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主に読み返した不死鳥作品や作った料理、他に小説や漫画や同人誌などの感想ブログ。

【読書感想】2020年8月1日 白銀の墟 玄の月 1巻

はいこんばんはRM307です。読書回の今週は小野不由美作の「白銀の墟 玄の月」1巻の感想。
十二国記シリーズの第9作目、去年18年ぶりに本編の続きが描かれた待望の最新作です。全4巻。
もともとこの作品を読む為に去年からシリーズを読み返していたのでした。ようやく読める!

【あらすじ】
内乱の鎮圧に向かった泰王驍宗の行方がわからなくなり、王宮では蝕により泰麒も姿を消した。
それから六年。戴国は偽王阿選により荒廃の一途をたどっていた。驍宗の麾下や、阿選に反抗の
意のある者はことごとく誅伐され、誰も声を上げられなくなったが、民はひたすら祈り続けた。
そこに麒麟の力を失った泰麒と片腕を失った李斎が戻る。無力な彼らは戴を救えるのか――。


まだそこまで大きく話が動く訳では無いんだけど、やっぱりとても面白くてするする読めた。
本筋も好きなんだけど、中でも好きなのは地図と兵力に関するくだり。そうか、単純に騎獣で
ひとっ飛びすれば良いと思っていたけど、この世界には精巧な地図は無いから街道を見ながら
行かないといけないのか。そして戦場の無機的な力学も衝撃だった。今まで触れてきた創作で
起きていた逆転劇は奇跡で、現実では無勢で多勢を倒す事はほとんど不可能に近いのか・・・。
正攻法では阿選を落とせそうにない・・・。それを知ったら、僕ならすぐに諦めていたかも。
このへんがしっかり語られるのはさすがだなぁ。最近流行りの異世界転生系の素人小説なら、
また僕でも、きっと何も疑問に感じず可能なものとして軽く考えて処理していただろうから。
負傷の影響に関する話、項梁の経験談も面白かった。味方の矢だったのかw災難だな・・・w

華胥の幽夢」の「冬栄」で、泰麒が驍宗から子馬を賜る事が描かれていたけど、その子馬を
泰麒に引き合わせたのが項梁だったんだな。そしてその翌日に「騒乱あり」の報が届く・・・。
ここが幸せだった最後の日になったのか・・・その事実を知るともっとせつなく読める・・・。
ただ巖趙が生きていたのは良かった。英章や、他の驍宗の麾下たちも生きていて欲しい・・・。

園糸の項梁に対する気持ちは痛いほどわかった。「そのとき」がきたシーンでは、僕のココロも
冷えるようだった。僕も必ず「いつか別れる時がくる」と思いながら相手と交流していたので。
これで唐突に袂を分かち、園糸の描写が無くなったら嫌だなと思っていたから、ちゃんと項梁と
別れるシーンがあって良かった。本当にすべてが解決して、いつの日か再会できますように。

瑞雲観の生き残り、去思も本当につらい日々だったな・・・。丹薬の製造の為に、忍びながら
絶えず渡り歩いていた六年間、材料を守って死んでいった同輩。泰麒も蓬莱で苦しみ、記憶が
戻ってからはよりつらい思いをしてきたから責めないでと思うけど、去思の気持ちもわかる。

神仙が存在し、一介の民でも仙籍に入れば不老を得る事ができるこの十二国の世界において、
六年というと短く感じられるけど、たくさんの命が失われてしまった、もう取り返しのつかない
と改めて感じさせられた。4歳の娘を失った園糸や、夫と子どもを妖魔に殺され、家には今も
生々しい血痕や爪痕が残っている為に夜しか活動できない妻など、読んでいてつらかった。
本当だったら、新王が践祚しこれから家族との明るい未来が待っていたはずなのに、「こんな
生など早く終わりになれば良い」と思いながら苦しい生を送らないといけないのは悲しすぎる。
阿選が奪っていったものはとても大きい。そしてその残虐なやり方は改めて異常だと感じる。

黄昏の岸 暁の天」上巻の感想で、どうしてこんな非道を行う阿選に従う者が居るのだろうと
書いた。下巻にも記されていた「幻術」というワードから、阿選がそれらを洗脳しているのだと
思っていたけど、それだけじゃなかったのだな。純粋に阿選が王に足る存在だと思っていて、
心酔している者も多かったのか。大逆を犯したという認識が足りないのが残念に思うな・・・。
午月のように考える人間は稀なのだろうか。たとえ好きな相手、信奉している相手でも、何でも
従事したり擁護したりするのでは無く、罪は罪と認め、その事実と向き合わないといけない。
ここにもそれができない人が多いのだな・・・。最近の新都社を見ていてもそう思ったけど。

泰麒が「天がお命じなる」と言って一行を離れて王宮に向かった時、阿選が新王だと嘘をつく、
あるいは阿選に叩頭するとは考えたけど、天が命じたというのも嘘だったのは読めなかった!
天が助けてくれたのか、泰麒に麒麟の力が戻ってきたのか?と嬉しかったのに・・・!しかし
泰麒は大胆だなぁ・・・。民を救う為とはいえ、あっさり殺される事も十分考えられたのに。
まぁでも冒頭で泰麒が言ったように、泰麒を切り捨ててしまえば数年で戴の窮状は是正される
かもしれないのだけど。その前に、戴の民が冬を乗り越えられないかもしれないけど・・・。
虜囚のように拘禁された時には小さく笑う余裕もあって、度胸があるなぁ・・・さすが戴の民。
しかし書かれているように、この嘘がいつまでも通じるはずは無い。泰麒はどうするつもりだ?

李斎の「自分の期待に裏切られた」感もよくわかる。僕だったらこの裏切られた感を誤認して、
相手への不信感が募ってしまいそうだけど、きちんと自覚できる李斎は当たり前だけどさすが。
前述の地図の会話もそうだけど、李斎と泰麒のやりとりが好きなので早くまた再会して欲しい。
そんなふたりを尻目に、項梁や去思たちは泰麒に話しかけるのが畏れ多くて。まぁ当然だけど。
鄷都と三人の時の「自分だけではないと分かって安心しました」という会話が微笑ましかった。
たしかに鄷都は初対面の時からわりと気安くて、物怖じしなくてすごいなぁと思っていたw

初めて知った情報では、国庫と卵果について。国帑は物資やお金の出入りを記録した帳簿や証書
なのか!国庫という倉庫に仕舞われている物だと思っていた。それなら一人でも持ち出せるな。
面白い仕組みだ。卵果は、両親が死ねば孵らず落ちて砕けてしまうのだな・・・とても悲しい。
落ちた卵果の中身、生き物の残骸の描写が少し生々しくて怖かった。これは見る方もつらいな。
あと蓬莱と十二国の世界は暦が一月ズレている事。うろ覚えだけど、以前も語られていたっけ?
何か意味があるのか、過去作品の描写に関して辻褄合わせをする必要があったとかなのかな?

轍囲の攻防戦の内容を知れたのも嬉しかった。一切の攻撃を許されず、楯を構えてひたすら民の
攻撃を受ける、民を攻撃したら厳罰に処される・・・深手を負ったり、命を落としたりした兵も
居たのだからお互いの本気が伝わる。理は轍囲の民にある、しかし見逃せば国の根幹に関わり、
その為には轍囲を攻めざるを得ず、納税は完遂しなければならない。よく考えられているなぁ。
最終的に飢える覚悟をして、それでも驍宗の意を汲んで税の徴収に応じた轍囲の民はすごいな。
自腹で支援した驍宗たちもさすがだ。昔話だけど驍宗と轍囲の絆の深さがしっかりと伝わった。

平和な日本で暮らしている僕にはわからないけど、乏しい食糧の事を考え、日々追い立てられる
ように不安と焦燥感を抱きながら生きなくてはいけないのは、身体もココロも苦しいだろう。
冬まではわずかな時間しか無い、それまでに戴は救われるのだろうか・・・しかしどうやって?
驍宗は本当に身を潜めているだけなのか?他国に助力を求める事も可能だと思うんだけど、
六年も沈黙しているのは何か理由があるのか?気になるな・・・。そして善人に見えた、かつて
泰麒を世話していた淶和の上官立昌への返答、善意からでは無いようで泰麒の身が心配・・・。

さらに明らかにおかしい朝廷の様子。誰が何をしているかもわからず、命令の意図も不明で、
その命令すらも放置されたり結果を受け取る者が居なくなったりする・・・ふしぎだなぁ。
この混乱こそが阿選の目的なのだろうか?それともそれすらも阿選はどうでも良いのだろうか?
とても不可解だけど、平仲の一連の説明は面白く興味を惹かれた。早く理由を知りたいな!


展開がまったく予想できないけど、2巻も楽しみ。全員無事でありますように。それではまた。

Web拍手

【読書感想】2020年7月4日 丕緒の鳥

はいこんばんはRM307です。今週は読書回、今回は小野不由美作の短編集「丕緒の鳥」の感想。
十二国記シリーズの第8作目、これまでの王や麒麟では無く、官や民に焦点を当てた作品です。
読むのは2回目、七年前に読んで以来。ついこないだだと思っていたけど、内容を忘れていた。

【「丕緒の鳥」あらすじ】
慶国の射儀に用いる陶鵲を作る射長氏の祖賢、羅人の簫蘭、そして羅氏の丕緒。職務に真剣で、
王の為に、そして自分たちの為に良い陶鵲を思案し作り続けていたが、祖賢は冤罪で、簫蘭は
予王による悪政で失われた。陶鵲に民の姿を重ね、それが壊れる事で王にその現実を伝えようと
丕緒は工夫を重ねるが、王から賜った言葉で思いが届かないと悟り、陶鵲を作る意欲が消え、
思案も枯れ果てた。その後新たな王が践祚する。丕緒にはまた陶鵲を作るように指示された。

内容を忘れていたので楽しめた。しかし祖賢が、簫蘭も恐らく殺されたのは悲しかった・・・。
あんなにも一生懸命で、楽しい時間を過ごした仲間たちが・・・と。王が悪政を敷く、これまで
端的に語られていただけに留まっていたけど、実際に虐げられる人々の目線に立つとこんなにも
無慈悲でひどいものなのだ、とわかってつらかった。今までまったくわかっていなかったな。
だから最後、丕緒たちの思いが陽子に届いて本当に良かった。枯れたと思っていたアイディアが、
陽子の言葉をキッカケに次々と浮かんでくるラストも。深く追求せず、自然に描かれている。

この陶鵲という設定、とても細かくて面白いなぁ。その成り立ちから工夫されていった様子、
いろんなパターンの陶鵲のアイディア。この世に存在しないアイテムをここまで広げられるの、
ただただすごいな・・・。しかもそれを民の姿とリンクさせ、丕緒は民の為に、王にその思いを
伝える為に陶鵲を作り続ける。面白いなぁ。官吏なんて私服を肥やすだけ、と思いがちだけど、
丕緒たちは国政には関わらない下級官ではあるけれど、それなのにこれだけ民を思い、責任感を
持ち、その為に苦心する官吏も居る、人知れず戦っているんだとわかり、救われる気になる。
身分が低ければ伝わるけど、高い相手には伝わらない、そんな苦しみの中でも陶鵲を作り続けた
丕緒はすごいな。国を動かす事は無くても、これからも羅氏としての仕事を全うして欲しい。

あとこの作品で、予王以前の女王について知る事ができたのも良かった。ぜいたくに溺れた
薄王が17年、強大な権力に溺れた比王が23年。以前も書いたけど、そんなすぐに道を失う者に
天啓があるというのが不思議だなぁ。もっとマシな人はたくさん居ると思うんだけどな・・・。


【「落照の獄」あらすじ】
柳国では、狩獺という残忍な殺人者に対し民の怒りが爆発していた。民は殺刑を望んでいるが、
柳では殺刑を用いらない事になっており、また国が傾いている中で復活させると、乱用される
恐れがある。しかし殺刑を避ければ、民の心が司法から離れる・・・。司法の番人たちの苦悩。

瑛庚たちが何度も話し合いを重ね、時間をかけて検証している様子が良かったな。彼らもまた
本来は国の行く末を左右する立場で無い。でもここで死刑を復活させる事は、その後の国の
命運を握っている。だから慎重にならざるを得なかったし、どうしても死刑は避けたかった。
国や民の事を考える彼らの思いに多少なりとも胸を打たれたし、思いが報われて欲しかった。
しかし結局は、狩獺に敗北する。勝負では無いし、正確には負けた訳では無いのだけれど、
すべての人を教化する事はできないという現実を動かす事ができなかった。でも仕方が無いよ。
そういう人はどこにだって存在してしまうのだ。どうか自分たちを責めないで欲しいと思う。
これから柳はどんどん傾いていくのだろう。他作品でそう触れられていたけど、こちらも実際に
傾く、乱れるというのはこういう事だとようやくわかったような気がする。そして命の重みも。
ラストの、何かの予兆のように鉄格子の影が堂内を切り刻んでいたのは良い描写だな・・・。

狩獺は今で言うとサイコパスなのかもしれない。命を命と思わず、強盗をし住人に拷問をする、
一家を惨殺しその家に住み、死体は沢に渡し橋として使う、必要も無かったのに子どもを殺す。
残忍とは書いたけど、罪の意識が存在しない。自分が死刑になっても構わないと思っている。
ラストの狩獺の高笑いがつらかった。たくさんの罪の無い命を奪った人間が、勝者などであって
欲しくは無いのに。願わくば、処刑の際に狩獺が死を恐れますように。それならまだ救われる。

清花淵雅のような人間も本当に厄介だ。清花は今で言うとTwitterで炎上させ騒く人かな。
たとえば最近の、ラブドールの規制を求める過激派の論法に酷似しているように感じる。清花も
瑛庚の言葉に聞く耳を持たず、理に対し情の話をしている。いっしょにしては駄目なのだ。
まぁでもそれは、僕が瑛庚の考えを知れる読者の立場だからそう思うだけなのかなぁ・・・。
僕も清花みたいに考えてしまう気持ちがわからないでもないもの・・・気をつけたいところだ。
こちらも、前妻の事を含め瑛庚は自分を責めなくて良いと思う。わかり合えない人も居るのだ。

淵雅は理想論を振り回し、それが己の理想ならまだ納得できる部分もあるけど、ただの借り物、
父の威を借る狐でしか無い。淵雅の人物評もすごく細かくリアルで、こういう人間を描けるの
すごいな・・・!と感嘆した。現実にモデルになるような人物が居るのだろうか?政治家とか?
淵雅はこれから確実に障害になる。賢帝と言われるような劉王も、息子には甘いのかな・・・。

以前も書いたかもしれないけど、劉王に何があったんだろうな。黥面の仕組みとかも面白く、
上手く機能していて、柳に凶悪犯罪が少ない事、死刑に罪を止める効力が無い事にも説得力が
あったのだけど、狩獺の処遇を司法に丸投げして、自ら破綻している政策を施行したりして。
雁国の為もあるけど、柳国が何とか持ち直してくれたら良いな・・・。もう遅いかもだけど。
十二国記シリーズでは初めてと言っても良い、救いの無いバッドエンドだった。面白いけどね。

あと、仙籍に入った妻が離縁した場合、仙籍に入っていた間の分下界は時間が進んでいるので、
両親や兄弟や友人はすでに死に、知り合いが誰も居ない状態で寄る辺無く、どこにも居場所が
無い孤独というのは考えていなかったな。国官になれば自分も家族も仙籍に入ると当たり前の事
のように考えていたけど、単純には考えられない、重い決断が必要な事だったのだな・・・。
青条の蘭」でも、兄弟縁者の昇仙は許されない、どこかで線引きしないといけないとあった。
そうか、昇仙すれば、親や兄弟や友人たちをすべて看取らないといけないのだな。つらいな。


【「青条の蘭」あらすじ】
野木に生ずる新しい草木や鳥獣を集める任の官吏の標仲、山野の保全をつかさどる包荒は、
故郷の山で一本の変色した山毛欅を見つける。その枝はまるで石のように姿を変えていた。
年を経るごとにその奇病は広がっていく。このままでは山毛欅が倒れ、山毛欅が養っていた
野生動物たちが民の生活を脅かし、その根が抑えていた山肌が崩れ、盧や里を襲ってしまう。
標仲と包荒、そして猟木師の興慶は、何年もかけて奇病を止める薬になるものを探し続けた。
やっと「青条」と名づける蘭が薬になる事がわかったが、国府に奏上しても、一向に音沙汰が
無い。標仲は私財を投げ売り高官に便宜を図ってもらおうとしたが、あえなく裏切られる。
早くしなければ雪解けに間に合わない、標仲は直接王宮を目指す。その苦難の道のりの物語。

ラストの展開だけを覚えていた。こちらも、民を救う為に必死になって薬を探す標仲たちが
すごく良かった。ただの奇病ならいざしらず、自然の理の外の謎の病だから大変だ・・・。
どれが薬になるか、あらゆるものを試すのってまさに雲をつかむような話で、不眠不休で何年も
探し続けたその苦労を思うと頭が下がる。見つけてからも、どうすれば効くのか、栽培方法や
保存方法は・・・と考えるとはてしなく遠い道のりだ。みんなの努力が報われて良かったな。
その期間で、たくさんの身内が奇病の影響で亡くなったのはつらかったけど。「丕緒の鳥」も
そうだけど、みんな大切なものを失っている。物語に救いはあるけど、命はもう戻ってこない。

報われた、と書いたけど、金に目がくらんだ頼みの高官に裏切られ、興慶は国を追われる事を
余儀なくされる。黄朱の仲間と袂を分かち、その上犯罪者扱いされるなんて悲しすぎる・・・。
あんなに頑張ってくれたのに・・・。どうか彼も幸せになって欲しいと思う。でも戸籍が無いと
どこへ行ってもつらいだろうな。仲間の元へももう戻れない。彼のその後が気になるよ・・・。

山毛欅(ブナ)の設定が面白かったな。自然の中のその一つが壊れたらどう影響があるのか。
また地官遂人と果丞の設定の建前と実情の設定も。ファンタジーの世界でも世知辛いな・・・。
国が傾いているから余計にひどいのかな。今の雁国ならきっともっとクリーンなんだろうけど。
新王が践祚しても、現在の地位にしがみつこうとする者、この機に乗じて他者を蹴落とす者、
官位を失う前に私財をかき集めようとする者など、国情が以前よりもひどくなるとは・・・。

もちろん中には良い官吏も居る。「東の海神 西の滄海」に登場するメンバーなどがそれだ。
最後に「新王によって任じられた新しい地官遂人」という記述では「帷湍だ」と嬉しくなる。
読者はこれでもう安心だ、と胸をなで下ろし、ここで「これは五百年前の雁の話だったのか!」
とわかって面白さが増すんだよね。ここまでずっと伏せられていたから、カタルシスがすごい。

でも国府がきちんと機能していれば、王宮から騎獣を使って青条を受け取りにきてもらえたし、
興慶も王宮を目指した標仲もここまで苦しい思いをしなくて良かったのにな・・・と残念だ。
青条が帷湍を知る民の手に渡らなければ、標仲が考えたように彼の身分では謁見を許されず、
またどこかで握りつぶされていたかもしれない。最後の民へのリレーは本当に奇跡だったな。
標仲が脚を動かせなくなり、「もう無理だよ」と言われて泣くシーンはせつなくてぐっときた。

誰にも事の重大性を理解してもらえない・・・。それでも、そんな中で最後に標仲の意志を
継いでくれたのが民だった。標仲の事情も荷が何かも知らない、それでも国の為という言葉を
受けて、それまで国が何をしてくれた訳でも無いのに、力の限り走り続けてくれた。すごいな。
彼、彼女らもまた荒廃でたくさんのものを失っていたのに、それでも前を向いて生きていて、
託された思いをつなげてくれた。みな名も無き民だけど、その一人ひとりが居てこそ、国は
成り立っているのだな。標仲の言うように、すべての人が救われる日が早くきていますように。


【「風信」あらすじ】
予王の悪政により、慶に暮らす女性は国を追われた。家族や友人を失った蓮花もまた、旅の末に
慶を出ようとしていたが、その折に王が斃れた事を知る。身寄りも無く、虚しさで空っぽに
なってしまった蓮花は進むのも戻るのもやめ、その場に留まる事に決める。親切な大人たちが
保章氏の住む園林での働き口を見つけてくれ、蓮花はそこで奇妙な人々の世話をする事になった。

この作品は内容を完全に失念していた。予王が慶から女性を追放した事は何度も語られていた
けど、こうして空行師に射られ、逃がそうとした家族まで殺された上に、女性を燻り出す為に
街に火を点けるなんてひどい事までやっていたとは・・・と実際の非道を知りつらくなった。
州師はそこまでする必要なんて、そんな命令に従う必要なんてどこにも無いはずなのに・・・。

でも一番好きな話。深く傷ついた蓮花が、支僑たちとの暮らしの中で癒えていくのが嬉しい。
変わった人ばかりだけど、その奇妙さが心地良く、親しみを感じられる。それだけじゃなく、
みんな蓮花が下働きだと雑に扱わず、相手を尊重して丁寧に接しているのもとても良いなぁ。
この暮らしがずっと続いていくと良いな・・・蓮花が候風や保章氏になって欲しいなとも思う。
それかいつか、自分の夢を得て外の世界に飛ぶ立つ日がくるのかもしれない。それもまた良い。
彼女のその後の物語をぜひ読みたいけど、無理かなぁ。いつか本編で登場したりしないかなぁ。

暦を作る仕事の設定も面白い。それもただの暦じゃなくて、風土を様々な角度から検証した、
その場所に合った、農作物の出来を左右する大事なもの。農民の失敗で民が飢える事になる、
なのでとても大切な仕事なのだとわかるのが良い。なるほどな。嘉慶の「戦うことが道なら、
日々を支えるのもまた道」という言葉も良かった。僕にも戦う事はできない。新都社においても
そうで、直接新都社の役に立つシステムを作ったり、住人を呼び込んだりする事はできない。
でも、何かの支えになれたら良いなと思う。その為に、ささやかでも活動していきたいと思う。

ラストも忘れていていたので、希望のある美しいシーンで本当に良かった。候風は新しい王が
立った事もわかるんだ!日々の何気ない日常の観察が結びついているのが何だか無性に嬉しい。
優しい支僑の言葉に救われる。蓮花もココロを抑えず、失った家族を想い泣けて良かったなぁ。


以上、新鮮に楽しめて良かったです。さて一年近くかけて読み返してきた十二国記シリーズ、
来月からはいよいよ新作を読み始める予定です。どんな話なるのか緊張するな!それではまた。

Web拍手

【読書感想】2020年6月6日 華胥の幽夢

はいこんばんはRM307です。読書回の今週は小野不由美作「華胥の幽夢」の感想。短編集で、
十二国記シリーズの第7作目。通して読むのは十代の頃以来で、こちらもたぶん2、3回目。

華胥の幽夢 十二国記 (講談社X文庫)
小野 不由美
講談社
2001-09-05


【「冬栄」あらすじ】
厳しい冬を迎えている戴国。泰王驍宗は宰補泰麒に「暖かいところに行ってみたくはないか?」
と尋ねる。泰麒は蓬莱からこちらの世界へ帰ってきた折に助けてくれた、漣国の廉麟へお礼の
使節として、南の国の漣へ旅立つ事になった。街を越えるごとに暖かくなっていき、戴の春や
秋のような気候の漣に到着した泰麒は、戴もこうだと良いのに、と思わずにはいられなかった。

阿選」という名前を目にするだけで腹が立ってしまい笑、護衛が居るから漣の街を歩いても
大丈夫だろうという判断にも「泰麒が危険な目に遭った方が良いからそう言うんだろうな」と
むかむかしながら読んでいたのだけど、気安い廉王と楽しそうな泰麒が可愛くてほっこりした。
泰麒と軽口を叩く正頼のやりとりも良かったな。正頼には胡散臭いイメージがあったのだけど、
今回読み返したらそうでも無い、というか良い人だった。どうしてそう思っていたのだろう?
「正頼、つまらないの?」
「もちろんですとも。腕白小僧の首根っこを捕まえて、がみがみ言うのが私のお役目なんですから。たまには大変な悪戯をしでかして、尊いお尻をぶたせてくれなくちゃ、じいやには楽しみがありません」
(中略)
「心掛けておくね」
「よろしくお願いしますよ」
「潭翠には内緒ですけど、私は一度、潭翠が血相を変えたところを見てみたいと、常々思っていたんです」
「潭翠がかんかんになるような悪戯をするんだね」
「頑張ってくださいまし。そうしたらじいやが、戻りしだい、園林の木に吊るして差しあげますから」
このへんの会話が好き。のちに自由すぎる廉王世卓、廉麟の振る舞いによって、途方に暮れる
潭翠の様子を見られて喜ぶというw戴と漣は地理、気候だけじゃなく、本当に間逆な国だなぁ。

農夫の世卓は自分は王として大した事をしていない、勝手に伸びていく国を助けているだけ、
と言っていたけど、政治の事がわからず周りに任せる事が多くても天命を失っていないのは、
その働きが大事で、多くの中から必要な事がちゃんとわかっている、正しい判断ができている、
という事なのかな。それとも世卓の言う通り、本当に農夫としての彼を必要としていたのか。
そう割り切って考える事ができたら良いだろうなぁ。僕は絶対に疑っちゃうと思うから・・・。
泰麒もきっと同じで、でも世卓の言葉によって救われていた。とても良い出逢いだったのだな。

自分は周りにとって邪魔で迷惑をかけている存在なのでは無いか、と思い悩んでしまう泰麒。
良かれと思ってした事がかえって家族を落胆させる結果になる、というのもちょっとわかるな。
しかも泰麒はまだやっと11歳!作中にもあったけど、大人に囲まれているだけで緊張するよね。
驍宗や周りの官吏たちで、もう少し泰麒の目線に立ってを思いやれる人が居たらなぁ・・・。
それか泰果が流されていなければ・・・などと「もし」を考える事が多い。本当に泰麒、戴国は
その気候から何から苦境に立たされてばかりだ。ことさら戴には救いが無いような気がする。
苦しい戴の民を思って胸を痛める泰麒もいじらしかった。こんなに思い悩んでしまう泰麒が
六年も国を離れて、そしてそれに気づいた時はどれほど悔やんだだろう・・・と思うと・・・。

ラスト、驍宗の正寝のすぐ隣に住めるようになり、また移動用の子馬も与えられて喜ぶ泰麒。
この幸せがいつまでも続いて欲しかった・・・その後を知っている読者全員せつないよ・・・。

泰麒と驍宗と気心の知れた臣下たち。冬が終わり、希望にあふれた未来が待っているのだ・・・
というところで阿選が裏切り、彼らの幸せは終わりを告げる。楽しく笑っていた臣下たちも、
ほとんどが殺されてしまう。この短編ではこうしてみな元気に笑っているけれど、もう失われて
しまったのだ、と思うととてもやりきれない気持ちになる。今回読み返してつらさが増した。
どうか阿選が報いを受けますように。何より泰麒と驍宗が無事に再会できますように・・・。


【「乗月」あらすじ】
苛烈な法を課し民を残虐した前峯王が討たれて四年。諸侯をまとめていた恵州候月渓は、諸官の
頼みを退け王宮を去ろうとしていた。簒奪者の自分が仮王として玉座に座る訳にはいかないと。
そんな折に、突然縁もゆかりも無い慶国から使者が訪れる。使者の禁軍将軍の青辛は、月渓への
親書を携えていた。それはかつての芳の公主、祥瓊から月渓に宛てられた一通の手紙だった。

前峯王仲韃がいっそ腐敗していれば期待する事も無く、憎む事さえできたのに、仲韃は最後まで
無私無欲で。憎みたくない相手を憎まなければいけない苦しみが、月渓に大逆を決意させた。
だからこの弑逆は大罪だった、という事がわかるのが良いなぁ。月渓と冢宰の小庸が仲韃を
懐かしそうに語るシーンも良かった。思慕と、憤りと。複雑だな・・・。そしてとても悲しい。

その後桓魋の言葉と、祥瓊からの手紙を読み、祥瓊の減刑を願う為に供王に文を送る、それは
恵州候という一州候としての立場では無く、芳を預かる人間として・・・という流れが上手い!
何より祥瓊の自覚と悔恨が月渓に届いた、というのが嬉しかった。供王珠晶の粋な処遇も良いw
表向きは国外追放という温情、そして「干渉するな」という自国に専念せよというメッセージ。
さすが在位90年の珠晶だわ・・・王の器というのはこういう事を指すんだな、と改めて感じた。
きちんと罪を贖う為に、恭へ向かおうとした祥瓊もえらいな。極刑になったかもしれないのに。

話としてはその流れでめでたしめでたしなんだけど、芳はこれから止めようもなく傾いていく、
民は苦難を舐める事になるという現実もしっかり記されている。まだまだ問題は山積みなのだ。
この世界で生きるという事は本当に大変だ・・・。芳の荒廃が少しでも抑えられる事を祈る。

あと今さら疑問に思ったけど、予王より、麦州候浩瀚の方がよっぽど王に向いてそうじゃない?
それでも天は予王を選んだ。浩瀚に足りないものが、予王にしか無いものがあったのかなぁ。
それは他の十二国記作品でも思う事だけど、本当に天意というものはよくわからないな・・・。

それと「罪の重さを知らない事が罪」という話、僕も無知な人間だから、身につまされるな。
今までたくさんの間違いを犯してきたけど、もう大きな罪を犯さないで生きていきたい・・・。


【「書簡」あらすじ】
慶国の首都尭天から雁国の首都関弓へと飛ぶ一羽の鳥。それは人の言葉を伝える。景王陽子
彼女を助けた半獣の楽俊の近況を知らせるやりとり。誠実に、けれどお互いに背伸びをして。

名高い雁国の最高学府、そこでも半獣としての差別がある事が残念だった。どこの世界でも、
差別は存在するのだな・・・。楽俊が優秀ゆえのやっかみもあるのだけど、彼だけが本を
借りた時にそのねずみの外見、貧しい身なり故か念書を書かされないといけないとか、嫌だな。

しかしそんな事は陽子には伝えない、しかし陽子はそんな事をちゃんとわかっていて、言葉に
して他者の同情を求めたりしない楽俊の事を陽子は尊敬している。本当に良い関係だなぁ。
これからもふたりの関係が続いて欲しいな。できれば近いところで。楽俊は将来的には巧国の
力になりたいと思うのかもしれないけど、慶の国府に入って欲しい気もする・・・難しいな。

こちらの世界の人々にとって、祖国は大切なものなのだなとたびたび感じる。国が荒れ故郷を
追われた難民も、新たな王が発ったら貧しくても帰ってくる。楽俊のお母さんも王が斃れて
妖魔が蔓延るなど荒廃が始まっても巧で暮らし続けている。それだけの拠り所なのかな・・・。
でもお母さんはどうやら楽俊が雁に呼ぶみたい。その方が絶対に良いよ、心配だもの・・・。
大学へ入れてももちろんそれで終わりでは無く、成績や学費の問題があり、差別も存在する。
つらい事も多いけど、上手く乗り越えていけると良いな。そしてまた楽俊の話を読みたい。


【「華胥」あらすじ】
才国は扶王の失政を糾弾する、砥尚を始めとした民衆による高斗という集団は、国の理不尽と
戦い、扶王亡き後は荒廃と戦った。そして砥尚は采麟の選定を受けて新王となる。誰もが砥尚を
信じた。それから20数年、いっかな国は豊かにならず、その王朝は無残にも沈もうとしていた。

責難は成事にあらず」という言葉以外はまったく内容を覚えていなかったので、ここまで
ハードで悲しい話だったとは・・・と読んで驚いた。以前読んだ時は気づかなかったけど、
これは「幻想水滸伝」シリーズのような主人公たちの集団がたどり着いたハッピーエンドの
その先の物語だな。傑物である主人公と、若く理想に燃える仲間たち。主人公は王となり、
仲間たちもそれを支える官吏となった。あの日語り合った、理想の国を作るのだという夢、
せつないほどまぶしい輝かしい過去。しかしそれからわずか20年で、その命運が尽きる・・・。
こういう残酷な未来が訪れるケースもあるんだな・・・と現実を見せられたように感じた。

朱夏の従者の青喜がたびたび核心を突く発言をしており、何でも答えを教えてくれるようで、
ちょっと聡すぎないか、便利に使いすぎていないかと思いはしたものの、推理物としても楽しめ
面白かった。王父と王弟を殺したのは誰か、砥尚か・・・?というところに焦点を当てるんじゃ
なくて、なぜそうする必要があったのか?について思考を巡らせるところがとても良かったな。
栄祝たちの砥尚の何がいけなかったのかわからないという疑問と、件の砥尚の凛とした姿勢、
なぜ才が沈もうとしているのか・・・という謎から始まり、だんだんとほころびが露呈してきて
転がり落ちるように状況が悪化していくのも、悲しいけど読ませる力があって良いなぁと思う。

砥尚は政務に飽いたり民を虐げたりしている訳でも無く、登極以来誠心誠意民に向き合っている
のにも関わらず失道してしまう、国を収める能力が無かったから・・・というのがとても悲しい。
無論、統治が難しい事はわかる、でも破格の早さで大学を卒業した砥尚や、志を同じくした
仲間たちの誰もが無知で無能な政の素人だったとは思えないのだよな・・・。慎思の言うように
確信を疑わなかった、それも間違いだったとは思うけど、一番は奸吏の所為のような気がする。
栄祝と朱夏が奏から帰った時の荒らされた部屋もひどかった。本当に人に恵まれず不運だよ。
官吏に恵まれていれば、国はもっと上手く立ち直っていたと思う。これも砥尚たちの所為なの?
砥尚に国を収める能力が無いとわかっていて王にしたのなら、天帝の罪でもあるんじゃないの?

そもそもよくわからないのだけど、後に采王になる慎思が居るのにも関わらず、なぜ一度砥尚を
王にしたのだろう。最初から慎思を選んでおくべきだったんじゃない?その所為で民や采麟に
取り返しのつかない傷を負わせる事になったのだから、天意にも腹が立ってしまうよ・・・。
もちろん、砥尚や栄祝など失われた人々も取り返しがつかない。悲しすぎる事件だよ・・・。
冬栄」の廉王世卓の言葉を聞いている限りでは、天が砥尚に期待しただけの働きを砥尚が
できなかったから天意を失った、という事なのだろうか。そうだとしてもそれはちょっとひどい
気がする。何にせよ、天の意思なんてろくなんもんじゃない、と思う事に変わりは無いな。

砥尚も実父や実弟を手にかけたので、完全に擁護できる訳では無い。でも本当に苦しかった
だろうな。栄祝と朱夏の命を惜しんで奏へ向かわせる時の、この部分が一番せつなかった。
命を惜しんでくれたのだと思うと、涙が零れた。砥尚はいまだに、栄祝や朱夏に対して友誼を感じてくれているのだ。にもかかわらず、大逆を問わねばならない。そんなことはあり得ないと一蹴はできない砥尚の心情を思うと、あまりにも悲しかった。(中略)きっと見下げただろう、侮蔑し憎んだだろう、それがゆえの大逆だろうと思いながらも、死を賜るには忍びない――と。
追い詰められた思考。何百万もの民の命を背負っていて、自分の命運も尽きようとしていて。
かつての仲間の声にも耳を貸せない、もう何も信じられない、己さえも。苦しいなぁ・・・。
繰り返すけど、本当に砥尚に悪を成そうというつもりは無かったのにこうなってしまった事が
ただただ悲しく、無念に感じる。救いが無い。彼らが報われる未来があって欲しかった・・・。

砥尚をそそのかし、罪をなすりつけたのが栄祝だったにのはかなり驚き、そして悲しかった。
その後自分で死を選んだのも。栄祝も罪を犯した、でも決して悪人では無かったはずなのだ。
だからとても悲しい。朱夏も信じていた夫だったし悲しい。悲しいばかり言っているけど。
息子や甥がこんな末路をたどる事になり、慎思も本当につらかっただろうな・・・。それでも
朱夏たちを叱咤し前を向いたのがすごい。この過程で天意を得たという事なのだろうか・・・。

慎思の「自分ができない事を他人ができないからといって責めるの?」という部分はちょっと
上手く飲み込めなかったな。簡単に他人を非難するべきじゃないという事はわかるのだけど、
自分ができないからって声を上げてはいけないのだろうか、とも思う。責めるだけで正しい道を
教えられないのでは何も生まないという理論もわかるんだけど、同時にそれでは大切な何かが
失われるのを黙って見ているだけにならない?とも思ってしまうのだ。正しい道はわからない、
でも明らかにそれは間違っている、と誰の目からも明らかなケースもあるのでは無いだろうか。
それともその間違っているという判断も、独りよがりな結論なのだろうか・・・わからないな。

しかしこの慎思が後に新王となった訳だけど、賊吏の横行するこの朝廷をどうやってまとめて
軌道に乗せる事ができたのだろう。砥尚と栄祝の罪を背負ってすごく頑張ったのかな・・・。
采麟もあれだけココロに深い傷を負い、立ち直ったのがすごい。「風の万里 黎明の空」では
まだ若干元気が無いような印象を受けたけど。奏への道中での描写は痛ましかったな・・・。
憎悪すらも感じるような状態で、それでも王を慕わずにはいられない。麒麟は悲しいな・・・。

あと、青喜の「本当に望んでいるのはこれなのに、そうであってはならないと感じる、あるいは
それを望めばいっそう悪いことになるのじゃないかと不安に思う」というセリフ、これは僕にも
よく当てはまる気がする。僕もそうやって自分の望みを抑えつける事が多かったように感じる。
本当にココロから望んでいるものを求める事はとても難しいと思う。今でも上手くできない。


【「帰山」あらすじ】
柳国が傾いているらしいという情報を得た宗王の太子、利広が王都にたどり着くと、そこには
古くからの顔なじみ、雁国の風漢も訪れていた。彼らは柳の違和感のある崩れ方について話す。
かくも王朝は脆い。死なない王朝は無い。しかし利広には、自国の終焉を想像できなかった。

何百年も生きた利広と尚隆のやりとりが好き。王朝が続く為に乗り越えなければならない山や
その終焉のパターンを知れるのが嬉しい。たくさんの終わりを見てきたふたりだからこそだな!
玉座に飽いてしまったのでは無いかと言われている劉王露峰。実際何が起こってるのだろう。
120年という半端な時期に起きた事や、早くも妖魔が蔓延っている事なども合わせて気になる。
そしてお互いが雁と宗の終焉を予想し合うところも面白い。ありそうで少し怖いけど・・・。

家族全員で治世を行う宗王一家もすごく好き。親しげな会話もまじめな会話もとても面白い。
巧の難民を受け入れる為に使い道の無くなる大型船を造るのでは無く、漁民に払い下げられる
小型船にした方が良い、隣国が施せばいずれその恩義を返せるかもしれないが、遠い国がそれを
行っても返せず、天から降ってきたのと同じ、難民にとって一番大切なものをくじく事になる、
という話が興味深かった。誰か一人から名案が出てくるのでは無く、全員から有用な意見が
飛び交うのが良いなぁ。頭が良いというのはこういう事だ。そして誰もがまっとうで魅力的。

王が斃れていない戴、斃れたばかりの巧に、あれほど早く妖魔が跋扈するようになるのは妙だ、
妖魔の方に何かが起きているのでは無いか・・・という推察も面白い。さすが600年生きている
人たちの考えは違うかなぁ。このへん、シリーズが続けば描かれるのかもしれないな・・・。

あとは陽子が褒められているのも嬉しいし、利広と珠晶の交流も続いているのも嬉しかった。
自分の国だけで手いっぱいなところが多い中で、宗王は利広から情報を得て他国の事も考えて
動いている。本当にすごいなぁ。何もしない天帝なんかよりよっぽどこの世界を支えているよ。
どうか奏がいつまでも安泰でありますように。この安寧が永遠に続いて欲しいなと切に願う。
何より、一家が語らうこの幸せな空間を、利広と同じく僕もまた確認したいなととても思う。


以上、予想以上に忘れているところが多くて楽しめました。面白かったです。それではまた。

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【読書感想】2020年5月2日 黄昏の岸 暁の天 下巻

はいこんばんはRM307です。読書回の今週は小野不由美作「黄昏の岸 暁の天」下巻の感想。
上巻同様、読むのは十代の頃以来でたぶん2、3回目。なので細かいところを結構忘れていた。
上巻の感想http://rm307.blog.jp/archives/81736341.html



【あらすじ】
慶に転がり込んできた李斎の頼みを受け、泰麒の捜索をできる限り協力すると約束した陽子は、
延王尚隆ら、十二国のうち六国の王と麒麟の力を借り、蓬莱と崑崙を捜し始めた。しかし
一向に麒麟の気配は感じられない。そんな中、廉麟の使令が良くないものの存在を感じ取る。
蓬莱に居るはずの無い強大な妖力の持ち主、泰麒の使令の饕餮、傲濫だ。泰麒はここに居る!
しかし角を失った泰麒はもはや麒麟とは呼べず、麒麟でないなら、蝕で十二国に渡れない――。


短い話だったという事もあるけど、捜索が進展する後半の展開はとても面白く、一気に読めた。
あまりキャラの心象に触れず、ずいぶん急に展開が転がっていくなと少しびっくりもしたけど。
伝説の西王母に会い泰麒が目を覚ますまで、もっとじっくり書かれても良さそうなものだけど。

碧霞玄君玉葉に伺いを立てるシーンなど、法の裏をかくように、天の意向に触れないように
するにはどうすれば良いか考えたり質問したりするところが好き。大昔の中国のような世界の話
なのに、明らかに自動的に発動するシステムが常に働いているのが面白い。神の箱庭世界だな。
作中でも書かれていたけど、詭弁のように感じる。陽子と同様に、僕も天意に不信感を抱いた。
上巻の感想でも書いたけど、天命をもって玉座に就いた王が非道な振る舞いをすれば、それは
失道というかたちで天帝の裁きが下される。しかし天命無き偽王に裁きは下らない。王と麒麟を
管理するだけじゃなく、悪人にも天罰を与えて欲しい。下巻ではそれを李斎も訴えていた。
悲痛な叫びにこちらも胸が痛かった。祈る事しかできず、死んでいった民の事も思うと・・・。

西王母が阿選の事を知っていたのもちょっといらっとするな。知っていても何もする事は無い。
玉葉も李斎の事を、昇山した事を知っていた。こちらも阿選の事を知っていただろう・・・。
昇山というシステムについての疑問もよくわかる。騎獣で雲海の上を行けば簡単に着けるのに、
どうしてあんなに危険な黄海の旅をしないといけないのだろう?それによって王になる人物が
命を落とす事もあるのに。他の昇山者、優秀な人物だってたくさん命を落としたりするのに。
麒麟がはっきりとした王気に向かってまっすぐ会いに行ける仕組みの方が絶対良いよね・・・。
李斎も言っているけど、何の為に民にこれだけ高い代償を求めるのだろう。わからない・・・。

天帝や西王母の目的って何だろうな?このままじゃ戴は滅びるかもしれなかったのに、戴に対し
何もしていなかったし、目の前の泰麒が命を落としそうな時も一度は見捨てようとしていた。
神は人と関わらないようにしているのはわかるけど、今回は管理する世界の国の滅亡だよ?
戴が滅んだらどうしていたのだろう?それでも良かったのかな?じゃあ何の為に王と麒麟という
システムを維持し続けている?民の為になる王を選び、国を治めさせている?気になるなぁ。
それともシステムが残っているだけで、天帝の意志というものはもう存在しないのか・・・。
このへんもいつか語られる事があるのかなぁ。すごく知りたいけど、公開される事は無さそう。

あと以前も読んだのに今回初めて知ったんだけど、氾王って男性だったんだね・・・!w長身が
男としか思えないとは書いてあったんだけど、昔の僕は男性に見える女性だと思っていた。
だって女性の格好をしているんだもの。十代の頃の世間知らずな僕は、男性でそんな服装が
好きな人が居るとは知らなかったのだ。十年以上経って初めて知る事実に結構驚いた・・・w
氾王に対し、目線のやり場に困ったり、目をぱちくりさせたりする陽子の反応が面白かったw
氾麟を見てぽかんとする景麒も珍しくて良かった。もしかして予王の姿に見えたりしたのかな。
金波宮に滞在する事になり、氾王が趣味に合うように勝手に模様替えをしたり、世話をする官の
選り好みが激しかったり、氾麟は氾麟で変装して宮殿内を歩き回ったり・・・厄介なふたりだw
祥瓊は疲れただろうなw自分の選んだ服を絶対に着せてやる!と腕まくりしていたところも好き。

筆で字を書くのに慣れていない陽子が氾王からの親書に返事を書く時に、祥瓊の注文が多くて
手厳しいのも面白かった。「そのへんにある紙に書き殴ったら、塵芥みたいなものでしょ」w
陽子が李斎に協力する事を約束した時に、気になった鈴たちが起きて待っていた時の会話も、
「だから、陽子は慶を見捨てるほど莫迦じゃないわ、って言ったのに」→「私にはそれほど
利口には見えなかったの」と遠慮が無いw身分が違っても何でも言い合える仲で好きだなぁ。
この時、遠甫や浩瀚が起きていたのも好きなところ。本当に良い人たちにめぐり逢えて良かった。
虎嘯や遠甫や桂桂が身近なところに住んでいるのも良いよね。しかもいっしょに!暖かいなぁ。

けれど気安い風潮、信頼のおける官だけが王の身近に居られる事を快く思わない人間も居て。
内宰と閽人の愚かな発言。こういう人間、どこにでも居るんだな・・・と残念な気持ちになった。
「他人の内実は推し量るしかない」という考えは、たしか上巻の李斎の回想でも登場したな。
ここで陽子側に持ってくるのが上手いなぁ。しかし陽子、冗祐を手放していたのは良くないぞ!
何か理由があったのかな。賓満が居ない状態でどうやってストレスを発散していたんだろうw
陽子を襲撃した内宰たちにも一理あると思った陽子に対し、浩瀚がさらりと、長々と(笑)
説明するシーンも好き。「剣を持って人を襲うと決めた時点で有罪、他者を裁く資格は無い」、
「愚かな差別を口にする事を恥じない者に道の何たるかがわかるはずがない」、「報われれば
道を守る事ができるけど報われなければそれができない、そんな人間を信用できるはずがない」。
さすがだなぁ。当たり前の事なんだけど、自分の存在に胸を張れない時は自信が無くなるよね。
そんな陽子を慰めるでも無く、淡々と道理を説く姿がカッコ良かった。憧れる大人の姿だ・・・。
あと「実状を知らない者に批判する資格は無い、実状を知ろうとするより先に憶測で罪を作り、
その罪を元に他者を裁く事に疑問を覚えない者に、いかなる権限も与える訳にはいかない」
という部分もなるほどと思った。今の日本にもこうやって私刑を行おうとする人が多い印象だ。
Twitterなどで騒いでいる人々を見ているとそう感じる。自分も気をつけないといけないな。

年長者から諭される事が多い陽子だけど、もちろん言うまでも無く陽子だってとてもすごい。
慶の復興もまだなのに戴を救っている場合かと言われるかもしれない、でも戴の民を救う事は、
もし自分が斃れた時、道を誤った時に慶の民が救われる前例になると言って周りを唖然とさせる。
やっぱり王の資質があるなぁと深くうなずいてしまうな。陽子が好きなので嬉しくなるシーン。
この時の尚隆との駆け引きも、最初ははらはらするけど面白い。周りもはらはらしただろうなw
最後に泰麒捜索の采配を請け負った尚隆に、陽子が「この借りは必ず返す、尚隆が斃れた時に、
雁が騒乱に巻き込まれる頃までには慶を立て直しておくので、安心して頼ってください」と
言ったのも面白い。ホント、ちょっと前まで女子高生をやっていたなんて信じられないなw
泰麒を捜す事になりかなり負担が増えたのに、当然の事のような顔をして尽力するのもえらい。

他の国の王や麒麟たちも、在位が長い立派な王、朝廷が多かったとはいえ忙しかっただろうに、
長く国を空けて一生懸命泰麒を捜してくれて嬉しかったな。特に蓬莱、崑崙を行き来して直接
捜してくれた麒麟たち。傲濫の気配、その恐怖と嫌悪が感じられるようになってからの捜索が、
あんなに身体に悪くつらいものだったとは・・・。今回読み返して廉麟がとても好きになった。
また泰麒と再会して欲しいなぁ・・・。いつか泰麒と驍宗が無事に王宮に戻り、各国へこの時の
感謝を伝えに行く事があれば良いなと思う。廉麟の話は「華胥の幽夢」でも読めるので楽しみ。

もう一つの驚きは、「戴史乍書」に書かれた一文。阿選が「兵を能くして幻術に通ず」とある。
なぜか突然阿選に寝返る人間が居るのは、幻術の所為だったのか・・・?!知らなかった!
前回も書いたかもしれないけど、驍宗が崩御していないのに戴に妖魔が跋扈しているのも
不思議だ。下巻でも「王が無事なら妖魔は現れるはずがない」と書いてあった。もしかして、
これも阿選の幻術の一つなのか・・・?いやさすがに妖魔を呼び寄せる事はできないか・・・。
他の話にもあったけど、妖魔は自分たちの事を人に話したがらないし、人には惑わされないか。
そんな妖魔、使令が、六太の呼びかけに対して「是」と答えるシーンは何だかどきどきした。
少し沈黙するのが良い。自分たちからは積極的に答えたり関わったりするつもりは無いけど、
一応考えて言う事を聞いてくれはするんだな。妖魔の存在も不思議だ。もっと知りたいなぁ。

そういえば妖魔が麒麟の使令に下った後、麒麟の身体欲しさに契約を破ったり、他の麒麟を
襲ったりする事は無いのだろうかと思っていたのだけど、使令との契約は王と麒麟の契約に
匹敵するらしい。そこまで絆が深いものなのだな。なら、傲濫も泰麒と離れるのはつらかろう。
いずれ清められた汕子や傲濫が泰麒の元へ帰る事ができるのだろうか・・・そうなって欲しい。
やり方は悪かったけど、あんなに身を削って泰麒を長い間守ってきたのだし、麒麟の力を失った
泰麒の支えにもなって欲しいし。本当に泰麒と李斎は戴に戻って大丈夫なのだろうか・・・。
慶の波乱の種子になる訳にはいかないし、自分たちの手で支えなくてはいけない。わかるけど、
やっぱりもうちょっと慶で養生して欲しかったなぁ。他国の人間は何もしてあげられないのだと
しても、先行きが不安すぎる。このまま戴に戻っても無事でいられるとはとても思えない・・・。

王気が見えないから驍宗を探せない、使令もおらず転変して逃げる事もできず身を守る術も無い。
玉葉も言っていたけど、そんな状態でどうするのだろうな・・・。あと玉葉が言っていた事で
もう一つ気になるところ、角を失い気脈から切り離された麒麟が生き延びられる年数はわずか、
との事だったけど、十二国の世界に戻れば大丈夫なんだよね・・・?まだ生きられる・・・?
せっかく戻ってこられたのに、あと数年しか生きられないなんて事は無いよね・・・心配だ。
もうお肉を食べないといけない事も無いし、ゆっくりでも角が再生していって欲しい・・・。
でも、何度もはっきりと「失った」と書かれているから、もう再生する事は無いのかな・・・。
あと日本に居る時の泰麒が自身の喪失に気づかなかったのは、やっぱり胎果だったからなんだね。
十二国の世界に戻り、本来の麒麟の身体に戻った途端に意識を失ってしまったのが悲しかった。
少しの血の穢れでも気分が悪くなる生き物なのに、これだけの怨誼は相当つらかっただろうな。

本当に泰麒が不憫だ。李斎の言うように、何も罪を犯してないのに。日本でだってそうだった。
泰麒自身が悪い訳では無いのに、優しい仁の生き物が、あんなに疎まれて、恨まれて・・・。
一番悲しかったのは、「魔性の子」も読んで、この時のつらい経験を泰麒はきっとこの先誰にも
話さず、独りで抱え込むのだろうな・・・という事。独りで、死んでいった命を背負って生きて
いくのだと思うと・・・。それでも笑って前を向き、戴に戻った泰麒はすごすぎるな・・・。
同じ表現になってしまうけど、本当に本当に、泰麒が幸せに生きられるようになって欲しい。

泰麒が戻って目を覚ました時、あの小さい麒麟はもう居ないのだ、と景麒や李斎が喪失感を
覚えたのもせつなかった。これからその失われた時間を埋めていく事ができたら良いんだけど。
みすみす死なせるようなものだと思いながら泰麒と李斎を見送った陽子もつらかっただろうな。
ふたりともせっかく命を救う事ができたのに、もしかしたらこれが今生の別れかもしれない。
でも無力な彼らに対して、戴に対して何もしてあげられない。覿面の罪って厄介だな・・・。
一日でも早く吉報が金波宮に届きますように・・・。ラストの六太との会話も印象的で好き。
「……まず自分からなんだよな」
(中略)
「まず自分がしっかり立てないと、人を助けることもできないんだな、と思って」
 陽子が言うと、そうでもないぜ、と六太は窓に額を寄せる。
「人を助けることで、自分が立てるってこともあるからさ」
僕も誰かを助ける事で、自分もしっかり立てるようになったら良いな・・・と思う。難しいけど。

あと遵帝の故事について六太が話した際、以前国氏が変わった例として代王の話をされていた。
失道で麒麟を失い逆上し、蓬山に乱入してすべての女仙を虐殺、捨身木に火をかけたという。
めちゃくちゃだな!wこの代王は遵帝のようにその場で死んだのだろうか。それとも玉葉に
倒されたとか?いろいろと気になる。十二国記の世界の話、すべてを知る事ができたらなぁ。


以上、面白かったです。ここから続きが読めるまで、読者は19年も待たされたのだよなぁw
ホント待たせすぎだよ・・・!早く続きを読みたいな。不安もあるけど・・・。それではまた。

Web拍手

【読書感想】2020年4月4日 黄昏の岸 暁の天 上巻

はいこんばんはRM307です。読書回の今週は小野不由美作「黄昏の岸 暁の天」上巻の感想。
十二国記シリーズの第6作目、番外編では無く続編で、前回感想を書いた「魔性の子」の顛末を
十二国の世界側から描いた作品。読むのは十代の頃以来でたぶん2、3回目だと思う。この作品を
読むにはヘビーな内容の「魔性の子」も読まないといけない為、なかなか読み返せなかった。
図書館には加筆修正された新文庫版もあるけど、今週は忙しくて読む時間、長い感想を書く
時間が無かったので、持っていた上下巻に別れている講談社ホワイトハート版を読みました。



【あらすじ】
陽子が景王として登極してから二年が経った。まだ安定にはほど遠い慶東国の王宮の金波宮に、
ある日傷だらけの騎獣に乗った女性が現れた。自分も大怪我をしている彼女は劉李斎と名乗る。
戴極国の将軍の李斎は、陽子に戴を救って欲しいと懇願する。彼女の口から語られる戴の現状は
凄まじいものだった。しかし兵を向ける事はできず、慶には助けるだけの余裕が無かった――。


部分的に覚えていた箇所はあったけど、ほとんど内容を忘れていた為、新鮮な気持ちで読めた。
単に泰王驍宗、泰麒の行方がわからなくなっただけでは無く、ここまで込み入った事情があり、
偽王(正確には偽王じゃないけど便宜的に)阿選の振る舞いがここまでひどかったとは・・・。
驍宗と阿選の水面下での読み合い、これも事実だったのかな。考え抜かれていて面白いなぁ。

王を目指し、自分と並び立っていた驍宗が選ばれ、自分は選ばれなかった阿選。驍宗から玉座を
掠め取った彼はしかし、王になる事が目的にはならなかったようだ。戴を滅ぼしたいのかな。
自分を王に選ばなかったこの国など、存在しているだけでも腹立たしい・・・みたいな気持ち?
でも徹底的に滅ぼそうとするほどの意志も感じられない。何もかもがどうでも良いのかな。
怠惰な何かを感じる。どちらにしても、ひどく厄介な状況には変わりない。天命をもって玉座に
就いた王が非道な振る舞いをすれば、それは失道というかたちで天帝の裁きが下される。
しかし天命無き偽王に裁きは下らない。何だかなぁという感じだ。本当に天帝が民を想うなら、
王と麒麟を管理するだけじゃなく、こういう悪人に天罰を与えて欲しい、と思っちゃうよね。
このまま放っておいたら本当に戴が滅んでしまうよ。それは天帝の意志に反すると思うけど。
そのへんのシステムについては下巻に出てくるので、その時にまた語りたくなるかもしれない。

しかし、驍宗も泰麒も亡くなっていないから次の王も立たないし次の泰果も実らないという状況、
王と麒麟が同時に居なくなり冢宰も重症で、朝廷を束ねる者が誰も居ないという前例の無い状況
初めて読んだ時も思ったけど、どちらもめちゃくちゃ良くできているなぁ・・・すごく面白い。
本当に戴はどうする事もできない窮地に陥った。これも阿選の狙い通りだったのだろうか?

泰麒を殺そうとした阿選は、もし殺した後はどう動くつもりだったのだろう?泰麒が鳴蝕を
起こす事も予想していたとは思えないんだけど。混乱に乗じて白雉が鳴いた、驍宗が死んだと
嘘をついた訳だけど、鳴蝕の被害が無かったらこんなに上手く動けなかったんじゃないかと。
このへんはもしかしたら新作を読むと解決するのかもしれないな。読んだ時にまた触れるかも。

何より気になるのは、こんなに無茶苦茶な所業を行う彼に従う人間たちが居る事。戴は空位が
長く続いた。荒廃が少なかったとはいえ、また王が居ない時代に逆戻りして良いと思う兵士が
そんなに居るのかな?何を考えて道理に反する阿選に従い、非道の限りを尽くしているのか?
自分の行動に疑問を抱かないのか?昨日まで阿選に反旗を翻していたのに、今日になると突然
露骨な心変わりをした、李斎たちを保護した官吏たちの事も気になる。どういう事なのだろう。
陽子が洗脳と言っていたけど、これに近い事が行われているとしか思えないよね。不気味だ。
そして轍囲や驍宗の故郷が焼かれ滅ぼされたのがとても悲しい。もう取り返しがつかない。

他にも李斎に真実を教えてくれたり匿ってくれたりした官吏たちの命や、多くの戴の民の命も
そうなんだけど。本当に多くのものが犠牲になった。人々は何の罪も犯していないのに・・・。
「魔性の子」での高里と同じように、李斎も人々から逃げなければいけなかった。僕は冤罪が
大嫌いなのでつらかったな。そして右腕を失った。もう軍人が務まらないのが可哀そうだ。
ただ李斎も完全な善人では無く、遵帝の故事を知らないかもしれない景王をそそのかして戴に
兵を向けてもらおうとしていたのは意外だった。それぐらいしないと戴は永遠に救われない、
このままだと確実に滅んでしまうと思っての事だから、そう思ってしまう気持ちもわかるけど。
あと飛燕が元気になったのは良かった。あんなにぼろぼろだったのに、本当に良い騎獣だなぁ。

そして泰麒も日々その力が損なわれていった。切られた角が再生しなかったのは、食事でお肉を
食べさせられていたからだったのか・・・。この血の穢れさえ無ければ、麒麟の力が戻っていた
かもしれないと思うと・・・。でもそうしたら、使令たちがもっと早くに暴走していたのかな。
「魔性の子」の広瀬と出会う前だったから、もっとひどい状況になっていた可能性もありそう。
でも角の再生とともに記憶が戻って、十二国の世界に戻れた可能性もあるな。うーん、難しい。
使令は麒麟の気力を喰わないといけない。大きく動けば泰麒が完全に損なわれるかもしれない。
という事は、「魔性の子」では暴走した彼らの為に本当にぎりぎりのところだったのだな・・・。
日本での姿(殻)の時は麒麟の部分の喪失に気づかない、というのも厄介だ。そうだったのか。
本当に泰麒はどうしてここまでひどい事になるんだ、と悲しくなるほど過酷な境遇だ・・・。

その他に面白かったところを引用。ああ、この感覚はこうやって表現すれば良いのか!と感動。
「評価は結果を言い表したものでしかないでしょう。傑物という言葉は乍将軍の――泰王の結果に対する評価であって、泰王の内実を示す言葉ではないと思うんですが。(中略)他人と自分を比べてみても仕方ない。引き比べるのはどうしたって、他人の評価と自分の内実という比較にならないものになるに決まってるんですから」
「それが器量の差というものだと。私の考えが及ばなかった、足りなかった――どれも言葉は正しくありません。考えるきっかけがあれば、私にも分かったことでしょう。だが、私にはそのきっかけを見出すことができなかった」
それと王が崩御した際に鳴いて死ぬ白雉は、人では殺せないんだね。阿選が切りかかっても剣が
素通りしたという。興味深い。仙のように飢えて死んだりもしないのかな?不思議な生き物だ。
あと気になった新キャラ、冬官長の琅燦。少しだけしか登場してないけど魅力的な女性だった。
検索したところ新作にも登場するらしい。という事はその後生き残っていたのかな?良かった。

以上、ページ数は少なく、大きく物語が動いている訳では無いけど、終盤で李斎の語る真実に
あっと驚く面白い展開でした。下巻の感想は来月になるけど、早めに読むかも。それではまた。

Web拍手

【読書感想】2020年3月7日 魔性の子

はいこんばんはRM307です。今週は読書回、今回は小野不由美作の「魔性の子」の感想。
十二国記シリーズの実質1作目。ただファンタジー色は強くなく、怪奇、現代ホラー作品です。
読むのは十年以上ぶり2回目。内容をほとんど忘れていたけど、ヘビーだった記憶はあった。

魔性の子 十二国記 0 (新潮文庫)
小野 不由美
新潮社
2012-06-27


【あらすじ】
大学生の広瀬は、教育実習の為に母校を再訪した。そこで一人の不思議な空気をまとった生徒と
出会う。彼の名は高里。担任である広瀬の恩師の後藤によると、彼は問題児だという事だった。
ただ高里自身に問題があるのでは無い。彼は台風の目で、周りの人間が荒れるのだという。
彼をいじめた生徒が突然大怪我をしたり、命を落としたり。生徒たちは言う。「高里は祟る」。
広瀬はそんな高里に自分と同じものを感じて守ろうとするが、祟りはエスカレートしていく。
高里の内なるエゴがそうさせているのか、それとも子どもの頃の「神隠し」が原因なのか――。


終盤以外内容を忘れていたので、新鮮な気持ちで読めた。しかしストーリーは新鮮という言葉が
似つかわしくない、凄惨な内容でびっくりした。高里は祟る、過去に周囲の人間が不審な死を
遂げている。ちょっと不気味だなくらいの気持ちでいたら、高里の為を思って彼を殴った岩木が
誰かも判別できなくなるぐらいに顔がぐちゃぐちゃになって死んだり、それを責めた生徒たちが
屋上から集団自殺をしたり。その後も高里の家族や高里の祟りの事を嗅ぎつけて追い回していた
マスコミたちが獣に食い荒らされたような姿で死んだり、高里たちを非難した広瀬のアパートの
住人たちが火事で焼死したり、ついには高里の高校が倒壊して多くの犠牲者が出たり・・・。
ここまでひどい事が起きるのか・・・と小説を読んでいて久しぶりに大きな衝撃を受けた。
今回読み返すまで、アニメの「十二国記」は杉本が居るからこの作品のアニメ化はできないな、
とぼんやり考えていたけど、杉本が居なくてもこれはアニメにできないな・・・恐ろしすぎる。

何が悲しいって、あんなに良い子だった泰麒(高里)が、何一つ悪い事をしていないのに友人や
家族、そして世間の人々から糾弾されていた事。学校では腫れ物に触るような扱いを受けて、
家でも家族から存在を否定され、祟りが広まってからは世間の人々から悪意を向けられて・・・。
特に母親の豹変が一番悲しかったな。神隠しの前ではあんなに高里の事を大切に思っていて、
泰麒も会いたいと泣いていたくらいだったのに。高里を殺したいぐらい呪うようになるなんて。
僕も、僕の母親はこの世界で唯一僕を受け入れてくれる存在なので、もしも高里の母親のように
憎み疎まれるようになったりしたら、もう生きていけないくらいつらいだろうな。本当の孤独。
また、自分からは話さなかったので誰も高里の事を理解していなかったけど、ココロの中では
悲しみ、苦しみ、涙を流していた事を思うと・・・。どうしてこんなにつらい思いをしないと
いけなかったんだ、と無性に悔しい。慈悲の生き物である彼にはつらすぎる運命だよ・・・。
周りで誰かが傷つくたびに、一人死ぬたびに、自分も深く傷つく高里が可哀そうだった・・・。
そして、高里の家が留守みたいで弟も父親も学校や職場を無断で休んでいる、という会話では
思わずああ・・・とため息と、読んでいて若干めまいがした。ついに家族までが犠牲に・・・。
何も知らない野次馬の「親まで祟り殺しやがって!」という罵声が、今回一番つらかったかも。

でも正直――これを言うとあーるえむ君性格悪いなと思われそうだけど(いや今さらか)――、
高里の母親や、広瀬のアパートの住人たち、ハイエナのようなマスコミの人間たちが無残に
殺されたところは「あー良かった」と結構すっきりしてしまった。もちろんそれによって深く
ココロを痛めた高里は可哀そうだけど、恐怖と苦痛の死を遂げてしかるべきだと思ったのだ。
高校が倒壊して校長や教頭が死んだのも良かったけど、無関係な生徒たちも巻き込まれたのは
ちょっと悲しかったかな。でも正直なところ、スケールの大きさに少しぞくぞくしてしまった。

麒麟は血の穢れで弱る仁の生き物なので、蓬莱では長く生きられないとどこかに書いてあった。
高里は肉や魚を食べながらも、よく高校生まで生き続ける事ができたな。食べられないものは
無いと言っていたし、胎果の殻の姿では麒麟とは違う身体の作りになるのかな?あるいはまだ
この頃はそこまで麒麟の設定が固まっていなかったのかもしれないけど。ちょっと謎ですね。
それとなぜ泰麒の使令たちは、泰麒が被害に遭ってすぐでは無く、しばらく経ってから報復
したのだろう?廉麟の使令はすぐに攻撃をしたよね?どんな違いがあったのかわからない。
泰麒の身を守る存在なのであれば、すぐに姿を現して相手に反撃するべきだと思うんだけど。

しかしこれが第一作という事に本当にびっくりする。リアルタイムで読んでいた人は疑問だらけ
だったんじゃないかな。たとえば麒麟が王以外に膝を折らない伏線は作中で説明されていない。
ただ広瀬と読者に謎を残しただけ。高里が思い出した戴極国や蓬盧宮という十二国のワードも、
直接伏線や謎を解くキーにはなっていないし。いずれもこの作品だけでは回収されない部分。
読者にもちゃんと説明しない、本当に十二国の世界から帰ってきた高里にしか意味がわからない
作りになっているのがめちゃくちゃすごい。商業作品でこんな事をやっちゃえるんだな・・・。
当時は読者からどういう評価を受けていたのだろうな。まとめているサイトとか無いかな?
「未回収だけどこれは伏線だったのか?」という疑問点とどう向き合っていたのか気になる。

あと今回初めてWikipediaのページを開いたのだけど、十二国記シリーズを書く予定があって
この作品が書かれた訳では無く、十二国の設定はただこの作品の為だけに考えられたらしい!
じゃあ余計に作中でぜんぶ説明するべきじゃん!それをしないってものすごい勇気じゃない?
もしかしたら十二国記シリーズは世に出なかった可能性もあって、その場合はただただ読者に
謎を残しただけで終わった訳で、ますますそんな事をできるなんてすごいな・・・と驚いた。
ある意味不死鳥先生と似ているタイプなのかも。不死鳥先生の構築する世界観もすごかった。

他にも上手いなぁと思ったところは、人は汚い生き物だ、エゴは醜いというテーマが描かれ、
てっきり高里にも適用されるものだと思って読んでいたら、高里は麒麟であり人では無かった、
という流れ。ここも初見だと見破れない気がする。ちょっとずるいような気もするけど・・・w

ただ違和感のあるところもあって、たとえば理科室のメンバーの岩木が死んだ後も、メンバーが
集って岩木の軽口を叩いたり談笑できたりする事。高校生を子ども扱いしている訳では無いけど、
普通はもっとショックを受けそうなものじゃない?見知った顔が突然、しかもあんなかたちで
死んだりしたら一生物のトラウマのような気がするけど・・・。屋上からの集団自殺後も同様。
鋼メンタルだ。まぁ創作だから良いんだけど、ちょっとリアルじゃないように感じてしまった。

でも橋上は良いな。高里の元に殺到する逆上した生徒たちを守るシーンはカッコ良かった。
あと十時先生。事情を知っていながら自分の部屋に広瀬と高里をかくまってくれたのがすごい。
もしバレたら自分も世間から非難されるかもしれないのに、勇気があるなぁ。僕にはできない。
後藤先生も好き。こういう大人って良いよなぁ。これからも広瀬との交流が続いていくと良いな。
ちなみにこの十時先生、養護教諭だから女性だと思っていたら、男性でちょっとがっかりしたw
ずっと敬語だったし、最後になって「彼」って書いてあるんだもの。勘違いしちゃったよ!w

後藤先生の広瀬への言葉はぐさぐさ刺さったなぁ。こことラストが僕にとって重かったのだ。
現実世界に馴染めず、広瀬が帰りたがっていた夢の中の世界。後藤はそれをおとぎ話だと言う。
誰でもこの世界から逃げたい、自分の為の世界へ戻りたいと思う。でもそんなものは無いのだと
はっきり否定する。人は現実の中で生きていかないといけない、どこかで折り合いをつけないと
いけない、いつかは切り捨てないといけないのだと広瀬を諭す。「それは広瀬にとって恐ろしい
科白だった」という地の文があるけど、それは僕にとっても聞きたくない、耳の痛い言葉だ。
僕もネットの世界に入り浸り、重きを置いているのは、現実世界から逃げる為でもあるからね。
不覚にも涙を流す広瀬がせつない。でも、後藤先生の「広瀬。俺たちを拒まないでくれ」という
セリフは良いなぁ。広瀬の事を大切に思っているんだよね。でも、やっぱりその言葉は刺さる。

その後、高里の過去が明らかになりそうになっても、広瀬は彼にそれを伝える事ができなかった。
そして伝えた後も、十二国の世界へ戻ろうとした高里を前に自分が追い詰められているような
感覚がしたり、自分が置いていかれる不安から引き止めたりしようとするところが悲しいなぁ。
「俺を置いていくのか」と高里にすがる広瀬の姿を見るのも、覚えてはいたけどつらかった。
高里がいくら迫害されようと、日本中が敵だらけになろうと、彼を守ってきた。でも最後に、
彼が選ばれ、自分が選ばれなかった時、彼だけが戻り、自分だけが戻れないとわかった時、
汚いエゴが表出した。なんて悲しいのだろう。最後の最後に回収されてしまうのがキツい。
広瀬もつらいだろうけど、高里もとてもつらいだろうなぁ・・・。唯一の理解者だったから。
でも文中に汚いと書いてあるけど、それが人なんだ・・・広瀬を責める事はできないよ・・・。
広瀬にとっても高里は唯一の理解者だと思っていたのだ。どちらの気持ちも考えると・・・。
何となくは覚えていたけど、ここまで痛みを伴うシーンだとは思わなかったな。苦しかった。

一番好きなシーンは、広瀬と高里がふたりでロライマ山での隠遁生活の計画を練るところ。
どこかで夢物語だとわかりながら、幸せそうに想像している様子がとても良く、そしてせつない。
ラストシーンで、広瀬の耳に高里の「――山に……ってください」という叫びが聴こえる。
そこで広瀬の足取りがたしかになるのも良い。広瀬はロライマ山へ行く事ができたのだろうか。

メディアに槍玉に挙げられ、広瀬はその後どういう人生を歩んだのだろうととても気になる。
大学には戻れたのか、それとも辞めて、高里の考えていたような生活を送ったのだろうか。
とてもじゃないけど平穏無事に元の生活に戻れたとは思えない。今度は孤独な戦いだな・・・。
隠遁生活を送っているのか、それとも幸せに生きる事ができたのだろうか。知りたいな・・・。
かつてみた甘い夢の世界に帰りたいと望んでいた広瀬が、この現実世界でたしかなものを得て、
前向きに生きる事ができていますように。それは広瀬に自分自身を重ねている僕の祈りなのだ。
本当に幸せでいて欲しいと思う。それが、僕を含めた異端者たちの希望にもなっているはず。

僕自身も、いつか自分の幸せをつかむ事ができるようになるのだろうか。見通しは立たない。
それでも、後藤先生の言うように現実世界で生きていくしかないのだ・・・しんどいなぁ・・・。
もう生きるのがしんどい・・・明日さえも生きたくない。あと何十年これが続くんだろう・・・。
高里のように別世界には戻れない。広瀬のように前にも進めない。僕はどこへも行けない・・・。


以上、内容を忘れていた事もあって、シリーズの中では一番の衝撃だった。面白かったです。
しかし王が蝕で渡るとここまでの被害が出るものだとは・・・。でも、こちらを先に読んだ事で
次回の「黄昏の岸 暁の天」をより理解しやすくなったと思うので良かった。それではまた。

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RM307

新都社でFAや漫画を描いたり読んだりしています。
このブログでは読んだ作品、作った料理の感想を掲載しています。
2016~2021年は毎週更新、2022年以降は基本的には月2回更新です。
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