を
信じた。それから20数年、いっかな国は豊かにならず、その王朝は無残にも沈もうとしていた。

責難は成事にあらず」という言葉以外はまったく内容を覚えていなかったので、ここまで
ハードで悲しい話だったとは・・・と読んで驚いた。以前読んだ時は気づかなかったけど、
これは「幻想水滸伝」シリーズのような主人公たちの集団がたどり着いたハッピーエンドの
その先の物語だな。傑物である主人公と、若く理想に燃える仲間たち。主人公は王となり、
仲間たちもそれを支える官吏となった。あの日語り合った、理想の国を作るのだという夢、
せつないほどまぶしい輝かしい過去。しかしそれからわずか20年で、その命運が尽きる・・・。
こういう残酷な未来が訪れるケースもあるんだな・・・と現実を見せられたように感じた。

朱夏の従者の青喜がたびたび核心を突く発言をしており、何でも答えを教えてくれるようで、
ちょっと聡すぎないか、便利に使いすぎていないかと思いはしたものの、推理物としても楽しめ
面白かった。王父と王弟を殺したのは誰か、砥尚か・・・?というところに焦点を当てるんじゃ
なくて、なぜそうする必要があったのか?について思考を巡らせるところがとても良かったな。
栄祝たちの砥尚の何がいけなかったのかわからないという疑問と、件の砥尚の凛とした姿勢、
なぜ才が沈もうとしているのか・・・という謎から始まり、だんだんとほころびが露呈してきて
転がり落ちるように状況が悪化していくのも、悲しいけど読ませる力があって良いなぁと思う。

砥尚は政務に飽いたり民を虐げたりしている訳でも無く、登極以来誠心誠意民に向き合っている
のにも関わらず失道してしまう、国を収める能力が無かったから・・・というのがとても悲しい。
無論、統治が難しい事はわかる、でも破格の早さで大学を卒業した砥尚や、志を同じくした
仲間たちの誰もが無知で無能な政の素人だったとは思えないのだよな・・・。慎思の言うように
確信を疑わなかった、それも間違いだったとは思うけど、一番は奸吏の所為のような気がする。
栄祝と朱夏が奏から帰った時の荒らされた部屋もひどかった。本当に人に恵まれず不運だよ。
官吏に恵まれていれば、国はもっと上手く立ち直っていたと思う。これも砥尚たちの所為なの?
砥尚に国を収める能力が無いとわかっていて王にしたのなら、天帝の罪でもあるんじゃないの?

そもそもよくわからないのだけど、後に采王になる慎思が居るのにも関わらず、なぜ一度砥尚を
王にしたのだろう。最初から慎思を選んでおくべきだったんじゃない?その所為で民や采麟に
取り返しのつかない傷を負わせる事になったのだから、天意にも腹が立ってしまうよ・・・。
もちろん、砥尚や栄祝など失われた人々も取り返しがつかない。悲しすぎる事件だよ・・・。
冬栄」の廉王世卓の言葉を聞いている限りでは、天が砥尚に期待しただけの働きを砥尚が
できなかったから天意を失った、という事なのだろうか。そうだとしてもそれはちょっとひどい
気がする。何にせよ、天の意思なんてろくなんもんじゃない、と思う事に変わりは無いな。

砥尚も実父や実弟を手にかけたので、完全に擁護できる訳では無い。でも本当に苦しかった
だろうな。栄祝と朱夏の命を惜しんで奏へ向かわせる時の、この部分が一番せつなかった。
命を惜しんでくれたのだと思うと、涙が零れた。砥尚はいまだに、栄祝や朱夏に対して友誼を感じてくれているのだ。にもかかわらず、大逆を問わねばならない。そんなことはあり得ないと一蹴はできない砥尚の心情を思うと、あまりにも悲しかった。(中略)きっと見下げただろう、侮蔑し憎んだだろう、それがゆえの大逆だろうと思いながらも、死を賜るには忍びない――と。
追い詰められた思考。何百万もの民の命を背負っていて、自分の命運も尽きようとしていて。
かつての仲間の声にも耳を貸せない、もう何も信じられない、己さえも。苦しいなぁ・・・。
繰り返すけど、本当に砥尚に悪を成そうというつもりは無かったのにこうなってしまった事が
ただただ悲しく、無念に感じる。救いが無い。彼らが報われる未来があって欲しかった・・・。

砥尚をそそのかし、罪をなすりつけたのが栄祝だったにのはかなり驚き、そして悲しかった。
その後自分で死を選んだのも。栄祝も罪を犯した、でも決して悪人では無かったはずなのだ。
だからとても悲しい。朱夏も信じていた夫だったし悲しい。悲しいばかり言っているけど。
息子や甥がこんな末路をたどる事になり、慎思も本当につらかっただろうな・・・。それでも
朱夏たちを叱咤し前を向いたのがすごい。この過程で天意を得たという事なのだろうか・・・。

慎思の「自分ができない事を他人ができないからといって責めるの?」という部分はちょっと
上手く飲み込めなかったな。簡単に他人を非難するべきじゃないという事はわかるのだけど、
自分ができないからって声を上げてはいけないのだろうか、とも思う。責めるだけで正しい道を
教えられないのでは何も生まないという理論もわかるんだけど、同時にそれでは大切な何かが
失われるのを黙って見ているだけにならない?とも思ってしまうのだ。正しい道はわからない、
でも明らかにそれは間違っている、と誰の目からも明らかなケースもあるのでは無いだろうか。
それともその間違っているという判断も、独りよがりな結論なのだろうか・・・わからないな。

しかしこの慎思が後に新王となった訳だけど、賊吏の横行するこの朝廷をどうやってまとめて
軌道に乗せる事ができたのだろう。砥尚と栄祝の罪を背負ってすごく頑張ったのかな・・・。
采麟もあれだけココロに深い傷を負い、立ち直ったのがすごい。「風の万里 黎明の空」では
まだ若干元気が無いような印象を受けたけど。奏への道中での描写は痛ましかったな・・・。
憎悪すらも感じるような状態で、それでも王を慕わずにはいられない。麒麟は悲しいな・・・。

あと、青喜の「本当に望んでいるのはこれなのに、そうであってはならないと感じる、あるいは
それを望めばいっそう悪いことになるのじゃないかと不安に思う」というセリフ、これは僕にも
よく当てはまる気がする。僕もそうやって自分の望みを抑えつける事が多かったように感じる。
本当にココロから望んでいるものを求める事はとても難しいと思う。今でも上手くできない。


【「帰山」あらすじ】
柳国が傾いているらしいという情報を得た宗王の太子、利広が王都にたどり着くと、そこには
古くからの顔なじみ、雁国の風漢も訪れていた。彼らは柳の違和感のある崩れ方について話す。
かくも王朝は脆い。死なない王朝は無い。しかし利広には、自国の終焉を想像できなかった。

何百年も生きた利広と尚隆のやりとりが好き。王朝が続く為に乗り越えなければならない山や
その終焉のパターンを知れるのが嬉しい。たくさんの終わりを見てきたふたりだからこそだな!
玉座に飽いてしまったのでは無いかと言われている劉王露峰。実際何が起こってるのだろう。
120年という半端な時期に起きた事や、早くも妖魔が蔓延っている事なども合わせて気になる。
そしてお互いが雁と宗の終焉を予想し合うところも面白い。ありそうで少し怖いけど・・・。

家族全員で治世を行う宗王一家もすごく好き。親しげな会話もまじめな会話もとても面白い。
巧の難民を受け入れる為に使い道の無くなる大型船を造るのでは無く、漁民に払い下げられる
小型船にした方が良い、隣国が施せばいずれその恩義を返せるかもしれないが、遠い国がそれを
行っても返せず、天から降ってきたのと同じ、難民にとって一番大切なものをくじく事になる、
という話が興味深かった。誰か一人から名案が出てくるのでは無く、全員から有用な意見が
飛び交うのが良いなぁ。頭が良いというのはこういう事だ。そして誰もがまっとうで魅力的。

王が斃れていない戴、斃れたばかりの巧に、あれほど早く妖魔が跋扈するようになるのは妙だ、
妖魔の方に何かが起きているのでは無いか・・・という推察も面白い。さすが600年生きている
人たちの考えは違うかなぁ。このへん、シリーズが続けば描かれるのかもしれないな・・・。

あとは陽子が褒められているのも嬉しいし、利広と珠晶の交流も続いているのも嬉しかった。
自分の国だけで手いっぱいなところが多い中で、宗王は利広から情報を得て他国の事も考えて
動いている。本当にすごいなぁ。何もしない天帝なんかよりよっぽどこの世界を支えているよ。
どうか奏がいつまでも安泰でありますように。この安寧が永遠に続いて欲しいなと切に願う。
何より、一家が語らうこの幸せな空間を、利広と同じく僕もまた確認したいなととても思う。


以上、予想以上に忘れているところが多くて楽しめました。面白かったです。それではまた。

Web拍手

【読書感想】2020年5月2日 黄昏の岸 暁の天 下巻

はいこんばんはRM307です。読書回の今週は小野不由美作「黄昏の岸 暁の天」下巻の感想。
上巻同様、読むのは十代の頃以来でたぶん2、3回目。なので細かいところを結構忘れていた。
上巻の感想http://rm307.blog.jp/archives/81736341.html



【あらすじ】
慶に転がり込んできた李斎の頼みを受け、泰麒の捜索をできる限り協力すると約束した陽子は、
延王尚隆ら、十二国のうち六国の王と麒麟の力を借り、蓬莱と崑崙を捜し始めた。しかし
一向に麒麟の気配は感じられない。そんな中、廉麟の使令が良くないものの存在を感じ取る。
蓬莱に居るはずの無い強大な妖力の持ち主、泰麒の使令の饕餮、傲濫だ。泰麒はここに居る!
しかし角を失った泰麒はもはや麒麟とは呼べず、麒麟でないなら、蝕で十二国に渡れない――。


短い話だったという事もあるけど、捜索が進展する後半の展開はとても面白く、一気に読めた。
あまりキャラの心象に触れず、ずいぶん急に展開が転がっていくなと少しびっくりもしたけど。
伝説の西王母に会い泰麒が目を覚ますまで、もっとじっくり書かれても良さそうなものだけど。

碧霞玄君玉葉に伺いを立てるシーンなど、法の裏をかくように、天の意向に触れないように
するにはどうすれば良いか考えたり質問したりするところが好き。大昔の中国のような世界の話
なのに、明らかに自動的に発動するシステムが常に働いているのが面白い。神の箱庭世界だな。
作中でも書かれていたけど、詭弁のように感じる。陽子と同様に、僕も天意に不信感を抱いた。
上巻の感想でも書いたけど、天命をもって玉座に就いた王が非道な振る舞いをすれば、それは
失道というかたちで天帝の裁きが下される。しかし天命無き偽王に裁きは下らない。王と麒麟を
管理するだけじゃなく、悪人にも天罰を与えて欲しい。下巻ではそれを李斎も訴えていた。
悲痛な叫びにこちらも胸が痛かった。祈る事しかできず、死んでいった民の事も思うと・・・。

西王母が阿選の事を知っていたのもちょっといらっとするな。知っていても何もする事は無い。
玉葉も李斎の事を、昇山した事を知っていた。こちらも阿選の事を知っていただろう・・・。
昇山というシステムについての疑問もよくわかる。騎獣で雲海の上を行けば簡単に着けるのに、
どうしてあんなに危険な黄海の旅をしないといけないのだろう?それによって王になる人物が
命を落とす事もあるのに。他の昇山者、優秀な人物だってたくさん命を落としたりするのに。
麒麟がはっきりとした王気に向かってまっすぐ会いに行ける仕組みの方が絶対良いよね・・・。
李斎も言っているけど、何の為に民にこれだけ高い代償を求めるのだろう。わからない・・・。

天帝や西王母の目的って何だろうな?このままじゃ戴は滅びるかもしれなかったのに、戴に対し
何もしていなかったし、目の前の泰麒が命を落としそうな時も一度は見捨てようとしていた。
神は人と関わらないようにしているのはわかるけど、今回は管理する世界の国の滅亡だよ?
戴が滅んだらどうしていたのだろう?それでも良かったのかな?じゃあ何の為に王と麒麟という
システムを維持し続けている?民の為になる王を選び、国を治めさせている?気になるなぁ。
それともシステムが残っているだけで、天帝の意志というものはもう存在しないのか・・・。
このへんもいつか語られる事があるのかなぁ。すごく知りたいけど、公開される事は無さそう。

あと以前も読んだのに今回初めて知ったんだけど、氾王って男性だったんだね・・・!w長身が
男としか思えないとは書いてあったんだけど、昔の僕は男性に見える女性だと思っていた。
だって女性の格好をしているんだもの。十代の頃の世間知らずな僕は、男性でそんな服装が
好きな人が居るとは知らなかったのだ。十年以上経って初めて知る事実に結構驚いた・・・w
氾王に対し、目線のやり場に困ったり、目をぱちくりさせたりする陽子の反応が面白かったw
氾麟を見てぽかんとする景麒も珍しくて良かった。もしかして予王の姿に見えたりしたのかな。
金波宮に滞在する事になり、氾王が趣味に合うように勝手に模様替えをしたり、世話をする官の
選り好みが激しかったり、氾麟は氾麟で変装して宮殿内を歩き回ったり・・・厄介なふたりだw
祥瓊は疲れただろうなw自分の選んだ服を絶対に着せてやる!と腕まくりしていたところも好き。

筆で字を書くのに慣れていない陽子が氾王からの親書に返事を書く時に、祥瓊の注文が多くて
手厳しいのも面白かった。「そのへんにある紙に書き殴ったら、塵芥みたいなものでしょ」w
陽子が李斎に協力する事を約束した時に、気になった鈴たちが起きて待っていた時の会話も、
「だから、陽子は慶を見捨てるほど莫迦じゃないわ、って言ったのに」→「私にはそれほど
利口には見えなかったの」と遠慮が無いw身分が違っても何でも言い合える仲で好きだなぁ。
この時、遠甫や浩瀚が起きていたのも好きなところ。本当に良い人たちにめぐり逢えて良かった。
虎嘯や遠甫や桂桂が身近なところに住んでいるのも良いよね。しかもいっしょに!暖かいなぁ。

けれど気安い風潮、信頼のおける官だけが王の身近に居られる事を快く思わない人間も居て。
内宰と閽人の愚かな発言。こういう人間、どこにでも居るんだな・・・と残念な気持ちになった。
「他人の内実は推し量るしかない」という考えは、たしか上巻の李斎の回想でも登場したな。
ここで陽子側に持ってくるのが上手いなぁ。しかし陽子、冗祐を手放していたのは良くないぞ!
何か理由があったのかな。賓満が居ない状態でどうやってストレスを発散していたんだろうw
陽子を襲撃した内宰たちにも一理あると思った陽子に対し、浩瀚がさらりと、長々と(笑)
説明するシーンも好き。「剣を持って人を襲うと決めた時点で有罪、他者を裁く資格は無い」、
「愚かな差別を口にする事を恥じない者に道の何たるかがわかるはずがない」、「報われれば
道を守る事ができるけど報われなければそれができない、そんな人間を信用できるはずがない」。
さすがだなぁ。当たり前の事なんだけど、自分の存在に胸を張れない時は自信が無くなるよね。
そんな陽子を慰めるでも無く、淡々と道理を説く姿がカッコ良かった。憧れる大人の姿だ・・・。
あと「実状を知らない者に批判する資格は無い、実状を知ろうとするより先に憶測で罪を作り、
その罪を元に他者を裁く事に疑問を覚えない者に、いかなる権限も与える訳にはいかない」
という部分もなるほどと思った。今の日本にもこうやって私刑を行おうとする人が多い印象だ。
Twitterなどで騒いでいる人々を見ているとそう感じる。自分も気をつけないといけないな。

年長者から諭される事が多い陽子だけど、もちろん言うまでも無く陽子だってとてもすごい。
慶の復興もまだなのに戴を救っている場合かと言われるかもしれない、でも戴の民を救う事は、
もし自分が斃れた時、道を誤った時に慶の民が救われる前例になると言って周りを唖然とさせる。
やっぱり王の資質があるなぁと深くうなずいてしまうな。陽子が好きなので嬉しくなるシーン。
この時の尚隆との駆け引きも、最初ははらはらするけど面白い。周りもはらはらしただろうなw
最後に泰麒捜索の采配を請け負った尚隆に、陽子が「この借りは必ず返す、尚隆が斃れた時に、
雁が騒乱に巻き込まれる頃までには慶を立て直しておくので、安心して頼ってください」と
言ったのも面白い。ホント、ちょっと前まで女子高生をやっていたなんて信じられないなw
泰麒を捜す事になりかなり負担が増えたのに、当然の事のような顔をして尽力するのもえらい。

他の国の王や麒麟たちも、在位が長い立派な王、朝廷が多かったとはいえ忙しかっただろうに、
長く国を空けて一生懸命泰麒を捜してくれて嬉しかったな。特に蓬莱、崑崙を行き来して直接
捜してくれた麒麟たち。傲濫の気配、その恐怖と嫌悪が感じられるようになってからの捜索が、
あんなに身体に悪くつらいものだったとは・・・。今回読み返して廉麟がとても好きになった。
また泰麒と再会して欲しいなぁ・・・。いつか泰麒と驍宗が無事に王宮に戻り、各国へこの時の
感謝を伝えに行く事があれば良いなと思う。廉麟の話は「華胥の幽夢」でも読めるので楽しみ。

もう一つの驚きは、「戴史乍書」に書かれた一文。阿選が「兵を能くして幻術に通ず」とある。
なぜか突然阿選に寝返る人間が居るのは、幻術の所為だったのか・・・?!知らなかった!
前回も書いたかもしれないけど、驍宗が崩御していないのに戴に妖魔が跋扈しているのも
不思議だ。下巻でも「王が無事なら妖魔は現れるはずがない」と書いてあった。もしかして、
これも阿選の幻術の一つなのか・・・?いやさすがに妖魔を呼び寄せる事はできないか・・・。
他の話にもあったけど、妖魔は自分たちの事を人に話したがらないし、人には惑わされないか。
そんな妖魔、使令が、六太の呼びかけに対して「是」と答えるシーンは何だかどきどきした。
少し沈黙するのが良い。自分たちからは積極的に答えたり関わったりするつもりは無いけど、
一応考えて言う事を聞いてくれはするんだな。妖魔の存在も不思議だ。もっと知りたいなぁ。

そういえば妖魔が麒麟の使令に下った後、麒麟の身体欲しさに契約を破ったり、他の麒麟を
襲ったりする事は無いのだろうかと思っていたのだけど、使令との契約は王と麒麟の契約に
匹敵するらしい。そこまで絆が深いものなのだな。なら、傲濫も泰麒と離れるのはつらかろう。
いずれ清められた汕子や傲濫が泰麒の元へ帰る事ができるのだろうか・・・そうなって欲しい。
やり方は悪かったけど、あんなに身を削って泰麒を長い間守ってきたのだし、麒麟の力を失った
泰麒の支えにもなって欲しいし。本当に泰麒と李斎は戴に戻って大丈夫なのだろうか・・・。
慶の波乱の種子になる訳にはいかないし、自分たちの手で支えなくてはいけない。わかるけど、
やっぱりもうちょっと慶で養生して欲しかったなぁ。他国の人間は何もしてあげられないのだと
しても、先行きが不安すぎる。このまま戴に戻っても無事でいられるとはとても思えない・・・。

王気が見えないから驍宗を探せない、使令もおらず転変して逃げる事もできず身を守る術も無い。
玉葉も言っていたけど、そんな状態でどうするのだろうな・・・。あと玉葉が言っていた事で
もう一つ気になるところ、角を失い気脈から切り離された麒麟が生き延びられる年数はわずか、
との事だったけど、十二国の世界に戻れば大丈夫なんだよね・・・?まだ生きられる・・・?
せっかく戻ってこられたのに、あと数年しか生きられないなんて事は無いよね・・・心配だ。
もうお肉を食べないといけない事も無いし、ゆっくりでも角が再生していって欲しい・・・。
でも、何度もはっきりと「失った」と書かれているから、もう再生する事は無いのかな・・・。
あと日本に居る時の泰麒が自身の喪失に気づかなかったのは、やっぱり胎果だったからなんだね。
十二国の世界に戻り、本来の麒麟の身体に戻った途端に意識を失ってしまったのが悲しかった。
少しの血の穢れでも気分が悪くなる生き物なのに、これだけの怨誼は相当つらかっただろうな。

本当に泰麒が不憫だ。李斎の言うように、何も罪を犯してないのに。日本でだってそうだった。
泰麒自身が悪い訳では無いのに、優しい仁の生き物が、あんなに疎まれて、恨まれて・・・。
一番悲しかったのは、「魔性の子」も読んで、この時のつらい経験を泰麒はきっとこの先誰にも
話さず、独りで抱え込むのだろうな・・・という事。独りで、死んでいった命を背負って生きて
いくのだと思うと・・・。それでも笑って前を向き、戴に戻った泰麒はすごすぎるな・・・。
同じ表現になってしまうけど、本当に本当に、泰麒が幸せに生きられるようになって欲しい。

泰麒が戻って目を覚ました時、あの小さい麒麟はもう居ないのだ、と景麒や李斎が喪失感を
覚えたのもせつなかった。これからその失われた時間を埋めていく事ができたら良いんだけど。
みすみす死なせるようなものだと思いながら泰麒と李斎を見送った陽子もつらかっただろうな。
ふたりともせっかく命を救う事ができたのに、もしかしたらこれが今生の別れかもしれない。
でも無力な彼らに対して、戴に対して何もしてあげられない。覿面の罪って厄介だな・・・。
一日でも早く吉報が金波宮に届きますように・・・。ラストの六太との会話も印象的で好き。
「……まず自分からなんだよな」
(中略)
「まず自分がしっかり立てないと、人を助けることもできないんだな、と思って」
 陽子が言うと、そうでもないぜ、と六太は窓に額を寄せる。
「人を助けることで、自分が立てるってこともあるからさ」
僕も誰かを助ける事で、自分もしっかり立てるようになったら良いな・・・と思う。難しいけど。

あと遵帝の故事について六太が話した際、以前国氏が変わった例として代王の話をされていた。
失道で麒麟を失い逆上し、蓬山に乱入してすべての女仙を虐殺、捨身木に火をかけたという。
めちゃくちゃだな!wこの代王は遵帝のようにその場で死んだのだろうか。それとも玉葉に
倒されたとか?いろいろと気になる。十二国記の世界の話、すべてを知る事ができたらなぁ。


以上、面白かったです。ここから続きが読めるまで、読者は19年も待たされたのだよなぁw
ホント待たせすぎだよ・・・!早く続きを読みたいな。不安もあるけど・・・。それではまた。

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【読書感想】2020年4月4日 黄昏の岸 暁の天 上巻

はいこんばんはRM307です。読書回の今週は小野不由美作「黄昏の岸 暁の天」上巻の感想。
十二国記シリーズの第6作目、番外編では無く続編で、前回感想を書いた「魔性の子」の顛末を
十二国の世界側から描いた作品。読むのは十代の頃以来でたぶん2、3回目だと思う。この作品を
読むにはヘビーな内容の「魔性の子」も読まないといけない為、なかなか読み返せなかった。
図書館には加筆修正された新文庫版もあるけど、今週は忙しくて読む時間、長い感想を書く
時間が無かったので、持っていた上下巻に別れている講談社ホワイトハート版を読みました。



【あらすじ】
陽子が景王として登極してから二年が経った。まだ安定にはほど遠い慶東国の王宮の金波宮に、
ある日傷だらけの騎獣に乗った女性が現れた。自分も大怪我をしている彼女は劉李斎と名乗る。
戴極国の将軍の李斎は、陽子に戴を救って欲しいと懇願する。彼女の口から語られる戴の現状は
凄まじいものだった。しかし兵を向ける事はできず、慶には助けるだけの余裕が無かった――。


部分的に覚えていた箇所はあったけど、ほとんど内容を忘れていた為、新鮮な気持ちで読めた。
単に泰王驍宗、泰麒の行方がわからなくなっただけでは無く、ここまで込み入った事情があり、
偽王(正確には偽王じゃないけど便宜的に)阿選の振る舞いがここまでひどかったとは・・・。
驍宗と阿選の水面下での読み合い、これも事実だったのかな。考え抜かれていて面白いなぁ。

王を目指し、自分と並び立っていた驍宗が選ばれ、自分は選ばれなかった阿選。驍宗から玉座を
掠め取った彼はしかし、王になる事が目的にはならなかったようだ。戴を滅ぼしたいのかな。
自分を王に選ばなかったこの国など、存在しているだけでも腹立たしい・・・みたいな気持ち?
でも徹底的に滅ぼそうとするほどの意志も感じられない。何もかもがどうでも良いのかな。
怠惰な何かを感じる。どちらにしても、ひどく厄介な状況には変わりない。天命をもって玉座に
就いた王が非道な振る舞いをすれば、それは失道というかたちで天帝の裁きが下される。
しかし天命無き偽王に裁きは下らない。何だかなぁという感じだ。本当に天帝が民を想うなら、
王と麒麟を管理するだけじゃなく、こういう悪人に天罰を与えて欲しい、と思っちゃうよね。
このまま放っておいたら本当に戴が滅んでしまうよ。それは天帝の意志に反すると思うけど。
そのへんのシステムについては下巻に出てくるので、その時にまた語りたくなるかもしれない。

しかし、驍宗も泰麒も亡くなっていないから次の王も立たないし次の泰果も実らないという状況、
王と麒麟が同時に居なくなり冢宰も重症で、朝廷を束ねる者が誰も居ないという前例の無い状況
初めて読んだ時も思ったけど、どちらもめちゃくちゃ良くできているなぁ・・・すごく面白い。
本当に戴はどうする事もできない窮地に陥った。これも阿選の狙い通りだったのだろうか?

泰麒を殺そうとした阿選は、もし殺した後はどう動くつもりだったのだろう?泰麒が鳴蝕を
起こす事も予想していたとは思えないんだけど。混乱に乗じて白雉が鳴いた、驍宗が死んだと
嘘をついた訳だけど、鳴蝕の被害が無かったらこんなに上手く動けなかったんじゃないかと。
このへんはもしかしたら新作を読むと解決するのかもしれないな。読んだ時にまた触れるかも。

何より気になるのは、こんなに無茶苦茶な所業を行う彼に従う人間たちが居る事。戴は空位が
長く続いた。荒廃が少なかったとはいえ、また王が居ない時代に逆戻りして良いと思う兵士が
そんなに居るのかな?何を考えて道理に反する阿選に従い、非道の限りを尽くしているのか?
自分の行動に疑問を抱かないのか?昨日まで阿選に反旗を翻していたのに、今日になると突然
露骨な心変わりをした、李斎たちを保護した官吏たちの事も気になる。どういう事なのだろう。
陽子が洗脳と言っていたけど、これに近い事が行われているとしか思えないよね。不気味だ。
そして轍囲や驍宗の故郷が焼かれ滅ぼされたのがとても悲しい。もう取り返しがつかない。

他にも李斎に真実を教えてくれたり匿ってくれたりした官吏たちの命や、多くの戴の民の命も
そうなんだけど。本当に多くのものが犠牲になった。人々は何の罪も犯していないのに・・・。
「魔性の子」での高里と同じように、李斎も人々から逃げなければいけなかった。僕は冤罪が
大嫌いなのでつらかったな。そして右腕を失った。もう軍人が務まらないのが可哀そうだ。
ただ李斎も完全な善人では無く、遵帝の故事を知らないかもしれない景王をそそのかして戴に
兵を向けてもらおうとしていたのは意外だった。それぐらいしないと戴は永遠に救われない、
このままだと確実に滅んでしまうと思っての事だから、そう思ってしまう気持ちもわかるけど。
あと飛燕が元気になったのは良かった。あんなにぼろぼろだったのに、本当に良い騎獣だなぁ。

そして泰麒も日々その力が損なわれていった。切られた角が再生しなかったのは、食事でお肉を
食べさせられていたからだったのか・・・。この血の穢れさえ無ければ、麒麟の力が戻っていた
かもしれないと思うと・・・。でもそうしたら、使令たちがもっと早くに暴走していたのかな。
「魔性の子」の広瀬と出会う前だったから、もっとひどい状況になっていた可能性もありそう。
でも角の再生とともに記憶が戻って、十二国の世界に戻れた可能性もあるな。うーん、難しい。
使令は麒麟の気力を喰わないといけない。大きく動けば泰麒が完全に損なわれるかもしれない。
という事は、「魔性の子」では暴走した彼らの為に本当にぎりぎりのところだったのだな・・・。
日本での姿(殻)の時は麒麟の部分の喪失に気づかない、というのも厄介だ。そうだったのか。
本当に泰麒はどうしてここまでひどい事になるんだ、と悲しくなるほど過酷な境遇だ・・・。

その他に面白かったところを引用。ああ、この感覚はこうやって表現すれば良いのか!と感動。
「評価は結果を言い表したものでしかないでしょう。傑物という言葉は乍将軍の――泰王の結果に対する評価であって、泰王の内実を示す言葉ではないと思うんですが。(中略)他人と自分を比べてみても仕方ない。引き比べるのはどうしたって、他人の評価と自分の内実という比較にならないものになるに決まってるんですから」
「それが器量の差というものだと。私の考えが及ばなかった、足りなかった――どれも言葉は正しくありません。考えるきっかけがあれば、私にも分かったことでしょう。だが、私にはそのきっかけを見出すことができなかった」
それと王が崩御した際に鳴いて死ぬ白雉は、人では殺せないんだね。阿選が切りかかっても剣が
素通りしたという。興味深い。仙のように飢えて死んだりもしないのかな?不思議な生き物だ。
あと気になった新キャラ、冬官長の琅燦。少しだけしか登場してないけど魅力的な女性だった。
検索したところ新作にも登場するらしい。という事はその後生き残っていたのかな?良かった。

以上、ページ数は少なく、大きく物語が動いている訳では無いけど、終盤で李斎の語る真実に
あっと驚く面白い展開でした。下巻の感想は来月になるけど、早めに読むかも。それではまた。

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【読書感想】2020年3月7日 魔性の子

はいこんばんはRM307です。今週は読書回、今回は小野不由美作の「魔性の子」の感想。
十二国記シリーズの実質1作目。ただファンタジー色は強くなく、怪奇、現代ホラー作品です。
読むのは十年以上ぶり2回目。内容をほとんど忘れていたけど、ヘビーだった記憶はあった。

魔性の子 十二国記 0 (新潮文庫)
小野 不由美
新潮社
2012-06-27


【あらすじ】
大学生の広瀬は、教育実習の為に母校を再訪した。そこで一人の不思議な空気をまとった生徒と
出会う。彼の名は高里。担任である広瀬の恩師の後藤によると、彼は問題児だという事だった。
ただ高里自身に問題があるのでは無い。彼は台風の目で、周りの人間が荒れるのだという。
彼をいじめた生徒が突然大怪我をしたり、命を落としたり。生徒たちは言う。「高里は祟る」。
広瀬はそんな高里に自分と同じものを感じて守ろうとするが、祟りはエスカレートしていく。
高里の内なるエゴがそうさせているのか、それとも子どもの頃の「神隠し」が原因なのか――。


終盤以外内容を忘れていたので、新鮮な気持ちで読めた。しかしストーリーは新鮮という言葉が
似つかわしくない、凄惨な内容でびっくりした。高里は祟る、過去に周囲の人間が不審な死を
遂げている。ちょっと不気味だなくらいの気持ちでいたら、高里の為を思って彼を殴った岩木が
誰かも判別できなくなるぐらいに顔がぐちゃぐちゃになって死んだり、それを責めた生徒たちが
屋上から集団自殺をしたり。その後も高里の家族や高里の祟りの事を嗅ぎつけて追い回していた
マスコミたちが獣に食い荒らされたような姿で死んだり、高里たちを非難した広瀬のアパートの
住人たちが火事で焼死したり、ついには高里の高校が倒壊して多くの犠牲者が出たり・・・。
ここまでひどい事が起きるのか・・・と小説を読んでいて久しぶりに大きな衝撃を受けた。
今回読み返すまで、アニメの「十二国記」は杉本が居るからこの作品のアニメ化はできないな、
とぼんやり考えていたけど、杉本が居なくてもこれはアニメにできないな・・・恐ろしすぎる。

何が悲しいって、あんなに良い子だった泰麒(高里)が、何一つ悪い事をしていないのに友人や
家族、そして世間の人々から糾弾されていた事。学校では腫れ物に触るような扱いを受けて、
家でも家族から存在を否定され、祟りが広まってからは世間の人々から悪意を向けられて・・・。
特に母親の豹変が一番悲しかったな。神隠しの前ではあんなに高里の事を大切に思っていて、
泰麒も会いたいと泣いていたくらいだったのに。高里を殺したいぐらい呪うようになるなんて。
僕も、僕の母親はこの世界で唯一僕を受け入れてくれる存在なので、もしも高里の母親のように
憎み疎まれるようになったりしたら、もう生きていけないくらいつらいだろうな。本当の孤独。
また、自分からは話さなかったので誰も高里の事を理解していなかったけど、ココロの中では
悲しみ、苦しみ、涙を流していた事を思うと・・・。どうしてこんなにつらい思いをしないと
いけなかったんだ、と無性に悔しい。慈悲の生き物である彼にはつらすぎる運命だよ・・・。
周りで誰かが傷つくたびに、一人死ぬたびに、自分も深く傷つく高里が可哀そうだった・・・。
そして、高里の家が留守みたいで弟も父親も学校や職場を無断で休んでいる、という会話では
思わずああ・・・とため息と、読んでいて若干めまいがした。ついに家族までが犠牲に・・・。
何も知らない野次馬の「親まで祟り殺しやがって!」という罵声が、今回一番つらかったかも。

でも正直――これを言うとあーるえむ君性格悪いなと思われそうだけど(いや今さらか)――、
高里の母親や、広瀬のアパートの住人たち、ハイエナのようなマスコミの人間たちが無残に
殺されたところは「あー良かった」と結構すっきりしてしまった。もちろんそれによって深く
ココロを痛めた高里は可哀そうだけど、恐怖と苦痛の死を遂げてしかるべきだと思ったのだ。
高校が倒壊して校長や教頭が死んだのも良かったけど、無関係な生徒たちも巻き込まれたのは
ちょっと悲しかったかな。でも正直なところ、スケールの大きさに少しぞくぞくしてしまった。

麒麟は血の穢れで弱る仁の生き物なので、蓬莱では長く生きられないとどこかに書いてあった。
高里は肉や魚を食べながらも、よく高校生まで生き続ける事ができたな。食べられないものは
無いと言っていたし、胎果の殻の姿では麒麟とは違う身体の作りになるのかな?あるいはまだ
この頃はそこまで麒麟の設定が固まっていなかったのかもしれないけど。ちょっと謎ですね。
それとなぜ泰麒の使令たちは、泰麒が被害に遭ってすぐでは無く、しばらく経ってから報復
したのだろう?廉麟の使令はすぐに攻撃をしたよね?どんな違いがあったのかわからない。
泰麒の身を守る存在なのであれば、すぐに姿を現して相手に反撃するべきだと思うんだけど。

しかしこれが第一作という事に本当にびっくりする。リアルタイムで読んでいた人は疑問だらけ
だったんじゃないかな。たとえば麒麟が王以外に膝を折らない伏線は作中で説明されていない。
ただ広瀬と読者に謎を残しただけ。高里が思い出した戴極国や蓬盧宮という十二国のワードも、
直接伏線や謎を解くキーにはなっていないし。いずれもこの作品だけでは回収されない部分。
読者にもちゃんと説明しない、本当に十二国の世界から帰ってきた高里にしか意味がわからない
作りになっているのがめちゃくちゃすごい。商業作品でこんな事をやっちゃえるんだな・・・。
当時は読者からどういう評価を受けていたのだろうな。まとめているサイトとか無いかな?
「未回収だけどこれは伏線だったのか?」という疑問点とどう向き合っていたのか気になる。

あと今回初めてWikipediaのページを開いたのだけど、十二国記シリーズを書く予定があって
この作品が書かれた訳では無く、十二国の設定はただこの作品の為だけに考えられたらしい!
じゃあ余計に作中でぜんぶ説明するべきじゃん!それをしないってものすごい勇気じゃない?
もしかしたら十二国記シリーズは世に出なかった可能性もあって、その場合はただただ読者に
謎を残しただけで終わった訳で、ますますそんな事をできるなんてすごいな・・・と驚いた。
ある意味不死鳥先生と似ているタイプなのかも。不死鳥先生の構築する世界観もすごかった。

他にも上手いなぁと思ったところは、人は汚い生き物だ、エゴは醜いというテーマが描かれ、
てっきり高里にも適用されるものだと思って読んでいたら、高里は麒麟であり人では無かった、
という流れ。ここも初見だと見破れない気がする。ちょっとずるいような気もするけど・・・w

ただ違和感のあるところもあって、たとえば理科室のメンバーの岩木が死んだ後も、メンバーが
集って岩木の軽口を叩いたり談笑できたりする事。高校生を子ども扱いしている訳では無いけど、
普通はもっとショックを受けそうなものじゃない?見知った顔が突然、しかもあんなかたちで
死んだりしたら一生物のトラウマのような気がするけど・・・。屋上からの集団自殺後も同様。
鋼メンタルだ。まぁ創作だから良いんだけど、ちょっとリアルじゃないように感じてしまった。

でも橋上は良いな。高里の元に殺到する逆上した生徒たちを守るシーンはカッコ良かった。
あと十時先生。事情を知っていながら自分の部屋に広瀬と高里をかくまってくれたのがすごい。
もしバレたら自分も世間から非難されるかもしれないのに、勇気があるなぁ。僕にはできない。
後藤先生も好き。こういう大人って良いよなぁ。これからも広瀬との交流が続いていくと良いな。
ちなみにこの十時先生、養護教諭だから女性だと思っていたら、男性でちょっとがっかりしたw
ずっと敬語だったし、最後になって「彼」って書いてあるんだもの。勘違いしちゃったよ!w

後藤先生の広瀬への言葉はぐさぐさ刺さったなぁ。こことラストが僕にとって重かったのだ。
現実世界に馴染めず、広瀬が帰りたがっていた夢の中の世界。後藤はそれをおとぎ話だと言う。
誰でもこの世界から逃げたい、自分の為の世界へ戻りたいと思う。でもそんなものは無いのだと
はっきり否定する。人は現実の中で生きていかないといけない、どこかで折り合いをつけないと
いけない、いつかは切り捨てないといけないのだと広瀬を諭す。「それは広瀬にとって恐ろしい
科白だった」という地の文があるけど、それは僕にとっても聞きたくない、耳の痛い言葉だ。
僕もネットの世界に入り浸り、重きを置いているのは、現実世界から逃げる為でもあるからね。
不覚にも涙を流す広瀬がせつない。でも、後藤先生の「広瀬。俺たちを拒まないでくれ」という
セリフは良いなぁ。広瀬の事を大切に思っているんだよね。でも、やっぱりその言葉は刺さる。

その後、高里の過去が明らかになりそうになっても、広瀬は彼にそれを伝える事ができなかった。
そして伝えた後も、十二国の世界へ戻ろうとした高里を前に自分が追い詰められているような
感覚がしたり、自分が置いていかれる不安から引き止めたりしようとするところが悲しいなぁ。
「俺を置いていくのか」と高里にすがる広瀬の姿を見るのも、覚えてはいたけどつらかった。
高里がいくら迫害されようと、日本中が敵だらけになろうと、彼を守ってきた。でも最後に、
彼が選ばれ、自分が選ばれなかった時、彼だけが戻り、自分だけが戻れないとわかった時、
汚いエゴが表出した。なんて悲しいのだろう。最後の最後に回収されてしまうのがキツい。
広瀬もつらいだろうけど、高里もとてもつらいだろうなぁ・・・。唯一の理解者だったから。
でも文中に汚いと書いてあるけど、それが人なんだ・・・広瀬を責める事はできないよ・・・。
広瀬にとっても高里は唯一の理解者だと思っていたのだ。どちらの気持ちも考えると・・・。
何となくは覚えていたけど、ここまで痛みを伴うシーンだとは思わなかったな。苦しかった。

一番好きなシーンは、広瀬と高里がふたりでロライマ山での隠遁生活の計画を練るところ。
どこかで夢物語だとわかりながら、幸せそうに想像している様子がとても良く、そしてせつない。
ラストシーンで、広瀬の耳に高里の「――山に……ってください」という叫びが聴こえる。
そこで広瀬の足取りがたしかになるのも良い。広瀬はロライマ山へ行く事ができたのだろうか。

メディアに槍玉に挙げられ、広瀬はその後どういう人生を歩んだのだろうととても気になる。
大学には戻れたのか、それとも辞めて、高里の考えていたような生活を送ったのだろうか。
とてもじゃないけど平穏無事に元の生活に戻れたとは思えない。今度は孤独な戦いだな・・・。
隠遁生活を送っているのか、それとも幸せに生きる事ができたのだろうか。知りたいな・・・。
かつてみた甘い夢の世界に帰りたいと望んでいた広瀬が、この現実世界でたしかなものを得て、
前向きに生きる事ができていますように。それは広瀬に自分自身を重ねている僕の祈りなのだ。
本当に幸せでいて欲しいと思う。それが、僕を含めた異端者たちの希望にもなっているはず。

僕自身も、いつか自分の幸せをつかむ事ができるようになるのだろうか。見通しは立たない。
それでも、後藤先生の言うように現実世界で生きていくしかないのだ・・・しんどいなぁ・・・。
もう生きるのがしんどい・・・明日さえも生きたくない。あと何十年これが続くんだろう・・・。
高里のように別世界には戻れない。広瀬のように前にも進めない。僕はどこへも行けない・・・。


以上、内容を忘れていた事もあって、シリーズの中では一番の衝撃だった。面白かったです。
しかし王が蝕で渡るとここまでの被害が出るものだとは・・・。でも、こちらを先に読んだ事で
次回の「黄昏の岸 暁の天」をより理解しやすくなったと思うので良かった。それではまた。

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